(台北中央社)台北市内にある名門校の一つ、台湾師範大学。日本統治時代のエリート養成校で、李登輝(りとうき)元総統を輩出した台北高等学校(台高)があった場所に第2次世界大戦後に設立された。校内には日本時代に建設された校舎が複数残る。建て替えが計画されながらも、有志の取り組みで解体を免れた校舎もあり、普段は語られることのない、一つ一つの建物の歴史や物語を学生らに伝える取り組みも行われている。
▽歴史ある赤れんがの校舎
台高は1922(大正11)年、台湾総督府高等学校として開校。26年に現在地に移転し、27年に台湾総督府台北高等学校と改称された。第2次世界大戦後の45年に台湾省立台北高級中学に再度改称し、49年に最後の卒業生を送り出した後、閉校した。その土地を引き継ぐ形で46年に創立されたのが台湾省立師範学院で、大量の教員が必要となっていた当時、教員育成校として誕生した。55年に台湾省立師範大学、67年に台湾師範大学に改称され、現在に至る。
日本統治時代に建設された校舎で最も古いものは、26年3月に完成した普通教室(現普字楼)と生徒控所(現文薈庁)。28年完成の本館(現行政大楼)、29年完成の講堂(現礼堂)と共に赤れんがの外観が特徴で、華やかさがありながらも落ち着きが感じられる。本館や普通教室は戦後一部が増築されたが、増築部も既存部の外観と似せたデザインになっており、日本統治時代からの雰囲気が今も保たれている。
2003年には生徒控所と本館の一部を含む複数の校舎を解体し、新しいビルに建て直す計画が持ち上がったが、文化的価値がある建物の保存を訴える学生や教員らが反対運動を展開。台北市政府が日本統治時代に建設された4棟を市定古跡に指定したことで計画が撤回された。いずれの建物も現役で利用されており、師範大のシンボル的存在として学生や教職員らに親しまれている。
▽歴史を伝える取り組み
そんな歴史と特徴のある校舎への認識を深めてもらおうと、今年70周年を迎えた文学部と地理学科では11月から12月にかけ、学生ガイドが案内する校内ツアーを開催。ガイド育成のため、地理学科の洪致文教授による特別授業が開かれた他、貴重な資料や写真を収めたガイドブックも作成された。現存する校舎だけでなく、解体された校舎に関する解説もあり、充実した内容だ。
11月17日に行われたツアーには学校関係者や職員らが参加した。校内を歩きながらガイドとなった学生がグループごとに校舎の歴史や物語を解説・紹介し、学習や特訓の成果を披露した。時折小雨が降る中、緊張した面持ちの学生もいたが、ガイドブックや資料を用いるなど工夫を凝らしながら建物の特徴や魅力を伝えた。
師範大職員の女性は、「普段慣れ親しんでいる校舎だけれど、初めて知ることもあった」と話す。今回ガイド役を務めた地理学科3年の呉昇燁さんは、古い建物に興味があり、特別授業に参加。「どの建物にもその背後に本質があり、学校に対する帰属意識も高まった。師範大を知らない人にも詳しく紹介できるようになった」と笑顔で語った。
洪教授によると、ガイドブックや学生たちがガイドのためにまとめた原稿などは校内資料館の校史館に提供し、活用される見通しだという。
▽貴重な資料が残る校史館
校史館は師範大図書館の8階にある。台高時代から現在に至るまでの歩みを紹介している。学生服や校長室で利用されていたテーブル・椅子、校内誌、台高で美術教師を務め、台湾美術界の発展に貢献した塩月桃甫の作品なども展示されている。第2次世界大戦後に台高の卒業生から寄贈された資料もある。
1階のカウンターで入館証を受け取れば、旅行者でも見学が可能だ。校史館の関係者は、父親や祖父が台高の卒業生だったという日本人旅行者も来訪するとして「日本の皆さんの来訪を歓迎します」と語っている。
(齊藤啓介)






