ハーブ由来の独特な香りが漂う炭酸飲料「黒松沙士」は、一部では“台湾のコーラ”と呼ばれるほど、台湾人の生活に根差した飲み物だ。製造・販売する黒松は今年、創業から100年の節目を迎えた。中央社の取材に応じた同社の張斌堂董事長(会長)は、次の100年を見据えて「三つの戦略」を立てたと語る。
若者世代と黒松沙士の間の隔たりを克服するため、人々の生活に入り込むことが大事だと考えた張氏。これまで、有名な道教廟とのコラボレーション缶飲料やポップコーン味の黒松沙士、黒松沙士味のアイスキャンデーなど話題性のある商品を販売し、まずまずの反響を呼んだと紹介した。
台湾の人口はわずか2300万人余りだが、飲料業界は過度に細分化されている。張氏は、消費者は飲み物を買うためにコンビニに向かう途中に、路面のドリンク店に客を取られてしまう上に、そのコンビニでさえも入れたてのコーヒーや茶を販売しており、隠れたライバルなのだと語る。
この細分化された飲料市場に立ち向かうために、張氏はボトルや缶の飲料だけでなく、消費全体に着目する必要があると強調する。フレキシブルな生産方式を整備すれば市場の変化に合わせて季節限定商品などを打ち出せるとし、コストはかかるものの同社としても検証を続けているとした。
梅酒メーカーのチョーヤやキリンビールなど、複数の海外酒類メーカーと代理販売の契約を結んでいる黒松。第2の戦略は「代理の超越」だという。代理の超越とは黒松が2019年に打ち出した方針で、単なる代理販売という枠を超え、自社ブランドのような愛着を持って代理販売する商品を育てていくという考え方だ。
張氏は、今後3~5年で最も発展する事業は酒の代理販売だろうとした上で「代理販売は長くは持ちません。結局は自分たちのブランドではないので、業績が悪ければ取って代わられてしまいます」と話す。だからこそ、長く持たせるために代理の超越が必要なのだという。
同社で2015年に全体の21%だった酒類の売り上げは、24年には49%にまで飛躍した。一方で張氏は、アルコールとソフトドリンクが相互に補完し合うことを望んでおり、本業のソフトドリンクの売り上げが下がることは望ましくないと話した。
第3の戦略は「販売の進化」。黒松は各地に約8000台の自動販売機を展開しており、これは台湾で2番目の規模だという。同社にとって消費者と直接つながれる唯一の販路でもある。「今後重要になるのは、自販機の台数ではありません」とする張氏は、近年はネットワーク接続機能の開発と導入による効果に注目し始めていると明かす。
「販売の進化」には高齢化社会への対応という意義も込められている。これまでは食品の安全や、“飲んで楽しい”ことに注力していたというが「2年前にビジョンを変え、超高齢社会の到来に伴って『健康』の要素を取り入れ始めました」と語り、とろみを加えるなど高齢者の飲みやすさに配慮した商品の開発も視野に入れていると紹介した。
数々の革新的なアイデアを紹介した張氏。「私たちが“次の100年”と言う時、こうした視点から捉えるべきなのです。時代は変わるもので、そこには多くの可能性が秘められているのです」と語る。
「私はとてもワクワクしています」と張氏は続ける。台湾の飲料業界で初の百年企業として、こうした革新の試みを単なる市場への対応にとどまらせず、「安心な食品、健康、楽しさ」という次の100年のビジョンにつなげたいと話した。