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文化+/世界に広まる台湾BLドラマ 立役者のアニタ・ソンさんインタビュー<文化+>

2024/11/13 17:32
アニタ・ソン(宋鎵琳)さん(本人提供)
アニタ・ソン(宋鎵琳)さん(本人提供)

2019年5月、立法院(国会)は同性同士の2人の結婚を認める同性婚特別法を可決し、台湾はアジアで初めて同性婚を合法化した国になった。

台湾で同性婚が合法化される2年前の2017年、台湾発のBL(ボーイズラブ)ドラマ「HIStory 1」が誕生した。これが台湾のBLドラマの始まりとなり、台湾ドラマが世界に広まるきっかけとなった。このドラマは配信開始からわずか3カ月で台湾内で350万回視聴されるという驚くべき好成績を収めた。この数字は当時、日本の会社で映像作品の買い付けを担当していたアニタ・ソン(宋鎵琳)さんを魅了し、ソンさんは作品の買い付けを決めた。そして、同作は初めて日本に進出した台湾のインターネットドラマとなった。

ソンさんはこれを皮切りに、台湾の作品を日本に届けるだけでなく、後にBLドラマのプロデューサーとインティマシーコーディネーターを務め、「Be Loved in House 約・定~I do」や「隔離が終わったら、会いませんか?」「正負之間~Plus & Minus」などの人気作を世に送り出した。

台湾BL「Be Loved in House 約・定~I Do」予告編(30秒ver.日本語字幕)/Rakuten TV〈楽天TV〉公式チャンネル

「HIStory 1」が日本に上陸した際、当時の成績は理想的ではなかったとソンさんは明かす。「前衛的すぎたのだと思います」とソンさん。当時の日本にはBL漫画は多くあったものの、二次元の幻想の中で生きられるのなら、なぜ想像とかけ離れていたり、残酷な現実と向き合うことを余儀なくされたりするというリスクを冒してまで実写版の作品を見ないといけないのかという雰囲気が漂っていたと振り返る。

そのため、当時の日本社会はBLの映像作品の許容度は総じて高くなく、「おっさんずラブ」がオフィスを出発して男性視聴者まで笑わせるようになってようやく、その中のBL的要素が受け入れられるようになっていったとソンさんは分析する。

▽ 台湾BLが醸し出す「距離の美」が日本での人気の背景に

BL作品に対する日本の視聴者の許容度が高まるに伴い、2019年に「HIStory3 那一天~あの日」が日本に上陸すると、他の日本ドラマと韓国ドラマを抑え、「Rakuten TV」で年間1位を獲得した。ソンさんは「実写化」による幻滅への懸念が、台湾の作品の強みになったのかもしれないと話す。「かつて台湾版『流星花園』(※)が日本であれほどヒットしたのは、主人公が日本語をしゃべれず、さらには長髪だったことで、漫画と現実世界の間に距離があるように、この距離というものが美しさを生み出したからではないかと思います」

※人気漫画「花より男子」を実写化した台湾ドラマ。台湾で2001年に制作され、日本では2003年に初放送された

ソンさんが台湾BLドラマを相次いで日本に持ち込む中、新型コロナウイルスの世界的流行が始まった。世界中の映像作品が深刻な影響を受けたが、ソンさんは新たな可能性を見いだした。在籍する日本の動画配信サービス運営会社「ビデオマーケット」で「自宅隔離」を軸にした恋愛ドラマ「隔離が終わったら、会いませんか?」を企画し、台湾の映像配信プラットフォーム「KKTV」と日本の「Rakuten TV」と手を組んで制作した。これによって日台合作BLドラマの契機を築いた。

▽ 一つの屋根の下から始まる物語 視聴者と一緒に愛を見つける

ソンさんはBLドラマの制作では、「一つの屋根の下」のコンセプトから物語を膨らませているとその秘訣(ひけつ)を明かす。例えば「Be Loved in House 約・定~I do」は同じ寮を、「正負之間~Plus & Minus」は同じオフィスを舞台とした。これによって物語を広げていき、主人公たちの感情の揺れ動きの部分においても、よりしっかりとした余白を残せるようにした。

秘訣の二つ目は「障害を乗り越える」という点だ。初期のBLドラマの最大の障害はおそらく、2人の主人公が両親に受け入れてもらえないことだったとソンさんは率直に語る。だが社会がよりオープンになるにつれて、障害はそれほど「伝統的」ではなくなっていった。ソンさんの新作「看見愛(カンジエンアイ)〜See Your Love」は聴覚障害を持つ青年と富豪の3代目の恋の物語だ。チーフプロデューサーを務めるソンさんとプロデューサー・脚本のリン・ペイユー(林珮瑜)さんは障害を「言語を乗り越える」ことに設定した。「一人は相手のために手話を学び、『手話が君たちの言葉だから』と言うのです」。乗り越えるのは身体上の違いではなく、コミュニケーション上の困難だ。だからこそ、作り出される物語は視聴者の結束感をより一層引き起こせるのだ。

台湾BL「看見愛(カンジエンアイ)〜See Your Love」予告編第1弾/Rakuten TV〈楽天TV〉公式チャンネル

「世の中の腐女子は多種多様なのです」とソンさんは笑う。ある人はヘビーなものを好み、ある人はライトな物語を好む。ソンさんが作る物語は「中庸」路線だ。だが、決して忘れてはならないのは心と頭を結びつけることだ。「どのステップまで必ず撮るというのではありません。そうではなくて、誰かを好きになると自然と体に触れたくなる。そんな様子にまで持っていきたいのです」

▽ 商業的価値は無限大 役者に脚本を待つ余裕

台湾ドラマの黄金期が終了して以降、BLドラマは新人俳優に頭角を現す機会を与えた。後に映画賞「ゴールデン・ホース・アワード」(金馬奨)で新人賞を獲得したフェンディ・ファン(范少勳)をはじめ、ウェイン・ソン (宋偉恩)やパトリック・シー(施柏宇)などの人気若手俳優はいずれもデビュー初期にBLドラマで多くのファンを獲得した。ボーイズグループnoovy出身のハンク・ワン(王碩瀚)は、BLドラマ出演前はインスタグラムのフォロワー数が数千人だったものの、今では20万人を超えるフォロワーを抱える。

「看見愛」の記者会見に集まった出演者のファンら=王騰毅撮影
「看見愛」の記者会見に集まった出演者のファンら=王騰毅撮影

オウンドメディアの広がりもあり、俳優はBLドラマで売れっ子になった後、SNSでの案件やCM出演、コア層のファンの存在などによって、自分に合った良質な脚本を待つ余裕ができるようになったとソンさん。また、作品が台湾を飛び出して世界に広まるにつれて、BLドラマ出演俳優の影響力も拡大している。中国やマレーシア、インドネシアなど、同性愛関連作品が認められない国には、VPNを使って作品を視聴する人もいるという。影響力はポルトガルやスペイン、北米、南米にまで広がる。「正負之間」でネット上のグループを立ち上げた際、ブラジルでも6000人がグループに参加した。現地でのファンミーティング開催を要望する声も絶えないという。

▽ あれから10年 次の一歩は?

一説には、最初のBLドラマはタイの「Love Sick」(2014年)だと言われている。台湾で最初のBLドラマ「HIStory 1」から数えてもすでに7年がたつ。ソンさんは、コロナ後にエンタメ産業は再び一斉に花開く時を迎え、視聴者がお金を出す形もさらに多様化したと話す。自宅にこもっていた期間のように、最新話の更新をしょっちゅうチェックするという形のようには必ずしもならない。そのため、BLドラマの次の一歩がどこに向かうのかは、ソンさん自身も断定しがたいという。

それでもソンさんは楽観的だ。「『全ての人に“腐”属性がある』との言葉もあります」と笑う。全世界の人口が80億人だとして、その約1%がBLドラマを見るとすれば、それは巨大なマーケットになると語るソンさん。「Be Loved in House 約・定」でキスシーンの撮影を淡水漁人埠頭(ふとう)でしていた際、近くにいたおばあさんから拍手を送られたこともあったと明かし、「台湾社会は実は許容性が高く、オープンなのです」と台湾の環境を称賛した。

ソンさんは「私個人にとっていちばんうれしい成長は、BLドラマが変なものだと見なされなくなったことです」と語る。「変なものではなくなったからこそ、特殊だと思われることはなくなりました。なぜならそれが私たちの生活の中で普通のドラマのジャンルとして存在しているからです」

(王心妤/編集:名切千絵)

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