台湾原住民(先住民)族パイワン族のグループが9月、フランス・パリの国立東洋言語文化学院(INALCO)で行われたシンポジウムに参加し、20年の歳月を費やして受け継いだ民謡を披露した。メンバーはまず普段着で登場し、その後、民族衣装に着替えて歌唱を行った。これには主催者の特別な思いがあるという。
INALCOは南部・高雄市の高雄師範大学原住民族知識研究センターと合同で、9月29~30日に「台湾・マダガスカル オーストロネシア語教育・文化知識発展シンポジウム」を開催。南部・屏東県の佳興集落で暮らすパイワン族の女性9人が、「普楽地文化資産伝承保護協会」を代表して出席した。
協会の代表を務めるイディス・サディラパンさんは、披露する民謡は20年前には社会の変遷により失われかけていたものだと説明。言葉に宿る文化の力を取り戻すために集落の人々がチームを組み、お年寄りに少しずつ教わったと話した。
イディスさんは「木の下や川辺、時には山の中が私たちの民謡教室になります。お年寄りがいる場所に行き、教えを請います。20年間、民謡や文化の復興に取り組んできました。おかげで、今では結婚式や民族儀式で、録音に頼らず、自分たちの声で歌えるようになったのです」と語った。
シンポジウムの主催者の一人で、INALCOで台湾学研究の責任者を務める劉展岳さんは、歌唱の場を正式な舞台ではなく、学内の一角に設けた。これは、パリの人々が抱く「遠い異国への想像」を打ち破り、民謡が人を楽しませるパフォーマンスではなく、人々の生活に根ざしたものであることを伝えるためだという。イディスさんら9人に対しても、まずは普段着で登場し、説明を終えた後に伝統衣装へ着替えてから歌唱に臨むよう求めた。
劉さんは「着替えという行為を通じ、目の前で行われている歌唱は一種の『儀式』であることを、人々に気づいてほしいのです」と語る。説明から歌唱までの約10分間の待ち時間は、シンポジウムの参加者にとって、期待を募らせる時間にもなった。
9人は結婚式で歌われる曲「太陽の娘」を披露した。本来であれば1カ月かけて歌われるという新婦への祝福の儀式を、1時間に凝縮して歌った。
歌詞は、一人の女性の人生を物語風に描いている。新婦の家族や美しさをたたえつつ、嫁ぐ女性に対し「社会的な価値や責任を忘れないように」と諭し、「どれほど遠くへ嫁いでも、家族は常にあなたを支えている」と伝える。
シンポジウムの参加者、カトリーヌさんは中央社の取材に対し、「私たちは話す言葉は違うが、音楽と舞踊を通じて出会うことができた」と語った。
INALCOでマダガスカル語を教える教授は、民謡を聞いて「まるで故郷に帰ったようだった」という。踊りのリズムやステップ、歌詞のイメージなど、台湾とマダガスカルのオーストロネシア文化には多くの共通点があったとした上で「パイワン語は理解できなくても、民謡が現実の中でどう表現されているのか、大まかに分かった」と話した。
イディスさんは中央社のインタビューに応じた際、パイワン族には「空に覆われた地」という言葉があると紹介。先祖が「世界の大きさは?」と問われた際、「太陽が空で照らしているだけの場所の大きさ」と答えたことが由来だという。
イディスさんは、佳興集落は小さいが、世界は大きいと語る。「そんな私たちが『空に覆われた地』で歌えるのは、先祖が私たちに誇りや気概をくれ、私たちを空の下へと導いてくれたおかげなのです」。
さらに、「文化継承に携わる中で最も美しいのは、長老たちの口から語られる感情や物語を、次の世代へ渡していくことです。文化は消えてはならないものです。一度でも存在したものは、世界のどこにあっても尊ばれるべきだからです」と思いを述べた。
