生成AI(人工知能)を利用した、いわゆる「ジブリ風画像」の流行が物議を醸す中、台湾の漫画家、陳漢玲さんは、新しい技術は便利だが、手描きの実感に取って代わるのは難しいだろうと話す。
大学教員としての顔も持つ陳さんは3月末にドイツ・ライプチヒで開催されたブックフェアに参加した際、中央社の取材に応じ、AIやデジタルツールによる創作に関する経験や考えを語った。
自身が大学院に通っていた頃、タブレットで絵を描いていたため長く手描きをしていないことに気づき、“創作”に対して距離感が生まれ、まるで親近感が持てない感じがしたと語る。「創作をしているという実感が湧かず、涙が流れてきました」。
作品を手描きしていた頃は全ての場面をはっきりと覚えていたが、デジタルツールを使い始めてからは、記憶に残っていないことに気づくことが増えた。「ぞっとしました。まるで自分が創作に加わっていないような感じがしました」という。
AIによる画像生成の流行は、著作権をめぐる議論を巻き起こしている。陳さんは、今、最も問題となっているのは、AIが作者の許可を得ずに大量の作品を学習していることだと説明。自身の画像データを使ってAIを訓練できるのであれば、技術の使用自体には抵抗はないとしつつ「問題なのは、今の状況がこうではないことです」と語る。
「美少女戦士セーラームーン」や「幽☆遊☆白書」などのアニメを見て育った陳さん。中学生の頃、つけペンを使って漫画を描き始めた。家族の経営する朝食店を手伝いながら練習を重ね、高校の頃には賞を獲得。大学では漫画家の助手として働き、少しずつ経験を積んでプロの漫画家に上り詰めたという。そんな陳さんは、台湾での漫画制作材料の変遷を見てきた。
若い頃には台北・西門町の「アニメイト」に足しげく通い、画材を求めた。アナログな漫画制作で使う「スクリーントーン」の売り場が、最初は小さなコーナーだったのが壁一面にまで拡大し、それからデジタル化の波に押されて静かに撤去されていくまでを見届け「本当に悲しく、やるせない思いでした」と振り返る。
AIなどのデジタルツールがどんなに進歩しても、陳さんは教師として、そして創作者として初心を貫くという。漫画を描くのが好きな子どもは、結局は自らの手を使って紙に絵を描き、自分だけの世界を作り上げるのだと語る。「私はやっぱり、絵を描くのが好きです。自分が感じたり、愛があったりする物を描くのが好きです。愛がない創作なんて、長くは続かないのですから」。