(台北中央社)「ニーハオ」ではなく「リーホー」。ある平日の夜に国立台湾師範大学(台北市)の教室を訪れると、台湾で最も広く話されている中国語(台湾華語)ではなく、あえて「台湾語」を学ぶ日本人たちの姿があった。その背景には「台湾語文学」を世界に発信したいと願う研究者の思いがあった。
取材に訪れた6月1日は、同大台湾語学科(台湾語文学系)などが主催する「日本人向けの台湾語勉強会」春季班の最終回が行われていた。講師を務めるのは大学生や大学院生で、勉強会は学生が将来、台湾語教師になるための実習の場にもなっている。
前半は全7回の勉強会の総復習として、これまでに学習したテキストのおさらい。これも学生が考えたものだといい、日台にルーツを持つ女子学生と台湾人の男子学生のラブストーリー仕立てとなっていたのが印象的だった。他にも、台湾各地の地名や名物が盛り込まれた手作りのボードゲームをプレーしたり、台湾語の楽曲を繰り返し歌ったりして学びを深めていた。
この勉強会の立役者と言えるのが、同学科の呂美親准教授だ。台湾では異なる時代の言語政策によって、ある時は日本語が、ある時は中国語が「国語」とされ、台湾語は長く抑圧されてきた。文学も同様の状況にあり、今でも書店に並ぶ文学作品の大多数は中国語で書かれている。だが呂さんは、台湾語文学こそが「最も深い台湾文化が伝わる文学」だと語り、それを世界に発信していきたいと考えているという。
呂さんは2023年に台湾語文学の翻訳をテーマにしたワークショップを開催。その中で、まず台湾語を読める外国人を増やす必要があるとの考えに至った。自身が一橋大学に留学していた経験に加え、日本では台湾研究が盛んなことから、まずは日本語圏に目を向けた。24年には日本人向けの集中講義を企画し、継続的な学習の場として勉強会も立ち上げた。
実際に台湾語ができる外国人を育て、翻訳書の出版につなげるまでの道のりは遠い。だが呂さんは、この2年間で「種をまいた」とし、今後、日本やその他の国々の人がより台湾語に注目してくれればと期待を寄せた。
受講生の一人で、文化交流に携わる仕事をしているという大内洸太さんは「言語面から台湾文化をより深く知りたい」と考え、台湾語の学習を始めたという。台湾の人々と会話する際、台湾語のフレーズを少し挟むだけで距離が近づくように感じると台湾語の魅力を口にした。
受講生が台湾語を学ぶきっかけは他にもある。台湾の研究機関に所属する都留俊太郎さんは、以前に農村部で聞き取り調査を行った際、台湾語が必要となった。すでに会話は問題ないレベルだが、勉強会では文法や表記法を系統立てて学べているという。また北部・新北市の大学で日本語や英語を教えている下元宏展さんは「そこに台湾語があるから」と話し、台湾でしか本格的に学ぶ機会が少ない言語であることも学習を続ける理由の一つだと語った。
勉強会で講師を務めた学生は、台湾語を学ぶ外国人がいることを知った時は「意外で、嬉しかった」と明かした。将来、教職に就いた時には「外国人も学びたいと思っている言語なのだから、台湾人も台湾語を取り戻していけるはず」と子どもたちに伝えたいと話した。
呂さんによると、勉強会は今後も継続して開く他、今年秋には集中講義も開催する予定だという。
▽ 台湾語
1945年以前から台湾で話されていた「本土言語」のうちの一つ。閩南語、河洛語、福佬語などとも呼ばれる。主に中国の福建などから移り住んできた人々やその子孫が母語としているが、長年にわたる「国語政策」で抑圧されていた。2018年には、台湾語を含む各言語の平等化と発展を目指す「国家言語発展法」が成立し、関連の政策が進められている。
(田中宏樹)

