台湾のテレビ番組の祭典「第55回ゴールデン・ベル・アワード」(電視金鐘奨)は、昨年秋から今年にかけて放送された恋愛ミステリードラマ「時をかける愛」(想見你)が連続ドラマ作品賞を含む4部門を制し、米映像配信大手ネットフリックス(Netfilix)製作のドラマ「罪夢者」と並んで今年の最多受賞となるという結果で幕を閉じた。
9月下旬に開かれた今年の授賞式で特に印象的だったのは、台湾のドラマ界に希望に満ち溢れた雰囲気が広がっていたことだ。
近年の金鐘奨授賞式では、受賞者から「台湾での(ドラマ)作品制作は低迷している」(2018年、チェン・ヨウジェ監督)、「若い俳優には多くの題材(の作品)が必要。より幅広い題材を開発してほしい」(2016年、ウー・カンレン)など、台湾ドラマの現状を憂い、変化を求める声が多く聞かれ、悲壮感も漂っていた。
だが、今回はこういった、台湾ドラマに苦言を呈するような発言は無く、反対に、受賞者のスピーチからは、台湾ドラマへの期待感が感じられた。▽ 台湾ドラマ大爆発 良作が揃う
明るい雰囲気が広がった大きな理由の一つには、質の高いドラマが数多く揃ったことがあると考えられる。今年の金鐘奨は台湾メディアで「台湾ドラマ大爆発」と称され、良作の多さが話題になっていた。
筆者も連続ドラマ部門にノミネートされた5作品を全て見てみたが、どの作品も見応えがあり、一気に見終わってしまったほどだった。
連続ドラマ部門にノミネートされた5作品―「時を~」、「いつでも君を待っている」(用九柑仔店)、「次の被害者」(誰是被害者)、「噬罪者」、「鏡子森林」―のうち、「時を~」と「いつでも~」は米フォックスネットワークスが製作に参加、「次の~」はネットフリックスが世界独占配信権を取得した。このことから、台湾のドラマ界に世界からの注目や資金が集まっていることがうかがえる。
ジャンルに関しても、「時を~」は恋愛ミステリー、「いつでも~」は人情ドラマ、「次の~」はサスペンス、「噬罪者」は犯罪ヒューマン、「鏡子~」は職業系ドラマとバラエティー豊かだ。
公共テレビの於蓓華・番組部マネジャーは2019年の授賞式で「台湾の制作チームはとても素晴らしい。だから各界には台湾ドラマに投資をしてほしい。より多くの資源が入ってきてこそ、より多様なジャンルの作品が作れる」と呼び掛けてきた。2019年以降の台湾ドラマの開花は、まさにこの言葉を反映しているように思える。
▽ 「時を~」は日本などアジア各国でリメークへ「時を~」は連続ドラマ部門作品賞、同主演女優賞、脚本賞、番組革新賞の4冠を制した。
主演女優賞を受賞したアリス・クー(柯佳嬿)はステージ上で、「頭が真っ白な状態で授賞式に参加した。全てが現実からかけ離れているように思える」と声を震わせながらスピーチ。「2020年にはいろいろなことが起こった。一人ひとりがより多くの温もりと善意を周囲の人々と分かち合えますように」と願いを伝えた。アリスの連続ドラマ主演女優賞獲得は2016年の「結婚なんてお断り!?」(必娶女人)以来2度目。
チェン・ジーハン(陳芷涵)プロデューサーはプレスルームで、「遠くない未来に韓国版、日本版、タイ版、ベトナム版など多くのバージョンの『時を~』が見られるようになる」と紹介。中央社の取材に対し、日本や韓国などにすでにリメーク権が売れていることを明らかにした。フォックスネットワークスの親会社であるウォルト・ディズニー・香港台湾のDavid Shinは受賞スピーチで、「ローカルコンテンツにより多くの投資ができることを期待している」と述べ、台湾の映像業界へのさらなる投資に意欲を示した。
「時を~」は2つの都市、2つの時代が交差するラブミステリー。昨年秋から今年初めにかけて台湾で放送され、先が読めない展開で大きな話題を集めた。12言語に翻訳され、100カ国以上で放送されている。▽ 連続ドラマ主演男優賞はヤオ・チュンヤオ 激戦制す
ジョセフ・チャン(張孝全、チャン・シャオチュアン)やカイザー・チュアン(荘凱勛)、グレッグ・ハン(許光漢)ら強豪がひしめいた連続ドラマ主演男優賞を制したのは、「鏡子森林」で、表面的には軽薄に見せながらも内なる情熱を秘めた社会担当の記者を演じたヤオ・チュンヤオ(姚淳耀)。
金鐘奨ドラマ部門の座長を務めた陳世杰氏によれば、審査員の最後の投票で、チュンヤオがジョセフに1票差で勝ち、受賞となった。陳氏は「内なる正義感を表現すると同時に、上層部からの圧力や正義、政治、ヤクザとの間の葛藤をさっぱりと処理した」とチュンヤオの演技を評価した。チュンヤオは2016年に「在台湾的故事」で紀行番組司会者賞を獲得したことがあるが、演技部門での受賞は初めて。呼び声が高かった「時を~」のグレッグが受賞を逃したことについては、「スターとしての魅力が大きいのは間違いないが、演技の複雑さにおいてはまだ伸びしろがある」と説明した。
▽ ミニドラマ作品賞は「おんなの幸せマニュアル」
ミニドラマ作品賞は、都会に生きる独身アラフォー女性を主人公にしたコメディードラマ「おんなの幸せマニュアル」(俗女養成記)が受賞した。
▽ 台湾の伝統市場を写した番組が「番組革新賞」
革新的な番組に贈る「番組革新賞」は、台湾の伝統市場で働く人々と司会者の対話を通じて市場の魅力を紹介する「我在市場待了一整天」が「時を~」とともに受賞した。
司会を務める社会学者のリー・ミンツォン(李明璁)はプレスルームでのインタビューで、「伝統市場の風情は誇りに値する。世界的な人類文化遺産なのだから」と話した。同番組はライフスタイル番組賞や非ドラマ部門撮影賞と合わせ、3冠に輝いた。
▽ アーロンが司会に初挑戦 クラウド・ルーがパフォーマンス
今年の授賞式は、3組の司会者がリレー式でつないでいく形式で進められた。俳優のアーロン(炎亞綸)はタレントのサム・ツェン(曽国城)とタッグを組み、主要部門の連続ドラマ部門作品賞や主演賞などを発表するトリのパートの司会を務めた。アーロンが「三金」と呼ばれる台湾エンターテインメント界の主要アワード(金曲奨、金鐘奨、金馬奨)の司会に挑戦するのは初めて。軽妙なトークで場を盛り上げた。
ステージプログラム「これは私の舞台」では、歌手のクラウド・ルー(盧広仲)とタレントのLuLu(ルル)がコントのようなトークと歌を交えたコミカルなステージを披露。会場を笑いに包んだ。▽ 例年以上に多くのスターが集結したレッドカーペット今年の金鐘奨は台湾ドラマの盛り上がりもあり、例年以上に人気俳優が多く集結した。レッドカーペットに登場した主なスターを紹介する。
<写真特集>中央社のカメラマンが、メディアの撮影定位置を抜け出して様々な角度から捉えた写真をまとめています。金鐘奨レッドカーペットのまた違った一面を垣間見ることができます(本文は中国語)。応募期間の関係で今回の金鐘賞の対象にはなっていない今年の新作台湾ドラマにも、公共テレビ(公視)の連続ドラマ史上最高視聴率を叩き出した家族コメディー「我的婆婆怎麼那麼可愛」や、工事現場で働く人の物語を描く「做工的人」など好評を博している作品が複数ある。台湾ドラマのさらなる盛り上がりに期待したい。
(名切千絵)