(東京中央社)国際的な品評会で高く評価される台湾産ワインの醸造を手がける樹生酒荘(中部・台中市)の創業者、洪吉倍さんらが10日、原料となるブドウ「ブラック・クイーン」を生み出した新潟県の岩の原葡萄園を訪問した。また「日本のワインぶどうの父」とされる同園創業者、川上善兵衛氏の墓を参拝し、生前の貢献に感謝を伝えた。
洪さんに同行し、中央社の電話取材に応じた高雄餐旅大学(南部・高雄市)の陳千浩副教授(准教授)は、明治維新以降に西洋から持ち込まれたワイン文化が日本を席巻すると、それに感動した半田敏男氏が当時日本領だった台湾でワイン生産の夢を抱き、日本から持ち込んだブドウの栽培を始めたと説明。その中に岩の原葡萄園から購入したブドウ15品種が含まれていたと話す。
岩の原葡萄園では遠藤正義代表取締役をはじめ、園を挙げての盛大な歓迎を受けたとしている。
▽台湾人が実現したワイン醸造の夢
陳副教授によると、戦前には西洋文化の影響を受けた多くの日本人が新天地の台湾でワイン醸造を思い立ち、試行錯誤を繰り返しながらブドウ栽培に適した場所を探したという。樹生酒荘に近い台中市后里地域は、砂礫(されき)土が堆積した高台で、水はけや日照条件が良好なことから、ブドウ栽培とワイン醸造に適しているとみられていた。
太平洋戦争の勃発でこれらの日本人が台湾を離れると、台湾人がその夢を引き継いで栽培を継続。后里地域の月眉山では戦後、台湾で最高品質のブラック・クイーンが栽培されるようになった。
樹生酒荘が2000年代にワイン醸造を始めた際には多くの挫折があったが、現在の農業部(農業省)農糧署から推薦を受けた陳副教授の支援を得て、ブランデーをワインに加え、オーク樽で5年間熟成させた酒精強化ワイン「埔桃酒」の醸造に成功。14年にはフランス醸造技術者協会が主催する「ビナリ国際ワインコンクール」で金賞を獲得するなど、国際的に高い評価を得た。
陳副教授によれば、遠藤代表は日本に適したブドウ品種が100年余りの時を経て広まり、世界的に高い評価を受けるワインに使われているとは思わなかったと語ったという。また樹生酒荘の使用済みワイン樽は英スコットランドでウイスキーの熟成に用いられており、この日は洪さんからこのウイスキーが遠藤代表に手渡された。