2010年放送の台湾ドラマ「結婚って、幸せですか」(犀利人妻)で人気俳優の仲間入りを果たしたウェン・シェンハオ(温昇豪)。芸能界入りしてから20年余り。現在は俳優の身分から飛び出して、エグゼクティブプロデューサーに挑戦している。目標は台湾ドラマを世界に羽ばたかせることだ。
モデル、司会者などを経て「俳優」として大きな人気を獲得したシェンハオ。「台湾でアイドルドラマ最盛期の終電に乗れた。自分はこの産業に守られてきた人だと思う。私には今、影響力がある。だからドラマ産業のために何かしたい」。その思いから、作品の成功・失敗を背負うエグゼクティブプロデューサーへの挑戦を決めた。
「この業界に入ってから二十数年。(作品の)最初から最後までの段階を模索してみたい。そうしてこそ、この産業を徹底的に理解できる」。シェンハオは熱いまなざしで語る。だが、実際にやってみると、予想と異なることがたくさんあった。「実際に厨房に入って初めて、厨房がとても汚く、暑いことに気付いた」。これは準備を進める新作ドラマ「整形過後」で感じたことだ。
▽役者の役割では知らなかったことを改めて知る
「役者はこの業界では最も末端で、選ばれる存在」とシェンハオ。だが、役割が「乙」から「甲」に変わっても、同様に「妥協」と「選ばれること」が必要になる。最も調整が必要だったのは心持ちだ。これは役者として作品に参加する時には全く知らなかったことだと語る。
例えば、心の中に「理想の出演者リスト」があっても、全ての俳優がオファーを受けてくれるとは限らない。「時にはお願いに行くこともある。誰かに頼みに行くと、断られるリスクに直面するかもしれない。メンツを捨てられるかという問題もある」。だが、これは一つの作品を作る上では最も小さな部分だ。その後にも投資金額や露出させるプラットフォームなどといったさまざまな挑戦が待ち構える。
役者の経験があるから、撮影の流れは把握している。「彼ら(役者)の立場から考えることができる。何を考えているか分かるから、できるだけ希望に沿えるようにする。でもそんな中でも出資者に対して責任を負わなければならない」。制作チームと出資者の間に立つ中で、シェンハオは「完全に自分の自由意志を貫徹できるわけではない。役者の時よりももっとみんなと円満でなければならない」と学んだ。
▽エンタメ産業への投資はばくちのよう
出資者を前に、シェンハオは現実の財務諸表で「お金を出すオジサマ方」を教育している。エンタメ産業は何でもありで、売上高や利益を正確に予測することはできない。全てにおいて変数がとても大きい。「輝かしい財務諸表を見せるより、『この作品では損失を出すかもしれない』と出資者には言い続けている」。もちろん出資者からは「損失になるならなぜ作品を作るんだ」と言われるが、シェンハオはこれこそが出資者を教育する意味だと断言する。
通常、投資者が目を向けるのは輝かしい一面だ。「ある作品が大ヒットするのを見る時、その背後では100作品が赤字になっているのは見えていない。みんなが覚えているのはヒットした数作品だけ。私が出演した10作品のうち、ヒットしたのは実はおそらく2、3作品だけで、残りの7、8作品はぱっとしなかった」。出資者とのやりとりがいちばん大変で難しい部分だとシェンハオは明かす。
▽処女作「整形過後」 身銭を切ってリスクを負う
エグゼクティブプロデューサーへの挑戦で、最初はかなり楽観的だったと語るシェンハオ。だが、脚本の企画から予算を組むまでに3年もの月日がかかるとは予想していなかった。「投資家たちからは『一つの項目に3年余りもかかって、それで利益が出ない可能性もあるなんて、投資利益率が低すぎる』と言われた」。でもシェンハオは「先が見えない」という苦境から出口につながる道を見つけた。
「今の製作予算は台湾では回収しきれない。だから海外に作品を売るしかない」。しかし、シェンハオ自身もそれが達成できるかは分からない。賭けてみるしかないのだ。「私も出資者。私のリスクも他の投資者に劣らない。金額が彼らより少ないということはないのだから」。
▽ある人は家を傾け、ある人は名利を得る
シェンハオは芸能界で肩書を変えつつも、メディアでの注目度維持に尽力し、「役者」の身分も捨てていない。重心を製作に少しずつ移してはいるが「この情熱がいつまで続くかは分からない。私の前にはたくさんの先人の戒めがある。ある人は家を傾かせ、一方である人は名声も富も得た。自分がどっちに転ぶかは分からない」と話す。
「整形過後」は今年放送・配信予定だ。シェンハオはすでに「役者思考」を切り替えたと話す。国際動画配信プラットフォームとの交渉も待ち構える。「最後に名利を得るかどうかにかかわらず、私は業界で名声を得るかもしれないし、情熱が市場にすり減らされるかもしれない。でも私は夢を紡ぐのが好きな人間なのです」