(台北中央社)26日に投開票が行われた最大野党・国民党の立法委員(国会議員)24人らに対するリコール(解職請求)の賛否を問う住民投票は全てが不成立となった。複数の専門家が27日までに中央社の取材に応じ、リコール失敗の原因などについての分析を語った。国民党の支持基盤の厚さや動員力の強さを指摘する意見が多く上がった他、リコール推進の社会運動全体を肯定する声も聞かれた。
▽陳文甲氏(政治大学国際関係学部非常勤准教授)
リコール運動で国民党に批判的な市民団体と、運動を支援した与党・民進党は「反中護台」(中国に反対し台湾を守る)を訴えて全力で動員した。だが世論調査では多くの有権者がリコール戦略に疑問を感じていると出ていた。中間層や無党派層は冷静に投票する傾向にあり、一部で情勢を逆転させた。また国民党が第2野党・民衆党と手を組み、支持基盤を固めたことでリコール回避を成功させた。
▽王宏仁氏(成功大学社会科学部政治学科教授)
反対票は政党(野党)の動員で最大限引き出された。市民団体は当初「適任でない立法委員のリコール」を訴えていたが、結果的には与野党対決になった。民進党本部のリコール支援開始が遅かったほか、投票の対象となった選挙区のほとんどが国民党の地盤が強い地域だったため、同党が組織的動員を通じてリコール不成立に持ち込めた。
▽薛化元氏(台湾教授協会会長、政治大学台湾史研究所教授)
民主主義や憲政体制といった議題よりも、(国民党主導で投票の約2週間前に決まった)1人当たり1万台湾元(約5万円)の現金給付の方が関心を集めたことが結果から見て取れる。国民党の動員力がリコール推進派を大きく上回ることから、投票率が(ほぼ全ての選挙区で)5割を超えたことが国民党に有利な結果をもたらした。
リコール推進の過程で、人々の民主主義や憲政への理解が深まった。また従来は政治活動への参加が男性に偏っていたが、今回のリコール運動では女性のボランティアが多数を占め、台湾社会に好影響をもたらした。
▽張嘉尹氏(東呉大学法学部教授)
野党が掲げた生活に直結する政策が効果を発揮した。リコール推進派の市民団体が力を集めたことが、逆に国民党側の危機感をあおった。リコールが民進党主導ではなく社会運動だったため、動員力の違いが顕著に表れた。
現代の選挙はインターネット戦略が大きな鍵となっている。だがSNSは自身と似た考えを持つ人同士だけで交流する「エコーチェンバー現象」を生み、特に(短文投稿サイトの)スレッズでは(アルゴリズムによって)似た意見ばかりが目につくため、異なる言論を持つ人との関わりが生まれにくい。これも今回の結果と事前の予想が異なった原因である可能性がある。
市民団体が外部からの誹謗(ひぼう)中傷にさらされつつも、最終的に31件もの立法委員リコール案を(署名活動を経て)住民投票に持ち込んだのは、台湾における民主主義の成長の一部分だといえる。実を結ぶまでには時間を要するが、今後選挙に出る候補者にとっては無視できない力となるだろう。