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世界に歌声届ける台湾原住民の子どもたち 公演先の欧州各地で学び深める

2025/07/06 18:25
ドイツ・ベルリンの教会で合唱を披露する原声童声合唱団=中央社記者林尚縈撮影
ドイツ・ベルリンの教会で合唱を披露する原声童声合唱団=中央社記者林尚縈撮影

台北市に本部を置く「台湾原声教育協会」は、中部・南投県に原声国際学院小・中学部を、北部・新北市に同学院高校部を設置している。いずれも主に台湾原住民(先住民)の子どもたちを対象とした全寮制の学校で、英語や音楽、中でも合唱に力を入れているのが特徴だ。

同学院で学ぶ小学4年から中学2年までの児童生徒約30人で結成された「原声童声合唱団」は5月25日から6月10日にかけ、欧州各地への演奏旅行を行った。現地の人々に台湾の歌声を届けた他、バチカンではローマ教皇レオ14世との謁見(えっけん)を果たした。頼清徳(らいせいとく)総統や林佳竜(りんかりゅう)外交部長(外相)からも高い評価を得た。

影片來源:Vox Nativa Taiwan

演奏旅行を通じて学びを深める たくましい子どもたち

「第2次世界大戦でドイツの建物は全部焼き払われてしまったと思ってたけど、もうちゃんと再建されていたなんて。教会もとてもきれい!」。ドイツ・ベルリンを訪れた際、団員の1人は、教室で学んだものとは異なる風景に、興奮を隠せない様子を見せた。

彼らの演奏旅行は、教会での公演や観光名所でのゲリラ演奏だけではない。ワークショップに参加したり、現地の合唱団と交流したりする。ドイツではホームステイも体験した。

中学1年のイブさんはホームステイについて「アメリカのドラマみたいだった」と語る。英語でのコミュニケーションにも全く困らず、将来はドイツに留学してみたいと考えるようにもなったという。弟のイビさんは、英語は流暢ではないものの、翻訳アプリを使いこなして交流できたとし「初対面のドイツ人の家に泊まるのも、全然怖くなかった!」とたくましげに話していた。

ベルリンの壁に描かれたグラフィティーアートの前で歌う子どもたち=中央社記者林尚縈撮影
ベルリンの壁に描かれたグラフィティーアートの前で歌う子どもたち=中央社記者林尚縈撮影

教科書で学んだ歴史の現場にも足を運んだ。ベルリンの壁では「どっちが東ベルリンでどっちが西ベルリン?」と盛り上がったり、冷戦時代の東ドイツ・ソ連両首脳が接吻を交わすグラフィティーアート「神よ、この死に至る愛の中で我を生き延びさせ給え」(通称:兄弟のキス)に興味を示したりしていた。壁に書かれたドイツ語の意味を調べようと、メモを取る子どもの姿もあった。

さらに彼らは、食事が終わったら自分たちで食器を片付け、集合の号令がかかるとすぐに整列するなどの自律性を見せ、様子を見た多くの人が感銘を受けていた。

メンバー選考に三つの関門 一番大切なのは「品格」

食後に自発的に食器を片付ける合唱団員=中央社記者林尚縈撮影
食後に自発的に食器を片付ける合唱団員=中央社記者林尚縈撮影

原声童声合唱団や原声国際学院を創立した指揮者の馬彼得さんは「『原声』の核心は音楽ではなく教育にあります」と語る。合唱団を結成して児童・生徒を海外に連れていく目的は、地方の原住民集落で育った子どもたちに自信を与え、世界を知ってもらうためなのだ。

演奏旅行に参加を希望する児童・生徒は、三つの関門をクリアしなくてはならない。まず32曲を完璧に覚え、次に教師から推薦書をもらい、最後に校長と馬さんによる最終審査を受ける。学習態度や品格、生活能力が見極められる。

「最も大切なのは品格です。品格の部分が及第点でなければ、他の能力がどんなに良くても学校の代表として海外に行かせるわけにはいきません」と馬さんは話す。普段はやんちゃな子どもも、評価期間は教師に“良い子ぶり”をアピールするのだという。

教育で貧困の連鎖を断ち切る 創立者の理念

合唱団や学院を創立した指揮者の馬彼得さん(左)。元は体育教師だった=中央社記者林尚縈撮影
合唱団や学院を創立した指揮者の馬彼得さん(左)。元は体育教師だった=中央社記者林尚縈撮影

理念に共感し、ボランティアとして長年にわたって合唱団や学院に協力してきた作曲家の冉天豪さんは、以前は子どもたちは平日は自分の在籍するそれぞれの学校に通い、週末になると集まって歌っていたと振り返る。その後、音楽のレベルの高さを通じて社会からの支援を得て、今日の規模にまで成長したと話した。

2013年に台湾で公開され、興行収入2億台湾元(当時のレートで約6億5千万円)を超えるドキュメンタリーとしては異例のヒットを記録した映画「天空からの招待状」(看見台湾)。原声童声合唱団はこの映画に出演し、台湾最高峰の玉山の山頂で歌声を響かせた。創設者・馬さんのストーリーを描いた、21年に台湾で公開された映画「僕たちの歌をもう一度」(聴見歌 再唱)も多くの人に彼らの存在を知らしめた。だが、冉さんは「原声」の活動が社会から認められたにもかかわらず、一部の原住民の人々や長老からは疑問や反対の声が上がったと明かす。

学院の児童・生徒の大部分は、健全に機能していない家庭や、両親が家を留守にしがちな家からやって来る。このような環境では「暮らし」よりも「生きること」が優先され、高齢の世代は子どもに対して「早く学校を卒業し、早く稼ぎ手になる」ことを望む傾向にある。教育が軽視され、子どもたちの将来を阻む大きな障壁となっているのだ。

「原声」は、馬さんら創立者の教育理念を貫いている。それは、教育を通じて原住民集落における貧困や学習機会の喪失といった負の連鎖を断ち切り、子どもたちに自らの人生のストーリーを書き換えるチャンスを与えるというものだ。

学校が用意した学習ノート=中央社記者林尚縈撮影
学校が用意した学習ノート=中央社記者林尚縈撮影

毎年の海外演奏旅行は、台湾原住民の歌声を世界に羽ばたかせるだけでなく、校外学習としての役目も果たす。出発前には訪問先の歴史や文化を学び、現地では合唱を披露する他に、学習ノートに毎日記録を付けて見たことや感じたことを本物の学習経験に昇華させる。

校長の洪春満さんは、演奏旅行を通して子どもたちがより意欲的に勉強し、英語を身に付けてくれることを願っているとし、「『万巻の書を読み、万里の路を行く』ことこそが、子どもたちに世界と対話する力を授けるのです」と話した。

山あいで育った子どもたちは2週間の演奏旅行を通じて、台湾の歌声を海外に届けただけでなく、世界との交流の中から自分たちのさらなる可能性を見出すことができただろう。

(林尚縈/編集:田中宏樹)

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影片來源:中央社
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