9月16日で引退する歌手の安室奈美恵。台湾でも高い人気を誇り、これまでに13回訪台、6度の単独公演を開催。その度に安室旋風を巻き起こしてきた。引退を前に、安室の訪台の記録を中央社の秘蔵写真を交えながら振り返る。
▽初訪台は1997年 台湾の第一印象は「暑い」
初訪台は1997年5月24日。小室ファミリーのTRF、globeとともに、台北市の中山サッカー場(現花博争艶館)で同27、28日に開催する野外コンサート「TK PAN-PACIFIC TOUR '97 IN TAIPEI」に参加するため、台湾を訪れた。
26日には小室哲哉らとともに記者会見に出席。台湾のメディアの前に初めて公式に姿を見せた。実は空港に到着した際、安室の姿をカメラに収めようと大勢の報道陣が殺到し、日本側のスタッフともみ合いになる騒ぎがあったこともあり、宿泊するホテルから一歩も出ていなかった安室。それだけに、記者会見で安室が初めて笑顔を見せると、報道陣からは歓声や拍手が上がったという。
会見では、台湾の第一印象について、「暑い」と率直にコメント。恋愛に関する質問はNGとされていたが、交際相手の有無を問われると、「恋をしていないと生きられない」と気さくに答え、台湾の報道陣を喜ばせた。
▽初の台湾単独公演をPR ファン殺到でインストアイベント中止に
2001年8月1日には、台湾で初となる単独コンサートのPRのために2度目の訪台を果たした。この時の訪台では台北市内のレコード店でのファンイベントが予定されていたが、あまりに多くのファンが殺到したため、交通が妨げられ、警察の取り締まりによって中止になった。
9月28日、30日、10月1日に台北市の南港101で開催予定だったコンサートは台風襲来により中止となり、台湾のファンは涙をのんだ。
▽コンサートPRのため3度目の訪台
台風でのライブ中止から約3年。2004年5月1、2日に「SO CRAZY tour」の台北公演を新荘体育館(新北市)で開催することが決まり、安室はコンサートのPRのため4月13日に訪台。翌14日に台北市内で開かれた記者会見には、チャイナドレス姿で登場し、「大家好」(みなさんこんにちは)と中国語でのあいさつも披露した。
15日の帰国の際には、安室のボディーガードと台湾の記者の間で激しい衝突が発生し、恐怖のあまりに安室が泣いてしまうアクシデントもあった。
▽2年連続で台北アリーナ公演
2008年4月12、13日に行われた「PLAY MORE!!」台北公演では、収容人数1万人規模の台北アリーナ(台北市)のステージに初めて立った。その前の1月28日には滞在時間26時間という弾丸日程でコンサートのPRのために訪台。同日の記者会見ではスポンサーからピンクパンサーのぬいぐるみを贈られ、無邪気な笑顔を見せた。
翌年の2009年6月20、21日にも「BEST FICTION TOUR 2008-2009」で台北アリーナ公演を開催し、2年連続で台湾でパフォーマンスを披露した。同ツアーのDVD・ブルーレイ作品には台北公演の模様が収録され、台湾のファンにとっては嬉しいプレゼントとなった。安室の海外公演が映像化されるのはこの時が初めて。
この時の公演のために台湾に到着した際には、ボディーガードが検疫検査場でサーモグラフィーの検査にひっかかるハプニングが発生。過去の訪台では、スタッフ、ボディーガードと報道陣の衝突で度々顔を曇らせてきた安室だが、今回はボディーガードの珍事によって、リラックスした笑顔を見せた。
▽アルバムのPRで訪台 台湾の歌姫・ジョリンと交流
2012年6月29日、デビュー20周年記念のアルバム「Uncontrolled」のPRのため3年ぶりに訪台。同日の記者会見では、過去の台湾公演で会場全体での大合唱が起こったことに触れ、台湾公演が印象深いものになっていることを明かした。
この時は4日間滞在し、テレビ番組のインタビューなどにも応じた安室。仕事の合間には、台湾の歌姫、ジョリン・ツァイ(蔡依林)と食事を共にしたほか、鍋料理に舌鼓を打ったり、ナイトクラブにお忍びで遊びに行ったりと台湾を楽しんだ。
2012年の記者会見で台湾公演の予定について聞かれ、「是非やりたい」と答えていた安室。それからわずか半年余りの2013年2月23、24日、20周年を記念した「ASIA TOUR 2013」の台湾公演を台北アリーナで開催した。20日に到着した際には、台北松山空港では300人超えるファンに出迎えられた。
▽ジョリンとコラボ ライブにゲスト出演
2012年の訪台で友情を育んだのをきっかけに、2014年にはジョリンとのコラボレーションが実現。ジョリンは安室同様、歌って踊れる女性アーティストで、台湾のみならず中華圏で高い人気を誇る。安室は2014年11月、コラボ曲「I' m Not Yours」のミュージックビデオ撮影のため秘密裏に訪台し、同11日に中部・台中市霧峰林家花園で撮影を行った。ジョリンの所属レコード会社によると、2人は食事をした際、音楽やダンス、パフォーマンス、スイーツの話題で意気投合していたという。
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安室は2015年5月25日に台北アリーナで開かれたジョリンのコンサートにサプライズでゲスト出演し、超ミニのチャイナドレス姿で「I' m Not Yours」を披露。日台の2大歌姫の競演に、割れんばかりの歓声が響いた。安室は曲の途中で登場し、歌い終わるとトークをすることもなく舞台を下りたため、姿を見せた時間はほんの2分ほど。あっという間のパフォーマンスに、会場は曲が終わってもしばらくどよめきが続いた。
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翌2016年の3月5、6日には「LIVEGENIC 2015-2016」の一環で、5度目の台湾単独公演を開催した。
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▽台湾ラストコンサート ファンにお別れ
2017年9月20日、安室引退が発表されると、台湾のテレビやネットもすぐさま関連のニュースを報道。この知らせは台湾にも衝撃を与えた。
最後の訪台は今年5月。ファイナルアジアツアー「〜Finally〜 in ASIA」の最後を飾る台北公演のため、同17日に台北松山空港に降り立った。到着ロビーには前回よりも多い約500人のファンが集結。安室が姿を見せる前から「奈美恵」コールが上がったり、「台湾ラブユー」という声援が飛んだりと、空港はファンの熱い思いで包まれた。
19、20日のコンサートでは、観客からの鳴りやまぬ大歓声に目をうるませ、声を詰まらせながらファンに感謝のメッセージを伝えた安室。台湾ファンも、アンコールで「Hero」を合唱したり、スタンドで「TW ハート NA」の文字を作ったりし、一丸となって安室への愛を伝えた。台北のランドマーク、台北101には有志のファンから集められた資金で、「安室奈美恵」の文字が写し出された。
中央社の芸能担当記者によると、安室の台湾でのコンサートは取材が制限され、数年前までは大手紙のみにしか開放されていなかったという。今回は案内状を配布した媒体のみ、かつ各媒体1人という条件が設けられた。日本を含め海外メディアの取材はNGとされ、会場まで来たもののプレスルームへの入場を断られた日本のカメラマンの姿もあった。
台湾の記者の中にも安室のファンは少なくない。大手紙のあるベテラン記者は、ファン歴20数年といい、コンサート取材中も歌を口ずさんでいた。
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オールタイムベストアルバム「Finally」の台湾での売上枚数は、1万5000枚近くに上った。日本の女性アーティストの台湾でのアルバム売上が1万枚を突破するのは2010年以来で、衰えぬ人気を証明した。
安室がもうすぐ満26年を迎える歌手人生の中で及ぼした影響の範囲は日本だけに留まらない。台湾の人々をも励まし、勇気付け、憧れの的であり続けてきた。歌手・安室奈美恵はこれからもかけがえない存在として、台湾のファンの心の中で輝き続けるだろう。(編集:名切千絵)