50年以上にわたって存在する国連総会2758号決議、通称「アルバニア決議」。中国は近年、この決議を台湾に対する法律戦の重点とし、「一つの中国」原則と決議を結びつけることで、台湾の地位を制限しようとしている。この決議の内容を正確に読み解いて決議の歴史を理解し、それと同時に中国による悪意ある曲解を打ち破ることが台湾と国際社会にとっての急務となっている。
2758号決議は1971年10月25日に第26回国連総会で採択された。「中華人民共和国の一切の権利を回復し、中華人民共和国政府の代表が国連における中国の唯一の合法的な代表であることを承認する」との内容が盛り込まれた。また、中華人民共和国が国連安全保障理事会の五つの常任理事国の一つであることを承認すると同時に、「蒋介石の代表を国連から追放する」との内容も掲げられた。
▽2758号決議が国連総会で採択されるまで
中国共産党は1949年10月1日、中華人民共和国の建国を宣言。それから71年10月に2758号決議が採択されるまでの22年間にわたり、北京当局はあらゆる手段で中華民国の国連における「議席」を奪おうとしてきた。
50年8月24日、当時政務院総理(首相)兼外交部長(外相)だった周恩来が国連安保理事会の議長国に電話をかけ、「国連における蒋介石の代表はすでに中国人民を代表するいかなる法律上、事実上の基礎をも失った。直ちに国連の全ての機関から排除すべきだ」と訴えた。
50年代中盤以降、国連総会ではほぼ毎年のように中国の加盟資格に関する議題が議論されるようになった。だが、米国の影響を鑑み、中華民国を支持する勢力が優勢だった。以降、中華人民共和国は繰り返し国連に電話をかけ、「国連における蒋介石の一切の権利を廃止し、新中国の国連での合法的な権利を回復」するよう求めた。
米ソが対立する冷戦時代、国連における中華民国の議席は米ソ両国の戦略的利益に基づいて決められており、中国共産党も、中華民国の議席に取って代わるには米国を引き込む必要があると深く認識していた。
▽国際情勢に変化 崩れゆく中華民国への支持
米ソ関係が58年から悪化に向かうと、米国は60年代のベトナム戦争による巨額の軍事支出と米国内での反戦の声の高まりを受け、「第三国」によってソ連との均衡を保つことが極めて必要になった。ニクソン米大統領(当時)が中国との付き合いを決めると、毛沢東中国共産党主席(同)は71年、名古屋で開催された世界卓球選手権後に米選手を中国に招く「ピンポン外交」を展開。米中関係は急速に熱を帯び、国連内部で中華民国を支持する陣営は崩壊し始めた。
中国共産党は国連が「1国1票」を採用していることから、外交の場で第三世界の国々との関係構築を積極的に進めた。2758号決議の最初の提案は、1971年7月15日にアルバニア、アルジェリアをはじめとする18カ国の共同提案国によって出された。共同提案国は後に23カ国に増え、そのうち11カ国はアフリカ諸国だった。
米国は当時、中華民国と中華人民共和国の双方を両立させようとしていた。ジョージ・ブッシュ米国連大使(同)は国連事務総長に書簡と覚書を送付し、「二重代表制」を正式に提案した。米国が提案したのは、中華人民共和国が中華民国に取って代わるのは「重大事項」であり、3分の2の多数によつて決めるべきであるとする追放反対重要問題決議案と、中華人民共和国の国連参加を認めつつ、中華民国を国連に留まり続けさせる「二重代表制」決議案の二つだ。
71年7月15日にアルバニアらによって提案が出されてから10月15日に表決が行われるまで、議題採択などを巡って攻防が繰り広げられた。最終的に国連総会はアルバニアなど23カ国が共同提案した「中華人民共和国の国連組織での合法的権利回復」に関する決議案を賛成76、反対35、棄権17で採択した。これによって、二重代表制決議案は表決に付さないこととなった。
▽2758号決議、台湾の地位に言及なく
中山大学中国・アジア太平洋地域研究所の郭育仁教授は中央社に対し、中華民国は当時、国連脱退を余儀なくされたが、中国は非常にがっかりしたことだろうと指摘する。2758号決議は非常にあいまいで粗雑であり、中華人民共和国の代表権問題を処理しただけで中華民国と国連の間の問題を処理しておらず、台湾にも、台湾の政治的地位にも言及していない。
この他、二重代表制は米国の利益に合致していたため、台北側は「暗に認めていた」が、北京側は「一つの中国」を強調し、これは「二つの中国」「一中一台」を進めるものだとの見方を示していた。そして米国の「二重代表制」の提案は米国の「台湾」に対する態度への疑念を北京に抱かせることとなった。当時米国は依然として中華民国と国交を結んでおり、米国と中華民国間の「米華相互防衛条約」は1980年1月にようやく終了した。
中華人民共和国が国連での中華民国の議席を奪って以降、中国共産党の国交樹立国は増加し続け、国際的地位も大きく向上した。1979年に中国と米国は国交樹立を宣言し、米中関係が大幅に改善すると、2758号決議は棚上げされ、台湾の地位に関しても議論されなくなった。
国民党・李登輝政権が1997年2月から国連「復帰」行動を開始し、続く民進党・陳水扁政権が2003年7月から「台湾」名義での国連加盟を目指すようになってやっと、2758号決議の「台湾の地位」における問題が表面化するようになった。これに対し、北京は潘基文国連事務総長(当時)を通じ、2758号決議を理由に台湾の国連加盟を拒否し、台湾は中国の一部だと主張する声明を発表した。
▽台湾の国際的存在感向上 中国の解釈に変化 2758号決議を「武器」に
近年、米中拮抗の局面が確定したのを背景に、台湾は半導体産業や新型コロナウイルスの感染制御、権威主義体制との対抗の第一線などの役割が国際社会に広く知られ、その知名度は大きく向上した。中国は国際社会において台湾を改めて知る流れが生まれたことを察知し、2758号決議の範囲を拡大解釈して国際法上で台湾に圧力をかけ、封鎖する武器とするようになった。
中国で対台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室(国台弁)が1993年と2000年に発表した台湾に関する白書では2758号決議について「台湾当局の代表を追放」したと解釈し、「二つの中国」「一中一台」を否定したとのみ書かれていた。だがペロシ米下院議長(当時)の訪台後の22年8月10日に発表された対台湾政策に関する新たな白書では「国連2758号決議は一つの中国原則を体現した政治的文書であり、国際上の実践でその法的効力が十分に裏付けられた」と記した。
北京が近年、2758号決議を拡大解釈していることについて、台湾大学法律学科の姜皇池教授は中国が22年の白書で2758号決議を一つの中国原則と直接結びつけたことに触れ、「中国の法的言説はますます明確になっている」との見解を示す。
姜教授は、中国は法律戦で次の3点を確立しようとしていると指摘する。一つ目は中華人民共和国は中国の唯一の合法的政府であること、二つ目は中国は2758号決議を根拠に中華民国の一切を継承し、台湾を中国の一部とすること、三つ目は中国は国連とその関連機関に中華民国の「国連復帰」または台湾の「国連加盟」についての申請案を受け入れないよう求めることができる―という点だ。
中国の法的言説に照らすと、台湾問題は国連憲章の第2条で規定される「国内管轄権内にある事項」に該当することになるという点に姜教授は警戒感をあらわにする。第2条では、国連憲章のいかなる規定も「いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではない」と定めている。中国が将来もし、台湾の全ての問題を処理する合法性を取得することになれば、そこには武力による台湾問題の解決も含まれるとし、これが中国が最も期待していることだと指摘した。