日本のアイドル文化から生まれた「ヲタ芸」。その光景は今では台湾ドラマ「正港署」(正港分局)にまで登場するようになった。台湾では近年、オタ芸のサークルも生まれ、大会も開かれている。
台湾で現在最も活気があるヲタ芸のグループの一つが南部・高雄の「EvolutioN」だ。2018年に発足したこのグループはかつて高雄メトロ(MRT)と共同でヲタ芸のダンス大会を開催したこともある。
現在のメンバーは約11人。創始メンバーのほとんどは高校在学中、漫画やアニメをきっかけに、関連のイベントで知り合った。当時は高校生で単純に作品を応援するだけだったが、今ではみんな社会人になり、ヲタ芸を広めるために定期的に集まっている。
団長のEOSさんは中学生の頃、スクールアイドルプロジェクト「ラブライブ!」の存在をたまたま知り、多くのファンが関連イベントでヲタ芸を披露しているのをインターネット上で目にした。それから「はまってしまった」という。
「同じ作品が好きだったり、ヲタ芸をしているということが分かったりすると、すぐに友達になれます。友達を紹介し合うことも多く、『ラブライブを好きな人が高雄にこんなにたくさんいたのか』と気付きました。一緒に遊んでいると、日本みたいにヲタ芸を撮影して記録したいと思ったのです」。当時先輩から、グループを立ち上げて、団結してより規模感のあるヲタ芸の動画を撮ってみてもいいのではないかとアドバイスされたとEOSさんは振り返る。
「団結」という目標が生まれたのには、オタ芸の発祥地である日本とやはり関係がある。日本ではここ数年、ヲタ芸の大会が開かれており、2018年に日本のヲタ芸パフォーマンスグループが台湾で選抜大会を開いた際にEOSさんは優勝した。大会への参加を通じ、自分がやっていることの体験は、彼らにとって非常に貴重なものだと心から感じたという。これが、EvolutioNが後に高雄メトロと共に大会を開くきっかけになった。
▽彼らにとっての「ヲタ芸」とは
EvolutioNの創始メンバーは学生時代は主に高雄で活動していたが、それそれが社会に出て、忙しい日々を送る今では集まって練習したり、動画を撮ったりできる機会はとても貴重な時間なのだと管理ディレクターで数少ない女性メンバーのKiyoさんは語る。
Kiyoさんは最近、両親から「新しい学校のリーダーズ」のダンス動画を見せられ、「彼女たちの動作はあなたたちとちょっと似ているね」と言われて驚いたと話す。「確かに基礎的なヲタ芸の動きをしていました。これが意味するのは、サイリウムライトを持っていなくてもヲタ芸の動きは独自性があり、何をしているか見分けられるということです」
EvolutioNだけでなく、北部や中部などにも小規模のヲタ芸グループが生まれ、大学や高校にもヲタ芸サークルが誕生している。ヲタ芸を教えるユーチューバーも登場した。EOSさんは政治大学のヲタ芸サークルで指導を担当している。
EOSさんは、人によってヲタ芸への認識の度合いは異なると話す。だが、近年人気を博したアニメ「推しの子」でヲタ芸が登場したり、「新しい学校のリーダーズ」もダンスにヲタ芸の要素を取り入れたりしており、これによって徐々にヲタ芸文化の認知度は上昇していると語る。台湾では今のところ、ヲタ芸だけで生計を立てることはできないものの、EOSさんもまた、仕事が終わった後に取り組むEvolutioNの活動を「パラレルキャリア」(斜槓)とは呼ばないと語る。
「それ(ヲタ芸)は私にとってずっと精神面でのエネルギーだと思っています。仕事で嫌なことがあったり、普段落ち込んでいたりした時に、気分転換できるもう一つの居場所のようなものです。他の人に自分の情熱を見せたり、みんなと交流したりして、私にとっては唯一無二の感覚です」。EOSさんは真剣なまなざしを見せた。
EOSさんにとっては忘れがたい場面がある。それはネット上で見つけた「ラブライブ」の応援の一幕で、観客が掲げるペンライトによって会場がオレンジ一色に染まった光景だ。「この光景に感動しました。応援とはこのように、自分が好きなもののためにするものなのです。私は今はパフォーマンス型のヲタ芸に取り組んでいますが、このような自分の好きな作品、好きなチームへの感覚はやはり重要なのです。こんな形で自分の感覚を他の観客に伝えることができます」
知らない人同士が作品やアイドルを通じて知り合い、共通の話題で情熱を築き、意気投合する。他の人がその動作や言葉を理解できなかったとしても、それが自分たちの秘密の合言葉なのだと彼らは知っている。ヲタ芸の魅力は実はとてもシンプルだ。舞台上に応援を送るだけではない。人生の舞台上でそれぞれが互いに最高の応援隊になるのだと彼らは知っている。