華人・華語映画の祭典「第62回ゴールデン・ホース・アワード」(金馬奨)授賞式が22日、台北流行音楽センター(台北市)で華やかに開かれた。華語映画界で最も権威のある映画賞の一つとされる金馬奨。今年の授賞式とレッドカーペット、授賞式に先駆けて開かれた台北金馬映画祭の主なトピックスを紹介する。
▽ 劇映画作品賞は白色テロ描く「大濛」が受賞 最多4冠を制する
最も注目される劇映画作品賞にはチェン・ユーシュン(陳玉勳)監督の「大濛」(A Foggy Tale)が選ばれた。同作は、国民党政権による思想や言論の弾圧「白色テロ」が行われた民国40年代(1951~60年)を背景に、庶民の物語を描いた。白色テロを描きつつも非難に流れず、激動の時代での優しさや勇気を記録したことが評価された。
エグゼクティブプロデューサーを務めたイエ・ルーフェン(葉如芬)は「1950年代の物語を撮るなんて狂っている」と投資家から言われたと明かし、「どの時代であっても困難な環境に直面する。でも人は善良で美しい心を持ち続けることができる。その思いを伝えたかった」と話した。
同作は脚本賞、美術賞、メーキャップ・衣装デザイン賞も受賞した。
▽ 主演賞はチャン・チェン&ファン・ビンビンが受賞
主演男優賞は台湾のチャン・チェン(張震)が「ラッキー・ルー(仮)」(幸福之路)で、主演女優賞は中国のファン・ビンビン(范冰冰)が「母なる大地」(地母)で受賞した。
チェンの受賞は2021年(The Soul:繋がれる魂)に続き2度目。米ニューヨークの底辺移民を題材にした「ラッキー・ルー」では、家族と再び一緒に暮らすという希望を胸に奮闘する中国人配達員のルー(盧家成)を演じた。
チェンは「非常にリラックスして演じられた」と話し、「ニューヨークにいた2カ月、私は『盧家成』そのものだった。全身全霊で役に入り込んでいた」と振り返った。また「(俳優デビューした)13歳から今まで、ずっと映画を信じ、愛してきた。この賞を映画を愛する皆さんにささげる。皆さんが映画を続けられ、私もずっと続けられることを願っている」と語った。
ビンビンは2度目のノミネートで初受賞を果たした。ビンビンは来場しなかったが、チョン・キット・アン(張吉安)監督と通話する形で、時折声を詰まらせながら受賞スピーチを行った。
ビンビンは1990年代末のマレーシア北部の農村地帯を舞台にしたマレーシア映画「母なる大地」で、呪術を用いて病に苦しむ村人たちを助ける未亡人を演じた。同作で美貌を封印したビンビンは役について話し合っていた際に、チョン監督から「顔を壊されても構わないか」と聞かれ、一瞬の迷いもなく「ファン・ビンビンは最後まで付き合います」と答えたのを覚えてると話した。また、同作で演じた役は外見上の変化だけでなく、自身の魂との共鳴を深く感じさせ、自身を成長させたと語り、「一人の中国の映画人として、今後さらなる飛躍を図り、作品を通じてより多くの価値を伝えたい」と意欲を示した。
ビンビンは2018年の脱税事件によって中国の芸能界での活動が休止状態にある。チョン監督は、起用を決めかねている際にビンビンがマレーシアの田んぼまでついていき、転倒してしまったエピソードを紹介。ビンビンに「なぜそこまでして役が欲しいのか」と尋ねると、ビンビンからは「やり直したいんです」との答えが返ってきたと明かした。
▽ ツェン・ジンホアが助演男優賞初受賞
助演男優賞はツェン・ジンホア(曽敬驊)が台湾映画「我が家の事」(我家的事)」で初受賞した。ジンホアは名前が呼ばれると両手で顔を覆い、涙で顔を歪ませた。
ジンホアは声を詰まらせ、何度も鼻をすすりながらスピーチした。監督や共演者、両親などに感謝を述べた後、「僕は口下手。本当にたくさんの勇敢なことをしてきた」と振り返り、自身を映画の世界に連れてきた恩師のリー・リエ(李烈)にしみじみと感謝した。
プレスルームでも涙を見せたジンホア。受賞後にしたいことを聞かれると「両親を海外旅行に連れていきたい。両親は海外旅行をしたことがないから」と涙ながらに語り、記者団を感動させた。
助演女優賞にはベラ・チェン(陳雪甄)が台湾映画「人生は海のように」(人生海海)で選ばれた。
▽ チェン・シューファンが生涯功労賞
生涯功労賞を受賞したチェン・シューファン(陳淑芳)に賞を授与する際にはシューファンが金馬奨主演女優賞を受賞した台湾映画「弱くて強い女たち」(孤味)で娘役を演じたビビアン・スー(徐若瑄)、シエ・インシュエン(謝盈萱)、スン・クーファン(孫可芳)がプレゼンターとして登場した。登場前には姉妹がリモート通話するという設定の映像も流された。
86歳のシューファンは19歳で演技の世界に入って以降、これまでに100本以上の映画に出演したことを振り返った上で、映像制作に携わることは自身の人生の目標だと言及。「人生において、心に愛と情熱さえあれば、永遠に年齢の制約はない」との信条を伝え、かつて語った「皆さんが私を陳淑芳だと知っている限り、たとえワンシーン、一言のせりふであっても、私は真剣に取り組む」との言葉を改めて述べ、今後も演じ続けていく決意を示した。
近年は俳優業だけでなく、幅広い分野で活躍しているシューファン。今回の短編アニメ作品賞を受賞した「螳螂」(PRAYING MANTIS)にも声で出演している。
▽ 西島秀俊がプレゼンター務める
授賞式には西島秀俊も出席した。レッドカーペットには、47年ぶりに台湾映画に出演した歌手のジュディ・オングと登場した他、授賞式では日台米合作映画「Dear Stranger/ディア・ストレンジャー」で共演したグイ・ルンメイ(桂綸鎂)と主演男優賞のプレゼンターを務めた。
授賞式で西島は、2013年に金馬奨でドキュメンタリー作品賞を受賞した台湾映画「天空からの招待状」(看見台湾)の日本語版ナレーションを担当したことをルンメイから紹介されると、「あの作品は本当に素晴らしい経験でした。ドキュメンタリーを通して、台湾の美しい自然を目にして、人間が自然に与えた影響についてとても深く考えさせられました。それ以来、台湾に強い印象を持っています」と語った。ルンメイは西島に日本語で「ありがとう」「ちょっと待ってね」などと話しかけ、和やかな雰囲気に包まれた。
また西島が「受賞者が誰であっても、皆でこれからも切磋琢磨しながら、観客の皆さんに最高の作品を届けていきましょう」とノミネート者に呼びかけると、客席からは「はい!」と大きな返事が上がり、拍手が巻き起こった。
▽ 受賞一覧
【劇映画作品賞】大濛(A Foggy Tale)
【劇映画短編作品賞】疊羅漢(Pile On)
【ドキュメンタリー作品賞】隠蹟之書:重写自我(Palimpsest: The Story of a Name)
【ドキュメンタリー短編作品賞】她的碎片(Fragments of Herstory)
【長編アニメーション作品賞】世外(Another World)
【短編アニメーション作品賞】螳螂(Praying Mantis)
【監督賞】ジュン・リー(李駿碩)「衆生相」(Queerpanorama)
【主演男優賞】チャン・チェン(張震)「幸福之路」(Lucky Lu)
【主演女優賞】ファン・ビンビン(范冰冰)「母なる大地」(地母)
【助演男優賞】ツェン・ジンホア(曽敬驊)「我が家の事」(我家的事)
【助演女優賞】ベラ・チェン(陳雪甄)「人生は海のように」(人生海海)
【新人監督賞】ロイド・リー・チョイ「幸福之路」
【新人俳優賞】マー・シーユエン(馬士媛)「左撇子女孩」(LEFT-HANDED GIRL)
【脚本賞】チェン・ユーシュン(陳玉勳)「大濛」
【脚色賞】パン・カーイン(潘客印)「我が家の事」
【撮影賞】リョン・ミンカイ(梁銘佳)「母なる大地」
【視覚効果賞】エバン・ウェン(温兆銘)、リン・ウェイホン(林韋宏)、フー・ホンユー(胡宏愈)、フー・ワンティン(傅琬婷)「96 分鐘」(96 Minutes)
【美術賞】ワン・チーチェン(王誌成)、ヨウ・リーウェン(尤麗雯)「大濛」
【メーキャップ・衣装デザイン賞】シュー・リーウェン(許力文)「大濛」
【アクション設計賞】テディ・レイ・ホアン(黄泰維)、チェン・チャーリン(陳嘉玲)「恨女的逆襲」(A Dance With Rainbows)
【作曲賞】Charles HUMENRY「幸福之路」
【歌曲賞】ペニー・ダイ(戴佩妮)、チョン・キット・アン(張吉安)「Bhujanga」/母なる大地
【編集賞】Mary STEPHEN(雪美蓮)「隠蹟之書:重写自我」
【音響効果賞】R.T カオ(高偉晏)、デーブ・チャン(張凱彤) 、サミー・リン(林先敏)「小虫虫大冒険」(A Mighty Adventure)
【年間台湾傑出映画人】ジョイ・チョン(鍾瓊婷)
【生涯功労賞】チェン・シューファン(陳淑芳)
(名切千絵)







