台湾で最も注目される音楽賞「ゴールデン・メロディー・アワード」(金曲奨)の第36回授賞式が6月28日、台北市の台北アリーナで開かれた。音楽人がそれぞれ個性豊かな衣装で一堂に集い、スポットライトを浴びる年に1度の華やかな祭典で、今年も感動や笑い、涙が繰り広げられた。授賞式の主な場面を紹介する。
▽ 年間アルバム賞は台湾語アルバム「Suí 水」 最多3冠制す
華語(中国語)、台湾語、客家語、原住民(先住民)語の言語別に賞が設けられる金曲奨。年間アルバム賞は言語別の作品賞にノミネートされた全ての作品の中から選ばれるもので、最高賞と目される。その年間アルバム賞を受賞したのは、台湾語女性歌手シリ・リー(李竺芯)の「Suí(スイ) 水」。同作は台湾語女性歌手賞、台湾語アルバム賞も受賞し、台湾のサンセット・ローラーコースター(落日火車)と韓国のHYUKOH(ヒョゴ)の両バンドによるコラボレーションアルバム「AAA」と並んで最多の3冠を制した。
レッドカーペット登場時から、台湾語とフランス語を融合させた「台湾式フランス語」による個性的なトークで大きな注目を集めていたシリ。「Suí 水」に収録される「足芳足芳」はシャンソンの要素を取り入れ、「台湾語だけどフランス語に聞こえる」という独特の音楽を生み出した。
審査員団主席を務めた丁曉雯氏はシリの「台湾式フランス語」がインターネット上でブームになり、このアルバムをきっかけに台湾語を学び始める若者が多くいることに触れ、同作の影響力の高さが審査のポイントの一つになったと明かした。
シリは年間アルバム賞の受賞後にプレスルームで取材に応じ、同作では台湾語、華語、フランス語、スペイン語、日本語を融合させ、これらは台湾で成長する過程で触れてきた文化だと紹介。「自分が台湾で音楽制作を行っていることに特に感謝したい」と台湾への愛を示した。
▽ Energyの「星期五晚上」が年間歌曲賞に 「16スクワット」で話題
年間歌曲賞には、男性5人組「Energy」の「星期五晚上」が選ばれた。同曲は深くしゃがむステップを16回連続で繰り出す「16スクワット」が話題を呼び、SNS上で「16スクワットチャレンジ」が大ブームを巻き起こした。
Energyは2002年に結成。歌って踊れるグループとして人気を博したが、09年以降は活動を停止。23年に初期メンバー5人での十数年ぶりにステージに立ち、24年から正式にグループ活動を再開させた。
メンバーは名前が呼ばれると、5人そろってステージに立った。メンバーのToroは、かつて「歌って踊る歌手は金曲奨をもらうのは難しい」と言われたことを明かし、「歌って踊る歌手の時代が来ました」とトロフィーを高く掲げた。
スピーチの最後には「僕たちがエナジーです」と高らかに叫び、大歓声を浴びた。
▽ トラウト・フレッシュとワー・ウェイが華語歌手賞受賞
華語男性歌手賞はトラウト・フレッシュ(呂士軒)が「好声豪気」で、華語女性歌手賞はワー・ウェイ(魏如萱)が「珍珠刑」で受賞。華語アルバム賞には「好声豪気」が選ばれた。
トラウトの金曲奨受賞は初。ワーは2度目の華語女性歌手賞受賞となった。
トラウトは受賞スピーチで、子供の頃に母親から「将来、ジェイ・チョウ(周杰倫)になる気なのか」と小言を言われたと話し、トロフィーを高く掲げて「お母さん、これがジェイ・チョウに一番近づいた姿だよ」といたずらな笑みを浮かべて笑いを誘った。
ワーは、今後も音楽を続けられるのか、自分は良い母親なのか、音楽を諦めた方がいいのかと悩んでいたことを明かし、「まだ続けられると思わせてくれてありがとう」と審査員に感謝した。また「ありがとう自分、私すごいよ」と自信に満ちた笑顔を見せ、「まだ足りない、(トロフィーを)もっと要る」と貪欲な姿勢を見せた。
丁審査員団主席はトラウトについて、ラップだけでなく歌もうまいと称賛。この二つの要素を兼ね備えている歌手は少ないとし、ラップのリズム感においても変化があり、とても繊細だと絶賛した。
▽ 今年は「多様性」と「国際性」が光る
丁審査員団主席は今回の金曲奨について「多様性」と「国際性」を特徴に挙げた。言語面だけでなく、言語や音楽スタイルをミックスさせた作品も登場したとし、国際性については「(台湾音楽の)質感はすでに世界に羽ばたけるものだ」と質の高さを評価した。
特に原住民語の作品は「非常に素晴らしかった」と話し、「台湾の音楽が世界に羽ばたく上で、原住民語の音楽は非常に重要な架け橋になる」と期待を寄せた。
▽ パフォーマンスでも原住民族歌手が観客魅了
受賞者発表の合間に行われるパフォーマンスでも原住民族歌手の存在感がキラリと光った。昨年原住民語アルバム賞や新人賞を受賞したマカーブ(makav 真愛)が参加するグループ「那屋瓦少女隊」や「漂流出口」「Ponay卜耐」「貨櫃兄弟」の4組がコラボレーションし、ロックやR&B、ゴスペル、EDMといった幅広いジャンルの音楽を取り入れたエネルギッシュなステージを披露した。20年に年間アルバム賞など3部門を制したパイワン族歌手のABAOらが音楽ディレクターを務めた。
▽ MISIAがパフォーマンスゲストで登場 圧巻の歌声で会場を震わせる
海外からのパフォーマンスゲストとして、日本の歌姫MISIAが登場し、「希望のうた」と「明日へ」の2曲を弦楽編成のバックバンドによる生演奏で披露した。
台湾で7年ぶりにステージに立ったMISIA。その圧倒的な歌唱力で観客の心を震わせた。特に「明日へ」のラストでは20秒余りのロングトーンで観客を驚かせ、スタンディングオベーションを浴びた。プレスルームでも自然と大きな歓声と拍手が上がり、「すごすぎる」などとつぶやく声も聞かれた。
歌唱した「明日へ」は復興応援メッセージソングとして制作された楽曲。昨年4月に台湾東部沖で発生した地震の影響で、翌日に予定されていた台北公演の中止を余儀なくされたMISIAは中国語で「一緒に明日に向かいましょう。また会えますように」とあいさつし、台湾の人々に温かいエールを送った。
▽ 逝去したカリル・フォンに審査員団賞
審査員団賞は、今年2月に41歳の若さで逝去した歌手のカリル・フォン(方大同)の遺作「夢想家」に贈られた。丁審査員団主席は、同アルバムを聞くと「生命の最後の時にカリルがどれだけ命を燃やして作品を作り上げたのかを感じ取れた」と述べ、カリルの音楽に対する情熱に敬意を表した。
▽ 受賞一覧
■ 華語アルバム賞:好声豪気(歌唱者:トラウト・フレッシュ)
■ 台湾語アルバム賞:Suí 水(歌唱者:シリ・リー)
■ 客家語アルバム賞:牛騒 New Soul(歌唱者:ホアン・ズーシュエン 黄子軒)
■ 原住民語アルバム賞:VAIVAIK 尋走(歌唱者:ダイ・シャオジュン 戴曉君 Sauljaljui﹚
■ ミュージックビデオ賞:Antenna「AAA」(監督:rafhoo)
■ 作曲家賞:カリル・フォン「才二十三」(夢想家)(歌唱者:カリル・フォン)
■ 作詞家賞:チャン・カンシュン(張淦勛、Giyu Tjuljaviya)「南迴之子」(雲就要翻過山)/(歌唱者:チャン・カンシュン)
■ 編曲家賞:ダイ・シャオジュン、ウー・モンホイ(呉蒙惠)「Dipin Kari Tang 麵包 咖哩 刺蝟 (feat. 泰武古謠伝唱)」(VAIVAIK 尋走)/﹙歌唱者:ダイ・シャオジュン、泰武古謠伝唱)
■ アルバムプロデューサー賞:高潮(林志仁)「雲就要翻過山」(歌唱者:チャン・カンシュン)
■ 歌曲プロデューサー賞:海大富「BUNUN 布農」(QUEENDOM)/(歌唱者:アブス・タナピマ 阿布絲・塔娜比瑪 Abus Tanapima﹚
■ 華語男性歌手賞:トラウト・フレッシュ「好声豪気」
■ 華語女性歌手賞:ワー・ウェイ(魏如萱)「珍珠刑」
■ 台湾語男性歌手賞:チェン・イーハン(陳以恒)「缶頭塔」
■ 台湾語女性歌手賞:シリ・リー「Suí 水」
■ 客家語歌手賞:ホアン・ズーシュエン(黄子軒)「牛騒 New Soul」
■ 原住民語歌手賞:クム・バサオ(Kumu Basaw)「Qrasun 格拉孫」
■ バンド賞:TRASH(頤原、博文、魁剛、阿夜)「幸福的末班車」
■ コーラスグループ賞:動力火車(尤秋興、顔志琳)「結伴(豪華版)
■ 新人賞:サムシット(someshit 山姆)「愚公」
■ インストアルバム賞:練習曲(演奏者:張貝芝)
■ インストアルバムプロデューサー賞:蘇紫旭、安志華「以空」(演奏者:以空、蘇紫旭、安志華)
■ インスト作曲家賞:王育嘉、簡聿民、林均憲「参螺旋」/How Many Hippos(演奏者:How Many Hippos 幾何碼)
■ アルバムデザイン賞:Chanhee Hong、Na Kim「AAA」
■ 歌唱レコーディングアルバム賞:AAA
■ インストレコーディングアルバム賞:OR 手術劇院(主要録音技術者:Brian Montgomery)
■ 審査員団賞:カリル・フォン「夢想家」
■ 特別貢献賞:ウォン・シャオリャン(翁孝良)、マー・チャオチュン(馬兆駿)
(名切千絵)