<文化+>台湾ドラマと日本を結ぶ架け橋に=木藤奈保子さん

2021/11/15 15:13
木藤奈保子さん(本人提供)
木藤奈保子さん(本人提供)

 「私は日本人ですが、日本人らしくないかもしれません。だから日本語でこういうことを言っても、他の日本人からは予想外だとか変だとかあまり思われないんです」。可愛い笑顔を浮かべた日本人女性の口からこの早口言葉のようなフレーズが流暢な中国語で出てくると、不思議な感覚を覚える。

 木藤奈保子さんは日本生まれ、日本育ち。漫画「花より男子」を原作とした台湾ドラマ「流星花園 -Meteor Garden-」をきっかけに台湾の映像作品に興味を持ち始め、ドラマ制作やPRの世界に飛び込んだ。日本の漫画の出版社との版権交渉から日本の配給会社のマーケティングまでを手掛けている。

 木藤さんの父親は中国・東北生まれ。そのため、中国語を話す人に対してはずっと親しみを感じてきた。「小さい頃から、父が中国や台湾の留学生を家に招いて泊めていたのを見ていました。かつて多くの華人から助けられたと父から聞かされていたので、父と共に彼らに感謝するとともに、彼らが話す中国語にも興味を抱くようになり、関連の仕事がしたいと思うようになりました」

 感謝の気持ちを発端として中国語の学校に入学した木藤さんはある日、台湾版の「花より男子」を目にし、台湾ドラマに興味を持ち始めた。なぜ興味を持ったのか。木藤さんは「自分でも分からないんです。あえて言うならば、セリフ、そしてストーリーのせいでしょうか。今でも多くのセリフを覚えていて、あんなに泣けて笑える感覚は忘れられません。そして台湾ドラマに参加してみたいと思ったのです」。学校在籍中、台湾版「花より男子」の版権をかつて購入した日本の配給会社の求人を目にした木藤さんはすぐに履歴書を送付し、見事合格。入社してすぐに台湾ドラマの買い付け窓口を担当することになった。

 「当時は台湾ドラマの買い付け窓口のほか、作品の日本でのプロモーションに台湾の俳優を招く仕事も担当していました。こんなふうに7年近く仕事をしていたある日、お客さんから『なぜ台湾ドラマは突然雨が降ったり、雨の中でキスをしたりするんですか』と聞かれたのです」。ただの世間話のような質問だが、これによって、木藤さんは自身が台湾ドラマについてよく知らないことに気付いた。

 そんな中、2011年の東日本大震災をきっかけに「後悔はしたくない」との思いから、台湾に渡ることを決め、台湾の映像制作会社に転職した。

▽ ゼロから架け橋を築く

 台湾に来て初めて関わった仕事は日本の同名漫画を原作にしたドラマ「流氓蛋糕店~ショコラ~」だった。木藤さんは原作を手掛けた漫画家、窪之内英策さん、そして同作を出版する小学館と版権交渉を行ったほか、人気女優の長澤まさみさんをキャスティングする任務も担った。

 木藤さんが版権交渉に携わった最新作は、柴門ふみさんの漫画「お仕事です!」をリメイクした「她們創業的那些鳥事」だ。8年がかりで台湾ドラマ化を成功させた。「途中、何度も中断していたので、第1話が放送された時には感動で泣きました」と木藤さんは笑う。台湾の視聴者の反応とメディアの報道を翻訳して柴門さんに見せると、柴門さんもとても感動していたという。

 台湾に渡る前に抱いていた疑問―なぜ台湾ドラマでは突然雨が降るのか、なぜ必ず雨の中でキスをするのかーという問いにも、ある種の答えを見つけた。「她們創業~」の中にも、主演のジエン・マンシュー(簡慢書)が雨に濡れながらパスタを食べるシーンがある。「台湾ドラマではなぜ雨が降ったり止んだりするのか、以前はずっと分からなかったんです。でも台湾に来てから初めて、これが台湾というもので、雨が突然降ってまた晴れるということも、台湾らしさがある部分なのだと知りました」

仕事中の木藤さん(本人提供)
仕事中の木藤さん(本人提供)

▽ 台湾と日本で異なる習慣 柔軟に対応

 ドラマ制作において、台湾と日本ではそれぞれ異なる商習慣がある。日本の場合はテレビ局が出資し、企画の段階から放送時期や長さが決まっているが、台湾の場合は制作会社が資金を調達して撮影した後、テレビ局や配信プラットフォームに売ることが多い。そのため台湾でのドラマ制作には不確定要素が多く、出資が突然取りやめになったり、放送時期が変更されたりといったアクシデントが生じる可能性がある。

 台湾に来たばかりの頃、企画段階で日台の橋渡し役になった際に、「確定」という2文字によってコミュニケーション上に隔たりが生まれたことがあると木藤さんは明かす。「日本の『確定』は9割以上問題がなく、変更はないということを意味します。でも台湾の『確定」は、『アクシデントがなければ』という前提を含み、アクシデント自体は起こる可能性があるのです」。だが木藤さんはこう続ける。「でも台湾人が悪いわけではないのです。双方の商習慣が異なるだけで、台湾側もわざとやっているのではありません。いい作品を作りたいという思いは同じなのです」

 「より良い作品を作る」ことを信条に原作側と台湾の制作側がウィンウィンの関係になれるよう尽力している木藤さんは「まずはやってみて、それからまた考えよう」という姿勢で仕事に向き合っている。日本人の場合は企画の段階からあらゆる可能性を先に想定して考えるが、台湾人は違う。会議で話し合った結果と実際の現場では差が生じる場合があり、何かが起こってから解決策を探る傾向にある。そのため「まずはやってみる」という姿勢の木藤さんは「仕事の面では日本人らしくない」と笑う。「みんな私のことを日本人らしくないと思っているのでしょう。だから私が『まずはやってみよう』と言っても驚かれません」

 台湾と日本では撮影現場の雰囲気も異なる。木藤さんによると、日本では「真剣に取り組んでこそプロ」との意識があるため、日本の現場のスタッフはほとんどみんな厳しい表情をしている。一方、台湾の現場ではみな笑顔を浮かべており、フレンドリーさからであれ、礼儀上であれ、「EQが高い」という印象を他の人に与えようとしている。「どちらがいいというのではなくて、プロフェッショナルに対する考え方の違いなのです」と木藤さんは話す。

 木藤さんにとって印象深いのは、台湾では撮影チームが家族のような雰囲気であることだ。日本の現場は、それぞれが自分の持ち場で与えられた役割を全うしようとする傾向にあると木藤さんは話す。例えば日本の場合、役者は自分の出番ではない時には別の場所で待機しているが、台湾の俳優の多くはスタジオをぶらぶらし、カメラマンと話したり、その他のスタッフと冗談を言い合ったりして、リラックスした様子なのだという。

 「それから、食事の際にはスタッフが『ご飯の時間ですよ』と叫ぶと、みんな走って弁当を取りに行き一緒に食べます。台湾の俳優はスタッフと気楽にコミュニケーションを取るので、作品はより一層、みんなで作り上げた感覚になります」。「流氓蛋糕店~ショコラ~」に主演した長澤まさみさんは、撮影後も台湾のスタッフと連絡を取り続けており、スタッフが日本に遊びに来た時には長澤さんも集まりに参加することがあるのだと木藤さんは明かした。

撮影現場の木藤さん(右、本人提供)
撮影現場の木藤さん(右、本人提供)

▽日本で高まる台湾ドラマへの注目度

 コロナの影響で多くの活動が中断されているものの、台湾の映像作品は動画配信サービスを通じて次第に日本市場を切り開いていると木藤さんは語る。「偶像劇」と呼ばれる台湾のアイドルドラマはかつて日本を席巻したが、台湾ドラマはジャンルの多様化に伴い、2019年以降は日本でファンの幅を広げている。

 「『悪との距離』(我們與惡的距離)、それから『次の被害者』(誰是被害者)によってより多くの日本人が台湾の作品に注目するようになりました。以前は台湾ドラマといえばアイドルドラマが有名でしたが、今では社会派の作品があることも知られるようになっています。男性も台湾ドラマを見るようになりました。最近も業界のプロデューサーや監督から台湾の監督や俳優について聞かれました。コロナ収束後、日本と台湾の間により多くのコラボレーションが生まれてほしいと思います」

 日台の架け橋になってから10年。その気持ちを尋ねてみると、木藤さんは迷うことなく「気に入っています」と答えた。「台湾は私が世界を知る『目』のようなものだからです。例えば積極的に人助けができるようになるなど、以前日本にいた時とは多くの部分で変わりました」。意思疎通の過程は煩雑だが、辛い時はないのか。「以前、きちんと考えたことがあるのですが、本当にありません。日本人だから日本人のことを分かっています。でも台湾の考え方を伝えたり、『台湾の作品は素晴らしいです』と日本人を説得したりすることもでき、そのことによって嬉しい気持ちになります。台湾のみなさんが私にいろいろなことを教えてくれて、面倒を見てくれることにとても感謝しています」と木藤さんは言う。

 コロナの影響で台湾に渡航できなくなった今、日本で小籠包の名店「鼎泰豊」に頻繁に足を運び、台湾に思いを馳せているという木藤さん。だが、一番恋しいのはファストフード店「頂呱呱」のさつまいもフライだと明かす。「頂呱呱に日本進出をしてもらうためにはどのように説得すればいいと思いますか。日本の出版社に漫画の版権を交渉する時のように、台湾に対する熱意を彼らに伝えればいいのです」と笑った。(王心妤/編集:名切千絵)

 ※本記事は中央社の隔週連載「文化+」の掲載記事「非典型日本人不設限 木藤奈保子樂當偶像劇橋梁」を編集翻訳しました。

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