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文化+/タピオカミルクティーにフライドチキン、台湾の人気グルメをバッジに 五輪で存在感示す<文化+>

2024/10/15 17:11
(左から)パリ五輪台湾代表団のタピオカミルクティーバッジとパリパラリンピック台湾代表団の台湾フライドチキンバッジ(攝影:王飛華)
(左から)パリ五輪台湾代表団のタピオカミルクティーバッジとパリパラリンピック台湾代表団の台湾フライドチキンバッジ(攝影:王飛華)

今夏にパリで開かれたオリンピック・パラリンピック。台湾の選手たちはパリのどこを歩いても注目の的になった。それは選手たちが身に着ける小さなバッジが理由だ。ある人は台湾の選手の胸元にあるバッジを見て「Taiwan!Bubble!」(台湾!タピオカ!)と声を上げ、ある人はバッジを交換したいがために、代表団の宿泊先まではるばる駆け付けた。バッジにデザインされたのは、台湾グルメでおなじみのタピオカミルクティーや台湾フライドチキン(鶏排)。タピオカミルクティーやフライドチキンが、自分が何者かを紹介するアイテムの役割を果たしたのだ。

▽ 人気を博したタピオカミルクティーのバッジ デザインしたのはスポーツ一筋の職員

タピオカミルクティーのバッジを考えたのは、実はデザイナーではない。これまでスポーツ一筋で生きてきた中華オリンピック委員会職員の鄭鈞銘さんだ。

中華オリンピック委員会職員の鄭鈞銘さん(攝影:王飛華)
中華オリンピック委員会職員の鄭鈞銘さん(攝影:王飛華)

「学校での成績は上位ではありませんでした。後ろから数える方が早いくらいだったので、皆からは『勉強ができないんだから、いい子でいてくれさえすればいい」と言われていました」と話す鄭さん。小学生の頃から陸上部に入り、その後はバスケットボールに競技を変えて高校まで続けた。才能の限界を感じ、これ以上バスケを続けられないと考えたものの、スポーツへの情熱が失われることはなく、大学ではスポーツ学科に進んだ。

解剖学や心理学、マネジメントまで幅広い科目があり、この上ない新鮮さを感じだという。努力型で新しい物好きな性格から、スポーツの世界で裏方の仕事をすることを目標とし、卒業後は中華民国ボクシング協会に就職。2018年から中華オリンピック委員会で働き、主に事務の仕事を担当している。

オリンピックの歴史をさかのぼると、バッジは最初は選手や審判、スタッフを見分けるのに使われていた。今では各バッジのデザインや製造数量には主催者側の審査が必要で、各国はバッジによって存在感を示そうと、趣向を凝らしたバッジを作る。選手だけでなく、一般の人々もバッジ集めで4年に1度の大イベントに参加することができる。

「スポーツ学科出身なので、選手はみんなピンバッジを交換するのが好きだと知っています。それは人とつながる方法なのです。他の人もおしゃれなバッジを見ると交換したくなります」と鄭さん。今年は主催国のフランスの助言の下、中華オリンピック委も趣向を凝らしたバッジの可能性を考え、最終的には鄭さんのアイデアでバッジをデザインすることにした。

かつての中華オリンピック委のバッジで多く見られたのは、五輪のシンボルに中華民国国旗にある青天白日のマークをあしらったウメ(国花)の花の形のタイプと、各大会のロゴをあしらった長方形のタイプだ。前回の東京五輪では従来のデザインに東京五輪のマスコットを加えたバッジを作った。パリ五輪では従来のウメの形と長方形のバッジの2種類に加え、タピオカミルクティーと台湾の市場でよく見られる漁師網バッグ「茄芷袋」をそれぞれかたどったバッジを製作した。

中華オリンピック委員会の過去の代表団バッジ。長方形(左上)やウメ型(左下)がよく見られる。東京五輪ではマスコットをあしらったバッジを制作した(右)=攝影:王飛華
中華オリンピック委員会の過去の代表団バッジ。長方形(左上)やウメ型(左下)がよく見られる。東京五輪ではマスコットをあしらったバッジを制作した(右)=攝影:王飛華

鄭さんにとってデザインは全くの専門外。それに審査や生産にかかる時間も考えないといけない。そのため、何をする時も頭の中では「何を作ればいいか」を考え続けた。最も難しかったのは「何であれば国境を越えて面白いと思ってもらえて、かつ台湾だと分かってもらえるか」ということだった。

鄭さんは「動物」「グルメ」「文化的アイテム」「建築物」の4ジャンルに焦点を当て、そこからゆっくりと絞り込んでいった。グルメの分類の中で、海外に行くとタピオカミルクティー店をどこででも見かけるのを思い出し、タピオカミルクティーで他国との距離を縮めることができるのではないかと考えた。「茄芷袋」は家族と市場で買い物をした時の思い出のアイテムだ。“台湾のヴィトン”と呼ばれることもある。

下は台湾の市場でよく見られる漁師網バッグ「茄芷袋」をかたどった台湾代表団バッジ(攝影:王飛華)
下は台湾の市場でよく見られる漁師網バッグ「茄芷袋」をかたどった台湾代表団バッジ(攝影:王飛華)

▽ デザイン学科卒業生のこだわりで生まれたフライドチキンバッジ

台湾フライドチキンのバッジを考案したのは、教育部(教育省)体育署の広報部門に所属する黄楚安さん。黄さんは、タピオカミルクティーのバッジがパリで人気を博しているのを知り、台湾の存在感を引き続き示せるような特色あるバッジをさらに作るべきではないかと中華パラリンピック総会のチームと共に協議した。

元々、パラリンピック総会は同会のマスコットを用いたバッジを7種類デザインしていたため、当初は「特色あるバッジの制作は必要ない」との意見が大勢を占めていた。だが黄さんの助言によって、同総会は制作を決めた。

教育部(教育省)体育署広報部門に所属する黄楚安さん(攝影:王飛華)
教育部(教育省)体育署広報部門に所属する黄楚安さん(攝影:王飛華)

デザインとは無関係な道を歩んできた鄭さんとは異なり、今年25歳の黄さんは台湾芸術大デザイン学科を卒業した経歴を持つ、デザインの専門家だ。卒業してすぐに体育署に入り、SNSの画像制作などを手がけてきた。だからこそ、バッジの必要性を確信していた。「バッジは小さいですが、選手たちのアイデンティティーになります。タピオカミルクティーのバッジの熱をつなぎ留めないのは本当に本当に残念すぎます」

バッジ制作を決めたのは、五輪開始から1週間弱、パラリンピック開幕まで1カ月足らずというタイミングだった。黄さんは、パリにいる責任者を説得するため、台湾時間午前2時に電話をかけ、バッジの必要性を力説した。すぐに同意は得られなかったが、五輪開幕から1週間ほど経ち、台湾勢が初の金メダルを獲得した機に乗じて再び責任者の説得に臨み、首を縦に振らせることに成功した。

同総会の唐碧穂行政副主任は、タピオカミルクティーのバッジの人気を前提とするため、方向性は比較的明確だったと明かす。台湾グルメからアイデアを練ることにし、台湾を代表する食べ物を一つ選ぶとすれば何かを考えたところ、最初に出てきたアイデアはパイナップルケーキだった。だが、パイナップルケーキの中国語「鳳梨酥」の「酥」は、「負ける」を意味する「輸」と発音が似ていることから却下した。次に思い付いたのはショーロンポー(小籠包)だったが、これも台湾らしさという点ではやや弱いことから除外した。

「それから振り出しに戻って考えると、台湾人がタピオカミルクティーを飲む時にお供とする食べ物でメジャーなのはフライドチキンだと思い付きました。タピオカミルクティーとフライドチキンの組み合わせは、スポーツの試合を見る時、午後のおやつの時に黄金のコンビなのです。それに、フライドチキンの中国語「鶏排」(ジーパイ)は、金メダルを表す「金牌」(ジンパイ)と発音が似ているため、縁起もいいのです。「台湾フライドチキンを知らなくても、タピオカミルクティーと組み合わせることで理解をあと一歩進めてもらえます」

▽ 台湾グルメで「台湾の味わい」を世界に

タピオカミルクティーと台湾フライドチキンのバッジによって、今夏のパリには台湾感が充満した。

鄭さんは、いちばんうれしかったのは自分の力によって台湾代表団にポジティブなイメージをもたらせたことだと話す。「実は過去の試合では、私たちを相手にしてくれない国もありました。でも今回はバッジによる宣伝のおかげで、多くの人がわざわざ私たちのところに話をしに来てくれて、中にはバッジを交換するため、遠くから自転車で宿泊先まで駆け付けてくれた人もいました」。このような和気あいあいとした雰囲気こそが鄭さんにとってはスポーツの真の意義なのだ。

黄さんはスマートフォンのアルバムを開き、凱旋門の前で台湾フライドチキンのバッジを掲げて撮影した写真を誇らしげに見せてくれた。世界的な祭典にデザインで貢献できたことは「本当にとてもうれしい」とほほ笑む。そして台湾社会、部門の責任者までが次第に「美しさ」を重視するようになっていることが、黄さんらが作品を完成させることができた鍵になったと語った。

台湾フライドチキンのバッジは主催国のフランスがパラリンピックのシンボルマーク「スリーアギトス」を凱旋門に設置したのに呼応させ、凱旋門のイラストをあしらった(攝影:王飛華)
台湾フライドチキンのバッジは主催国のフランスがパラリンピックのシンボルマーク「スリーアギトス」を凱旋門に設置したのに呼応させ、凱旋門のイラストをあしらった(攝影:王飛華)

一人はデザインは全く分からないスポーツマン、もう一人はスポーツ産業を支えてきたデザイン学科の卒業生。共に自分の専門分野への情熱とこだわりを持ち、以前とは全く異なる道を切り開いた。今回、タピオカミルクティーと台湾フライドチキンで海外の人に「台湾式味わい」の輪郭を伝えたように、今後もさまざまな味わいが掘り起こされていくことだろう。

(王宝児/編集:名切千絵)

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