(台北 15日 中央社)ゲーム、アニメ、映画のキャラクターデザインなど幅広い分野で活躍し、日本だけでなく海外でも高い人気を誇るイラストレーター・漫画家の寺田克也さんの台湾初個展が4日、台北市内のギャラリーで始まった。寺田さんがアジアで個展を開くのは日本を除き初めて。開催に合わせて台湾を訪れた寺田氏に話を聞いた。
▽台湾は「ずっと行ってみたい国」だった
「今回はいい機会を頂いた。台湾はずっと行ってみたい国だった」と台湾での個展開催に喜びの表情を見せた寺田さん。初日にはサイン会に加え、来場者の前で作品を描く「ライブドローイング」を行った。台湾の「台」の字をロゴ化して作品に取り入れるなど、台湾ならではのファンサービスも見られた。
また、「天才」「鬼才」などと呼ばれることもある寺田さんだが、イベントでは、ファンやギャラリーのスタッフとも気さくに会話を交わすなど、記者が持っていたイメージはいい意味で裏切られた。
寺田さんは個展について、開催の「原動力」は主張することではなく、「来てくれた人に楽しんでもらいたい」という思いだと語る。個展やライブドローイングなどは全て、ファンを対象にした「エンターテインメント」と考えているという。
そうした思いが通じているのか、今回の個展でも寺田さんが生み出す作品に、台湾のファンが目を輝かせながら見入る様子が見られたほか、長年憧れていた寺田さんとの対面に興奮を隠せないファンも少なからずいた。
これまで絵を描く上で信じてきたものは「カッコイイ」だと力説する寺田さん。「世界中で自分だけがカッコイイと言っていると恥ずかしいけど、一つの国に一人は(自分の作品を)カッコイイと思ってくれる人がいる」と信じてきたと述べた。
寺田さんにとって、ファンと接する機会が持てる個展やイベントは、「自分の価値観が伝わっていると実感できる場所」であり、それは自身にとって拠り所になっていると語った。
この日来場した台湾人女性は、寺田さんの作品の魅力を「桁外れ」と形容しており、寺田さんが生み出した「カッコイイ」は、海を隔てた台湾でも確かに共有されていた。
台湾のファンからは「他にはない画風が魅力」だという意見も聞かれた。寺田さんは「そうでもない」とこれを否定しつつも、「ただ、真似と思われる恐怖は心の中に持っている」と明かした。
その上で、作品をつくる際には「影響の受け方が大切」で、「カッコイイ」と思ったものをそのまま描くのではなく、自分が「なぜそう感じたのか」に素直に寄り添っていくべきだと持論を語り、今の自分があるのは、そうした「『カッコイイ』を抽出して自分のものにする作業」を時間をかけてやってきたからだと振り返った。
今後の目標は「もっとカッコよくなること」。寺田さんは、作品を「頭で思い描いたものにできるだけ近づけることを目指しているが、全然達していない」と貪欲だが、一方で、50歳を超えて「フィジカル(肉体)の衰えを実感している」と明かす。
「絵は8割がフィジカル」だと考える寺田さんにとって、自身が「100%カッコイイ」と思う浮世絵師・葛飾北斎が、晩年でも衰えを感じさせない「みずみずしさ」と「力強さ」のある絵を描いていたことは「自分もそこにいけるのか」という“絶望”であると同時に、「そこに到達した人がいた」という“希望”でもあるという。
その上で、「北斎を超える年齢まで絵を描き続けたい」と意気込みを語った寺田さん。今後、自分が後に続く人たちに勇気を与えられるような存在になれればと静かに述べた。
(杉野浩司)