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第35回金曲奨授賞式<詳報> インディーズバンドが最多3冠 日本にルーツの歌手も受賞/台湾

2024/07/12 17:49
華語男性歌手賞を受賞したエム・シー・ホットドッグ(左)と華語女性歌手賞を受賞したシーシー・スン(右)=台北・台北アリーナで2024年6月29日、中央社記者翁睿坤撮影
華語男性歌手賞を受賞したエム・シー・ホットドッグ(左)と華語女性歌手賞を受賞したシーシー・スン(右)=台北・台北アリーナで2024年6月29日、中央社記者翁睿坤撮影

台湾を代表する音楽賞「ゴールデン・メロディー・アワード」(金曲奨)。35回目を迎えた今回の授賞式の主なトピックスを紹介する。

▽ 年間アルバム賞はノー・パーティー・フォー・ツァオ・ドン「瓦合」、最多3冠制す

文化部(文化省)影視・流行音楽産業局が主催する金曲奨。今年の応募数は過去最高だった昨年に比べると、アルバム数は約100枚減の1568枚、作品数は計2万4071件だった。

最高賞の年間アルバム賞は、同賞のノミネート作に加え、言語別(華語、台湾語、客家語、原住民語)の各アルバム賞の全候補作の中から選ばれる。

欠席したメンバーに代わって受賞スピーチをするノー・パーティー・フォー・ツァオ・ドンのマネジャー(台湾テレビ提供)
欠席したメンバーに代わって受賞スピーチをするノー・パーティー・フォー・ツァオ・ドンのマネジャー(台湾テレビ提供)

計25作品の中から年間アルバム賞に輝いたのは、インディーズロックバンド、ノー・パーティー・フォー・ツァオ・ドン(草東沒有派対)のセカンドアルバム「瓦合」。審査委員長を務めた音楽プロデューサーの陳子鴻氏は同アルバムについて、2017年に新人賞とバンド賞を受賞した前作と比較して「彼らの成長を感じた」と称賛。またアルバム全体がかっこいい作品に仕上がっており、伝えたいメッセージも直接的だったと評価した。

ノー・パーティー・フォー・ツァオ・ドンは華語アルバム賞とバンド賞も受賞し、計3冠で今回の最多受賞となった。この日は中国でのコンサート開催のため、メンバーは欠席し、マネジャーが代わりに受賞スピーチを行った。マネジャーは年間アルバム賞の受賞スピーチで「本当にメンバーにこの場にいてほしかった」と残念がり、自分たちの音楽を聴いてくれた全ての人に感謝した。またバンド賞の受賞スピーチでは、2021年に亡くなったドラマーの蔡憶凡さんの名前を出し、蔡さんとその家族に感謝を伝えた。

華語アルバム賞には「瓦合」の他、フール・アンド・イディオット Fool and Idiot(傻子与白痴)「姿態」、アキューズファイブ Accusefive(告五人)「帯你飛」、ナイウェン・ヤン(楊乃文)「Flow」、シュー・ジュン(許鈞)「期待集」、ジュード・チウ(裘徳)「裘徳」がノミネートされていた。ノミネートされた6枚のうち、3枚がバンドの作品だった。

▽ エム・シー・ホットドッグが華語男性歌手賞 パフォーマンスではトラブルも

リン・ジュンジエ(林俊傑)やエム・シー・ホットドッグ MC HotDog(熱狗)といったベテランと、シュー・ジュン(許鈞)とジュード・チウ(裘徳)の2人の中国歌手、バンド「TRASH」のボーカル兼ギターを務める阿夜(林志融)のソロ名義、マーズ23(Marz23)の5人がノミネートされた華語男性歌手賞。その中で、ヒップホップ歌手のエム・シー・ホットドッグが「髒芸術家」で賞を勝ち取った。華語男性歌手賞の受賞は2度目のノミネートにして初。

トロフィーを両手に掲げて喜びを表現するエム・シー・ホットドッグ。華語男性歌手賞に加え、作詞家賞も受賞した=台北・台北アリーナで2024年6月29日、中央社記者翁睿坤撮影
トロフィーを両手に掲げて喜びを表現するエム・シー・ホットドッグ。華語男性歌手賞に加え、作詞家賞も受賞した=台北・台北アリーナで2024年6月29日、中央社記者翁睿坤撮影

エム・シー・ホットドッグは華語男性歌手賞の発表前にはパフォーマンスを披露。だが、ステージに登場してすぐにマイクから音が出ないというトラブルに見舞われた。すぐにスタッフが別のマイクに取り替えたものの、それでも音が出ず、エム・シー・ホットドッグは歌唱を中断させ、「もう一回チャンスをちょうだい」とひざまずいて訴えた。

マイクの復旧を待って改めて行われたステージでは、大勢の女性ダンサーを従えて熱気あふれるパフォーマンスを披露。会場のボルテージを高めた。

熱気あふれるパフォーマンスを披露するエム・シー・ホットドッグ(台湾テレビ提供)
熱気あふれるパフォーマンスを披露するエム・シー・ホットドッグ(台湾テレビ提供)

▽ 華語女性歌手賞はシーシー・スンが初受賞

華語女性歌手賞には、2度目の受賞を狙うナイウェン・ヤン(楊乃文)、3度目のノミネートにして初受賞を目指すシーシー・スン(孫盛希)、初ノミネートのジョウエムバーバー(9m88)、中国のシンガーソングライター、スー・ユンイン(蘇運瑩)、同じく中国の歌手ティア・レイ(袁婭維)がノミネート。シーシーが念願の初受賞を果たした。

受賞スピーチで「自分だとは思わなかった」と驚いてみせたシーシー。「今年でデビューしてからちょうど10年。受賞の意味は大きい」と感慨深げに語った。

華語女性歌手賞初受賞で笑顔を見せるシーシー・スン=台北・台北アリーナで2024年6月29日、中央社記者翁睿坤撮影
華語女性歌手賞初受賞で笑顔を見せるシーシー・スン=台北・台北アリーナで2024年6月29日、中央社記者翁睿坤撮影

▽ いきものがかりが海外初パフォーマンス

授賞式にはパフォーマンスゲストとして、日本から人気デュオのいきものがかりが登場。アニメ「NARUTO-ナルト- 疾風伝」のオープニングテーマとして台湾でも知られる「ブルーバード」で会場を盛り上げた後、バラードの名曲「SAKURA」でしっとりとした歌声を響かせた。

パフォーマンスで会場を盛り上げるいきものがかり(台湾テレビ提供)
パフォーマンスで会場を盛り上げるいきものがかり(台湾テレビ提供)
レッドカーペットを歩くいきものがかりの2人(台湾テレビ提供)
レッドカーペットを歩くいきものがかりの2人(台湾テレビ提供)

ボーカルの吉岡聖恵は中国語で「大家好!很高興見到你們」(皆さんこんにちは。会えてうれしいです)とあいさつした。

パフォーマンス直後にはインタビューを受け、吉岡は「今回初めて海外でのライブだったのですが、とっても温かく受け止めてくれて最高です」と笑顔。ギター兼ピアノの水野 良樹は「皆さん立ち上がってくれたりして、曲を受け止めてくれてるんだなと思ってすごくうれしかったです」と話した。

今回のパフォーマンスが海外初ステージとなったいきものがかり。台湾でのコンサート開催について聞かれると、2人は「開きたいですね」と意欲を示した。

▽ 日本にルーツ シンガーソングライターの片山涼太が歌曲プロデューサー賞受賞

歌曲プロデューサー賞には、日本にルーツを持つシンガーソングライター、片山涼太がマレーシア映画「アバンとアディ」(富都青年)の主題歌「一路以来」で選ばれた。片山は金曲奨初受賞。

歌曲プロデューサー賞を受賞した片山凉太(右)とロン・ウェンホン(龍玟宏)。片山は日本には4歳以降戻っていないため日本語は話せないと明かし、中国語でインタビューに応じた=台北・台北アリーナで2024年6月29日、中央社記者翁睿坤撮影
歌曲プロデューサー賞を受賞した片山凉太(右)とロン・ウェンホン(龍玟宏)。片山は日本には4歳以降戻っていないため日本語は話せないと明かし、中国語でインタビューに応じた=台北・台北アリーナで2024年6月29日、中央社記者翁睿坤撮影

日本人の父親とマレーシア人の母親の間に生まれた片山。4歳でマレーシアに移住し、現在もマレーシアを拠点に活動している。

片山は受賞後、プレスルームで中央社の取材に応じ、同曲はボーカルとピアノだけの楽曲だったため、受賞は「意外だった」と率直な気持ちを明かした。

同曲は、マレーシアで行われた授賞式の際に、自分を気に入ってくれた「アバンとアディ」のジン・オング監督から「参加しないか」と声をかけられたのをきっかけに制作することになったという。片山は主題歌だけでなく、同作の音楽を手掛けた。「一路以来」は映画賞「金馬奨」でも昨年、歌曲賞にノミネートされた。

現在は2枚目のアルバムを準備中だという片山。主には華語と英語で曲作りをしており、今後も主に華語圏で活動していく予定だとしつつ、「アバンとアディ」ではマレー語の楽曲も手掛けたため、マレー語の音楽市場も視野に入れたい考えを示した。

▽ シンガーソングライター・SIRUP、台湾の歌手らとコラボの楽曲でノミネート

日本のシンガーソングライター、SIRUP(シラップ)は、台湾の歌手、The Crane(鶴)や韓国のwhooshとコラボレーションした楽曲「UMAMI」で歌曲プロデューサー賞にノミネートされ、3人で一緒にレッドカーペットを歩いた。

SIRUPは囲み取材で「日本のインディペンデントアーティストとしてここにいられるのは本当に光栄」とにこやかな表情を浮かべた。

レッドカーペットを歩くSIRUP(中央)とThe Crane(鶴=右)、whoosh(左)=台湾テレビ提供
レッドカーペットを歩くSIRUP(中央)とThe Crane(鶴=右)、whoosh(左)=台湾テレビ提供

▽ 台湾原住民族の歌手・パナイが「天安門事件」に言及 会場驚かせる

受賞スピーチをするパナイ(右)=台湾テレビ提供
受賞スピーチをするパナイ(右)=台湾テレビ提供

「夜婆」で台湾語アルバム賞を受賞した台湾原住民(先住民)族出身の歌手、パナイ(巴奈)が受賞スピーチで中国の「天安門事件」について言及し、会場を驚かせる一幕もあった。

パナイは「私たちの母親をもっとよく知らないといけない。母親とは台湾、この島のことです」と切り出した上で、「この苦難の島ではみんな大変。時には緑色に支配され、時には青色に支配される。流行音楽が政治と無関係だとは思わないでください」と民進党(緑色)と国民党(青色)の二大政党が代わる代わる政権を握る台湾の政治状況に触れ、関心を呼びかけた。

続けて「今晩、みんな必ず覚えていてください。金曲奨は(今年で)35年。知っていますか。天安門事件もちょうど35年ということを。私たちは忘れてはなりません。台湾頑張れ」と訴え、大きな拍手を浴びた。

▽ 中国歌手が直前に出席をキャンセル

華語男性・女性歌手賞には中国の歌手が計4人ノミネートされていたが、全て出席を取りやめた。文化部によれば、男性歌手のジュード・チウは前日までに台湾入りしていたものの、体調不良のため、急きょ中国に戻る必要があるとの連絡を受けたという。欠席の理由について、チウの所属レコード会社は中央社の取材に対し、個人的な要因だと説明した。

▽ 開催前に騒動 ワン・リーホンのステージが批判で中止に=故ココ・リーさんの追悼ステージ予定

授賞式のプログラムを巡り、開催前には騒動もあった。昨年7月に亡くなった歌手のココ・リー(李玟)さんの追悼ステージを、生前のココさんと親交があった歌手のワン・リーホン(王力宏)が行うとの情報が発表されると、各界から批判が噴出。批判の背景には、ココさんが生前、夫の浮気問題を抱えていたと一部で報じられたことや、リーホンが女性スキャンダルで一時活動を休止していたことがある。批判を受けてリーホンが出演を辞退し、文化部は発表の翌日、追悼パートの取りやめを発表した。

授賞式前に屋外で行われたレッドカーペットには、多くの音楽ファンが詰めかけた=台北・台北アリーナで2024年6月29日、中央社記者張新偉撮影
授賞式前に屋外で行われたレッドカーペットには、多くの音楽ファンが詰めかけた=台北・台北アリーナで2024年6月29日、中央社記者張新偉撮影

▽ 受賞一覧

■ 年間アルバム賞:瓦合(歌唱者:ノー・パーティー・フォー・ツァオ・ドン No Party For Cao Dong 草東沒有派対)

■ 年度歌曲賞:又到天黒(帯你飛)/(歌唱者:告五人)

■ 華語アルバム賞:瓦合(歌唱者:ノー・パーティー・フォー・ツァオ・ドン No Party For Cao Dong 草東沒有派対)

■ 台湾語アルバム賞:夜婆 Iā-Pô(歌唱者:巴奈 Panai)

■ 客家語アルバム賞:繭的形状(歌唱者:チウ・シューチャン 邱淑蟬)

■ 原住民語アルバム賞:宝蔵 Treasure(歌唱者:マカーブ Makav 真愛)

■ ミュージックビデオ賞:社交恐懼癌(CHIN UP!)(監督:張傑邦)

■ 作曲家賞:シュー・ジュン(許鈞)「歌一切」(期待集)/(歌唱者:シュー・ジュン)

■ 作詞家賞:エム・シー・ホットドッグ MC HotDog(熱狗)「楼上的房東」(髒芸術家)(歌唱者:MC HotDog熱狗)

■ 編曲家賞:シュー・ジュン「期待集」(期待集)/(歌唱者:許鈞)

■ アルバムプロデューサー賞:陳君豪「Flow」(歌唱者:ナイウェン・ヤン 楊乃文)

■ 歌曲プロデューサー賞:片山凉太、龍玟宏「一路以來」~映画「アバンとアディ」(富都青年)主題歌~(歌唱者:片山凉太)

■ 華語男性歌手賞:エム・シー・ホットドッグ MC HotDog(熱狗)「髒芸術家」

■ 華語女性歌手賞:シーシー・スン(孫盛希 Shi Shi)「Boomerang」

■ 台湾語男性歌手賞:スー・ミンユエン(蘇明淵)「心内烏空」

■ 台湾語女性歌手賞:ホアン・フェイ(黄妃)「十八般武芸」

■ 客家語歌手賞:ロウミー(柔 米 Zoomie)「鎮妹 Zhin‘ Moi」

■ 原住民語歌手賞:ウサイ・カウル(舞思愛)「美感 Harateng no Pangcah」

■ バンド賞:ノー・パーティー・フォー・ツァオ・ドン No Party For Cao Dong(草東沒有派対:林耕佑、詹爲筑、楊世暄、黄士瑋)「瓦合」

■ コーラスグループ賞:歐開合唱団 O-Kai Singers(葉微真、李湘君、葉孝恩、馮瀚亭)「最好的日常」 (Those Days)

■ 新人賞:マカーブ(Makav 真愛)「宝蔵」(Treasure)

■ インストアルバム賞:美麗的湾(演奏者:邱群、黄緊雋、達卡鬧、黄威、黄韻叡、黄煜程、胡哲睿、曹昌玄、盧品穎)

■ インストアルバムプロデューサー賞:ユー・ジャールン(余佳倫)、ライ・アーチュアン(頼二川)「at one」(演奏者:余佳倫)

■ インスト作曲家賞:スー・ユーハン(蘇郁涵)「嗨高科技 Hi-Tech Pros and Cons」自由的姿態 (Liberated Gesture)(演奏者:蘇郁涵)

■ アルバムデザイン賞:ウー・ジェンロン(呉建龍)/Flow

■ 歌唱レコーディングアルバム賞:姿態(主要録音技術者:ルー・シーウェン 陸希文)

■ インストレコーディングアルバム賞:Pluto Potato(主要録音技術者:蔡周翰)

■ 審査員団賞:エレファントジム(大象体操)

■ 特別貢献賞:リウ・チンチー(劉清池)、チェン・ホアジュエン(鄭華娟)

(名切千絵)

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