(東京中央社)第35回高松宮殿下記念世界文化賞(演劇・映像部門)を受賞した台湾の映画監督、アン・リー(李安)さんが21日、東京都内で開かれた同賞関連のアーティスト・トークに出席し、映画評論家の渡辺祥子さんと対談した。リー監督はこれまでの映画製作の経験を踏まえ、冒険しさえすればどんなことでも起こり得るとの考えを語った。
リー監督は「グリーン・デスティニー」(2000年)で米アカデミー賞外国語映画賞を受賞後、「ブロークバック・マウンテン」(2005年)と「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」(2012年)で2度の同賞監督賞を受賞した経歴を持つ。
この3作品の成功は実は予想外だったと明かしたリー監督。「グリーン・デスティニー」「ハルク」といった大作を続けざまに撮り終え、「もう立ち止まってもいい」と思って撮ったのが「ブロークバック~」だったという。
「台湾の監督が撮る米ワイオミング州のゲイのカウボーイの物語なんてたぶん誰も見ない。ただアート系の映画館で上映されるくらいで、観客もゲイか少しの女性くらいだと思っていた。だから安心していた」とリー監督は当時の本音を告白。同作についてはなんの野心もなく、いつもは集中して映画製作に臨むが、同作の時は朝起きて仕事に行きたくない時が半分ほどで、ホッケーの試合を見に行ったこともあったと明かし、だからこそ、公開後の興行成績に驚いたと話した。
「グリーン~」も撮影途中で「なんの意味もない」と感じ、自分を完全に見失ったという。だが、華語(中国語)市場では結果がぱっとしなかったものの、それ以外の市場では大成功を収めた。リー監督は「それはとても不思議な経験だった」と振り返った。
「ライフ・オブ・パイ」についても、同作が自身に与えた感覚は「トラと一緒に太平洋を漂流するのと同じくらい」奇妙なものだったと話す。試写の時は評判が悪く、米国公開時の反応も芳しくなかったが、3カ月後になぜか全世界で大ヒットしたと紹介し、これらの経験から、映画撮影においては冒険しさえすればどんなことでも起こり得ると考えるようになったと語った。