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文化+/台湾の映画館、ライブ映像上映で商機 VRでアイドルとの距離、より近く<文化+>

2025/06/27 17:52

映画館の魅力は何ものにも代えがたい。だが、動画配信サービスが当たり前になった今の時代、終映から1カ月も待てば、自宅でソファに寝転びながら、気になる映画を見られるようになった。映画館にはまだ存在意義があるのだろうか。

台湾の映画館チェーン4強の一つ、威秀影城のシニアPRマネジャー、李光爵さんはこの問いに対し、「『アベンジャーズ/エンドゲーム』(※)が来週上映されるとすれば、ヒットするでしょうか」と問い返す。映画は映画館を支える骨幹であり、時、場所、人といった偶然も欠かせない要素だ。

※2019年公開の米スーパーヒーロー映画。マーベル・スタジオが製作し、全世界で人気を博す「アベンジャーズ」シリーズの4作目で、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の区切りとなる作品。

全世界でヒットを生むMCUが今後どこに向かうのか明確でないことや、新型コロナウイルスの流行、ハリウッドでのストライキ、コロナによる視聴習慣の変化、アフターコロナでのエンターテインメントの選択肢の増加などはいずれも映画館の存在意義を揺るがしている。

娯楽に使えるお金が変わらない中で、消費者の選択肢は増加した。そこで映画館はファン経済やコミュニティー経済の効果を拡大させることが必要になった。李さんは劇場版「進撃の巨人」や劇場版「名探偵コナン」を例に挙げる。これらの作品はファンにターゲットを絞った作品で、興行収入も突出している。「映画館がファン経済とソーシャル経済の需要を満たすことができるかどうかが、台湾では最も重要な二つの方向性です」と李さんは語る。

威秀影城のシニアPRマネジャー、李光爵さん(撮影:裴禛)
威秀影城のシニアPRマネジャー、李光爵さん(撮影:裴禛)

▽ 映画館の多角化経営 早くも2011年から

威秀は新型コロナや動画配信サービスの台頭より前に、映画以外の上映に活路を見いだしていた。2011年に日本のロックバンド「ラルク・アン・シエル」のコンサートを生中継したのを皮切りに、数年の間にAKB48総選挙やエグザイル、福山雅治、バーチャルシンガー「初音ミク」のコンサートのライブビューイングなどを相次いで実施した。現在でも韓国や日本など海外アーティストのコンサートや演劇のライブビューイングまたはライブ映像上映を数多く行っている。

コンサート映画には一定規模の経済効果もある。威秀のコンサート関連の上映による売上は今年上半期で1億台湾元(約5億円)を突破した。「もちろん、この数字は全体の興行収入と比べると小さな比率です。ただ、上映スクリーンや回数が限られる中で、座席稼働率は良好です」と李さん。観客のリピート率も高く、同一のコンサートを26回も見に来た人もいたという。

▽ 進化するコンサート VRで“最前列以上の近さ”に

威秀は今年1月、韓国の5人組グループ「TOMORROW X TOGETHER」のVR(仮想現実)コンサート「HYPERFOCUS 」を上映し、これは台湾で初めて上映されたVRコンサートとなった。その鑑賞体験はまるで手が届くかのような“最前列以上の近さ”といっても過言でないものだったという。李さんはVRコンサートを体験した感想について、「私みたいな、女性の心が分からない男が見ても『照れる』と思ったとしか言えません」と笑ってみせた。台湾での上映は世界で最高の座席稼働率をたたき出し、興行収入は3000万元(約1億5000万円)以上に達したという。

ただ、コンサート映画やライブビューイングには制限もある。上映権の交渉や宣伝手法などはその一部だ。そして、コンサートを開く歌手がいても、映画化やライブビューイングを認めるかは歌手サイドの裁量であり、映画館側がコントロールすることはできない。威秀は台湾の歌手やバンドにライブビューイングの話を持ちかけることを考えたこともある。だが映画化やライブビューイングなどに対するレコード会社やマネジメント会社の考え方は依然として保守的で、ライブビューイング実施による今後のコンサートの興行への影響を懸念する声もあったと李さんは明かした。

▽ 代替の効かない「一体感」を生み出す

李さんは「映画館の新たなサービスで、できるだけこれまで考えられてこなかったようなファン経済まで手を広げたい」と意気込む。2019年には台湾の劇団と手を組み、舞台を上演した他、昨年には南部・高雄市で活動する地下アイドルとコラボレーションし、「映画館公演」を開催した。

映画館の存在価値を尋ねられると、李さんは笑ってみせた後、「それはたぶん一体感でしょう」と答えた。台湾では6月下旬に「名探偵コナン 隻眼の残像」が公開される。「コナンのテーマソングが流れると、客席全体がすぐに泡の中に入るような、不思議な没入感が生まれます。『アベンジャーズ/エンドゲーム』の時も、キャプテン・アメリカがソーのハンマーを持ち上げた時、客席からは揺れるような拍手が沸き起こりました。これは複製できないものです」と李さんは力説する。

「このような一体感は後に続く物語のピークを予感させるものでもあります」とし、「これは映画館という特殊なブラックボックスでこそ味わえるもので、みんなが同じ周波数に居られるのです」

「上映は終了しました。退席してください」。スタッフの呼びかけとともに、照明が明るくなり、分厚い防音扉が開かれる。そして、観客たちはまた、時空と感情のワームホールから現実に連れ戻されることになる。この時、上映が終わったのは映画ではなく、コンサートや舞台かもしれない。ただ、変わらないのは、このブラックボックスの中で100人余りが一緒に呼吸をし、笑い、涙を流したということ。この一体感は何ものにも取って代えられないものなのだ。

(王心妤/編集:名切千絵)

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