文化+/絵本で「台湾語」 いつしか失われた母語、取り戻したいと願う親たち〈文化+〉

2022/10/18 18:28:51
台湾語で子供たちに絵本を読み聞かせる諶淑婷さん(右、本人提供)
台湾語で子供たちに絵本を読み聞かせる諶淑婷さん(右、本人提供)

父親や母親と話す言語を「母語」と呼ぶはずだ。なのに、親になって子供と母語で話しているだろうか。自身の親や祖父母とは母語で話すのに、子供を前にするとなぜか出てこなくなる。台湾ではよくある現象かもしれない。

すると、自身の両親は孫である子供と母語で話さなくなり、会話の言語は「国語」とされる華語(中国語)に切り替わってしまう。こんなに身近な言葉であるはずなのに、消失してしまう日が来るかもしれない。

かつて両親と自然に交わしていた言葉、「台湾語」を取り戻したい―そう考えた親たちがいる。子供たちと母語の思い出を作りたい。そう願っているのだ。

保護者が集まり、子供と絵本を読むことで自身が幼少期に台湾語を話していた思い出を再現しようとする試みが行われている。台湾語を「教科書の中にしか存在しない標本」ではなく、「生活に根付く言葉」として子供たちに身に付けてほしいとの思いが込められている。

▽「台湾語」を再び やればできるはず

簡暁娟さんもその1人だ。「母語で子供を育てよう」という目標を掲げると同時に、大人にも幼い頃、台湾語を使っていた感覚を取り戻してもらいたいと考えている。

簡暁娟さん(本人提供)
簡暁娟さん(本人提供)

同じ志を持つ人々の団体に属しており、関連のフェイスブックページの運営にも携わっている。中部・雲林出身で、台北で学生時代を過ごし、結婚後は台北のベッドタウン、新北市樹林で専業主婦として長女と次女の子育てにまい進している。

「私たちは子供と母語を話したいと思っている親の集まりなんです」。最初は自力で模索していたが、相談できる相手もおらず孤独を感じた。子供たちにも台湾語で会話できる相手がいなかった。そんな中、インターネットを通じ仲間たちと出会った。

勉強会に参加するようになった簡さん。2018年ごろ、同様の悩みを抱えた人から相談を受けることが増えた。親たちが母語の大切さを意識し始めたことを意味するのだと考えながらどうすればいいのか分からず、情報収集のため、フェイスブックページを立ち上げた。

幼い頃、台湾語を話していたとしても、成長過程においてさまざまな要因で話さなくなってしまう親が多い。「言語の能力を取り戻すことはできるんだと広く伝えたい」と簡さんは力を込める。

▽きっかけは海外で暮らす友人

簡さんが子供と台湾語で話したいと思ったきっかけは、海外で暮らす友人だった。初めての出産を控えていた頃、帰省していた友人が子供を連れて簡さんの家を訪れた。友人親子が台湾語で会話していたのに驚かされた。「子供たちはもう7~8歳になっていた。海外で育ったから英語を話すものだと思っていたんです。私よりも台湾語を流暢に話していました」

台北で暮らすようになってから台湾語を話していなかった簡さん。友人親子の様子を見て考えさせられた。「夫と話したんです。海外で生活している親子がこんなにも母語を大事にしている。台湾でそれができない理由はないはずだって」

だが、簡単にはいかない。「幼い頃よく話していたはずなのに、長い間話していなかった。どうすれば語感を取り戻せるのか」。自身と同世代の親にとって大きな挑戦になると簡さんは言う。

子供が1歳になる前の時期は大人が話す言葉を聞く非常に貴重な期間だと訴える簡さん。この間に辞書を引いたり、人に教えを請いたりしてでも努力するべきだと訴える。

▽絵本を開き「華語」の呪縛から解かれよう

絵本を読むことは始めの一歩となる。

絵本で読み聞かせをしながら台湾語に触れる時間を作る(簡さんが運営するフェイスブックページより)
絵本で読み聞かせをしながら台湾語に触れる時間を作る(簡さんが運営するフェイスブックページより)

絵本に書かれた華語を台湾語にすればいいだけじゃないかと多くの人は考える。だが、実際にやってみると容易じゃないことが分かる。そもそも大きく異なる言語で、使い慣れた母語でもなかなかすぐに口から出ないのが実際のところだ。

そこで簡さんは、文字が少ない絵本から始めるのが良いと言う。「絵が多い絵本を使えば、自分の言葉で話せるようになるんです。そうすれば華語に縛られることもありません」。最初は同じ文型を繰り返し使って読み聞かせ、子供が大きくなってから文字が多めの絵本を選ぶとやりやすくなるという。

字が多かったり、ストーリーが少々複雑だったりするものは事前に読んでおくのも良い。「文字が少ない絵本同様、原文の文章にとらわれる必要はなく、自分の解釈と言葉で話しましょう」

最近は台湾語の絵本も増えてきた。「参考にすることで、専門家がどのような言葉を使っているのか知ることができ、より語感の良い言葉を使えるようになるんです」

▽台湾語でインタビュー 母語の美しさに気付く

諶淑婷さん(右)と子供たち(諶さん提供)
諶淑婷さん(右)と子供たち(諶さん提供)

台湾語での育児に奮闘するもう一人の母親、諶淑婷さん。元記者だ。10年前に退職し、現在は子育てに専念している。インターネット上に自身の経験を書き込むこともあるという。

最初は特に深い理由はなく、子供が台湾語を話す姿がかわいいと思っただけだった。だが次第に、子供たちに台湾語を自然に学ばせた方が良いと考えるようになった。台湾語話者は多く存在するからだ。「華語に大量に漬かる前に、この土地の言語を学んでもらいたいと思ったんです」

諶さんの両親は北東部・宜蘭出身。諶さんは台北で働き始めるまで、新北市新荘で暮らしており、家では台湾語を使っていた。学校教育の影響を深く受けたという諶さん。テレビ番組も全て華語で、正統で高尚な言語だと感じていた。両親とは台湾語で話さなくなり、父親は不満に思っていたという。

記者になってから、ある起業家を取材することになった。相手は台湾語と日本語しか話せず、初めて台湾語でインタビューを行った。「台湾語をこんなに美しく流暢に話す人がいることを初めて知ったんです」。専門用語まで台湾語で表現することができると知り、その文化の奥深さや言語の美しさに感銘を受けた。

▽検定受け、台湾語にさらなる磨きを

それがきっかけとなり、自身の子供とも台湾語で自然に話したいと思った諶さん。2人の子供が幼い頃はなるべく台湾語で話すようにした。だが、自身の言語レベルが足りていないことに気が付く。

おむつ交換やご飯、寝るなど簡単なことは言えるが、子供たちが小学校に上がってからは語彙が増え、話すことも複雑になった。長男が1年生の頃、語彙を増やそうと台湾語の検定を受けた。

諶さんも台湾語で読み聞かせる場合、絵本に書かれた華語にとらわれないことが大事だと考える(中央社記者、趙世勲撮影)
諶さんも台湾語で読み聞かせる場合、絵本に書かれた華語にとらわれないことが大事だと考える(中央社記者、趙世勲撮影)

毎日、長男の宿題に付き合いながら、自身も台湾語を1日1時間学ぶようになった。「英語と同じように、台湾語も時間をかけて学ぶ必要があると気付いたんです」。母語なのだから家で身に付けていくものだと考えられているが、言語をマスターするには真剣に勉強することが必要なのだ。でなければ、限られた語彙しか学べない。

諶さんも台湾語で子供たちに絵本の読み聞かせをする。英語で読み聞かせをすることもある。複数の言語で読み聞かせをすることで混乱させてしまう心配はしていない。「子供は自分でちゃんと区別できると思うんです」

日常会話も台湾語だ。子供たちが両親と話す際、華語と台湾語が入り交じることがあったり、外では華語で話したりするが、諶さんと真面目な話をするときは台湾語に切り替わる。「子供はとても利口なんです。自由に言語を切り替えられるんです」

▽分からない単語はすぐスマホで

諶さんが絵本を選ぶことはなく、子供が選んだものを台湾語で読み聞かせる。難しいものはできない場合もあるが、身近な題材の絵本であればトライしてみる。分からない単語に出くわすこともあるものの、すぐにスマートフォンで調べる。「子供たちには『ママにもできないのがあるんだ』って言われますが、全然気にしません」

分からない単語はすぐ調べ、積極的に台湾語を学ぶ諶さん(中央社記者、趙世勲撮影)
分からない単語はすぐ調べ、積極的に台湾語を学ぶ諶さん(中央社記者、趙世勲撮影)

最初は深い考えなしに子供たちと台湾語で話し始めたが、子供たちが政治に関する疑問を持った際に役立つと感じた。「『国語』の教科書の『国』という字が指すのはどの『国』なのか」「『閩南語』はなぜ『閩南語』と呼ばれるのか」これらの疑問に答えるのに、台湾語で会話した経験がなければ、子供たちに理解させるのは難しいと諶さんは考える。

「台湾という土地にはいろんな言語がある」。台湾語を学ぶことで、台湾の

歴史についても、子供たちはすぐに理解できるのだという。

▽親子で決める「台湾語の時間」 自由に切り替え

諶さんは、子供たちに言語の多様性や台湾に暮らすさまざまな民族について知ってもらいたいと願っている。「異なる民族同士だと理解不足で言い争いになることもある。でも根本的なところで言うと、この場所には多くの人が暮らしていて、さまざまな言語が存在するということなのです」。成長の過程で華語を身に付ける以外に、家で母語を話すことで異なる文化に対する包容性が養われると信じている。

子供と母語を話す際、強要はしない。自然であれば自然であるほど良い。諶さんは毎日「母語の時間」を設けることを勧める。お風呂の時間や寝る前の時間などを利用すると始めやすい。「子供たちは賢いです。親が奨励すれば一生懸命やろうとする。でも強制してしまったら反感を買うでしょう」

それぞれの方法で、子供たちと台湾語を話そうと努力している親たち。彼らが成長してから、どこで生活しどんな言語を話していたとしても、実家に帰れば、子供の頃に話した言葉を話すようになる。「母語」が真の意味で「母語」になる日が来るだろう。

(邱祖胤/編集:楊千慧)

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※本記事は中央社の隔週連載「文化+」の「用母語飼囝 翻開繪本重拾童年説台語的感覚」を翻訳編集したものです。

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