(台北中央社)東部・台東県鹿野に残る日本統治時代建設の日本家屋「鹿野庄(区)役場」で2月中旬の春節(旧正月)期間、日本人女性による着付け体験が行われた。体験を実施したのは、70代の野添喜代子さん。野添さんが暮らす北海道月形町の地域住民に声をかけ、着物や帯を寄付してもらった。野添さんはこの活動を通じ、台湾の人々に「日本が平和を希求していることを感じてもらえれば」と話した。
鹿野庄役場がある鹿野郷竜田村は日本時代、日本人の移民村として開発され、庄役場は1920年代に建てられた。2000年代に入り、一時は取り壊しの危機に直面したが、保存を願う地域団体の出資によって残されることになった。現在は歴史建築に登録されている。
53歳で大学に入学し、日本統治時代に台湾の水利事業に大きく貢献した八田與一技師について学んだという野添さん。約7年前から台湾を訪問するようになり、新型コロナウイルス流行前に鹿野を訪れた際、地域団体の取り組みについて知った。以来、いずれ何らかの形で感謝を表したいと考えており、年齢的にもチャンスはもうあまりないとの思いから、今年の旧正月に着付け体験をすることに決めた。
正式に着付けを習った経験はないため、「自分が着付けを披露して大丈夫だろうか」と不安もあったと明かす。だが、参加者はみんな楽しそうで、片言の日本語で話しかけてくれたり、野添さんの訪台理由を聞いて「こちらこそお礼を言いたい」とコーヒーとケーキをごちそうしてくれたりした。イベントは予想を超える盛況で、着付けのひもが足りずに、万が一のために用意していた手拭いを割いて間に合わせるという事態も発生した。
当初はボランティアとして無料で行う予定だったが、体験としてお金をもらってそれを寄付できると知り、活動で集まった約7万5000円は庄役場の修繕費用として地域団体に寄付した。
来年以降も毎年、庄役場で着付け体験を行っていく。友人に声をかけ、大切で処分したくない着物などを寄付してもらい、着付け体験で使用した後はオークションで販売することを計画している。収益は建物の保存費用に充ててもらう予定だという。
若い頃、海外での長期滞在を夢見ていたという野添さん。仕事や子育てで当時は実現できなかったが、今海外でボランティア活動を行うようになり、「実はチャンスを逃していたのではなく、一番意味のある『時』に来られた」のだと思ったと語る。世界的に争いが続く中、「小さな国の一市民である私に何ができるのか」と自分に問い続けた末にたどり着いたのが今回の活動だった。イベントでも地域の人々や来場者など多くの人に助けられた。関わってくれた全ての人を通じて「平和を作るのは政治や経済ではなく、こうした一人と一人、個人や家族という単位なのだと実感した」と話した。
(名切千絵)