第32回金曲奨授賞式<詳報>先住民歌手が大きな存在感を放つ/台湾

2021/09/08 05:57
第32回金曲奨授賞式(台視提供)
第32回金曲奨授賞式(台視提供)

台湾の音楽賞「第32回ゴールデン・メロディー・アワード」(金曲奨)授賞式が21日、台北市の台北流行音楽センターで開かれた。各部門の受賞作品や受賞者のコメントなどをまとめて紹介する。▽先住民プユマ族のサンプーイが年間アルバム賞 「このアルバムは台湾のアルバム」

 金曲奨は台湾固有のエスニックグループが使用する華語(標準中国語)、台湾語、客家語、原住民(先住民)語の4言語ごとに歌手賞、アルバム賞が設けられ、年間アルバム賞は言語別の賞にノミネートされた全てのアルバムの中から選ばれる。

 年間アルバム賞を受賞したのは、台湾原住民(先住民)族プユマ族の歌手、サンプーイ(桑布伊)の「得力量 pulu’em」。原住民語アルバム賞のノミネート作品が年間アルバム賞を獲得するのは、昨年のアバオの「kinakaian 母親的舌頭」に続き、2年連続。

 サンプーイは年間アルバム賞受賞後、プレスルームでのインタビューで「このアルバムに参加している中で先住民は実は私だけ」と明かし、「客家人や漢人、閩南人などたくさんのエスニックグループが参加している。このアルバムは台湾のアルバム」だと語った。

 受賞理由では「温もりを感じさせる癒やしの音楽作品。飛躍的革新や未来の可能性を有し、言語の枠組みを超えて世界に羽ばたく力を有している」と評価された。

年間アルバム賞と原住民語歌手賞を受賞したサンプーイ(右3)
年間アルバム賞と原住民語歌手賞を受賞したサンプーイ(右3)

 サンプーイは同アルバムで原住民語歌手賞も受賞。原住民語アルバム賞はアミ族の3人組ロックバンド「漂流出口」(アウトレットドリフト)が「海女」で受賞した。

 原住民語アルバム賞を受賞していない「得力量」が年間アルバム賞を受賞したことについて、タイガー・チョン(鍾成虎)審査員長は「言語別アルバムは、言語ごとの音楽の背景や要素を根拠にしている。それぞれの言語の音楽には、その伝統性や現在と未来のトレンドがある」と言及した上で、「年間アルバム賞が重視しているのは技術面や精神面。昨年の(社会的な)精神を伝えられているかどうかだ」と述べ、両者は評価の基準が異なることを説明した。

▽先住民が大きな存在感

 今年の金曲奨授賞式は先住民が大きな存在感を放った。オープニングパフォーマンスを飾ったのは、昨年の年間アルバム賞を受賞したパイワン族のABAO(アバオ)。ステージ上には多数の先住民パフォーマーが登場し、ダンスや歌、太鼓の演奏などで会場を熱気に包んだ。また、東部・花蓮県のアミ族が暮らすタパロン(太巴塱)集落に古くから伝わる歌なども披露された。

オープニングを飾ったアバオのパフォーマンス
オープニングを飾ったアバオのパフォーマンス
 トリを飾った年間アルバム賞の発表時には、アバオが東京五輪重量挙げ女子59キロ級金メダリストの郭婞淳選手や同柔道男子60キロ級銀メダリストの楊勇緯選手と共にプレゼンターを務めた。郭選手はアミ族、楊選手はパイワン族の血を引く。
年間アルバム賞のプレゼンターを務める(左から)郭婞淳選手、アバオ、楊勇緯選手(台視提供)
年間アルバム賞のプレゼンターを務める(左から)郭婞淳選手、アバオ、楊勇緯選手(台視提供)
 サンプーイは年間アルバム賞受賞時のスピーチで、「今日のオープニングはとても感動した。ステージ上に多くの原住民が登場した。原住民は多くの関心と力を与えてもらえることを必要としている」と感慨深げに語った。

▽華語歌手賞は蛋堡とヒビが初受賞

華語男性歌手賞を受賞したドゥー・ジェンシー(右)と同女性歌手賞を受賞したヒビ・ティエン
華語男性歌手賞を受賞したドゥー・ジェンシー(右)と同女性歌手賞を受賞したヒビ・ティエン
 華語アルバム賞と同男性歌手賞はヒップホップ歌手のドゥー・ジェンシー(杜振熙、蛋堡)が「家常音楽」で受賞した。同作品はドゥーにとって、2013年以来7年ぶりに個人名義でリリースした作品。華語女性歌手賞はヒビ・ティエン(田馥甄)が5枚目のソロアルバム「無人知曉」で手にした。2人とも華語歌手賞は初受賞。

 「激戦だった」(チョン審査員長)という男性歌手賞。5回の投票の末に、ドゥーの受賞が決まった。最後の投票の議論ではドゥーとウー・チンフォン(呉青峰)、ウェイ・リーアン(韋礼安)の3人に的が絞られたが、ドゥーはヒップホップと生活を結びつけ「家庭から派生したヒップホップ音楽」を生み出したという点で高く評価された。

 ヒビは女性グループ「S.H.E.」のメンバー。ヒビの選出理由についてチョン審査員長は、「アイドルグループから出発して、自身の音楽の道を模索し続けていた。いろいろな試みを経て現在のヒビにはすでに成熟したスタイルが備わっている」と評価してヒビを選んだと説明した。

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 標準中国語(マンダリン)で歌われる作品を対象とした部門の名称は、これまでは「国語」の名称を使用していたが、今回から名称を「華語」に改めた。金曲奨を主催する文化部(文化省)は、金曲奨が華語流行音楽における重要な賞であり、アジア市場や国際市場に目を向けているのを考慮して、音楽ストリーミングサービスで一般的に使用されている分類を参考にして名称を変更したとしている。背景には、台湾固有のエスニックグループが使用する言語の保存や振興を後押しする「国家言語発展法」が2019年に公布されたことがある。

▽ 年間楽曲賞はクラウド・ルー「刻在我心底的名字」が受賞

  年間楽曲賞はクラウド・ルー(盧廣仲)が歌う「刻在我心底的名字」が受賞した。同曲は昨年台湾で話題を集めた映画「君の心に刻んだ名前」(刻在你心底的名字)の主題歌。映画賞「ゴールデン・ホース・アワード」(金馬奨)でも昨年、映画歌曲賞を受賞している。

  クラウドが年間楽曲賞を受賞するのは2018年の「魚仔」に続き2度目。「魚仔」は自身が作詞作曲を手掛けたが、今回の「刻在~」は歌唱のみを担当した。受賞スピーチでは「この曲は特別。いつもは自分で作っているけれど、今回は歌っただけだから、おこぼれを頂戴したような気分」だと話し、この曲を通じて「癒やしを感じてもらえれば」と願った。

「刻在我心底的名字」で年間楽曲賞を受賞したクラウド・ルー
「刻在我心底的名字」で年間楽曲賞を受賞したクラウド・ルー

▽ 台湾語男性歌手はシュー・フーカイが7年越しに受賞

台湾語男性歌手賞を受賞したシュー・フーカイ(許富凱、右)と同女性歌手賞受賞のツァオ・ヤーウェン(曹雅雯)
台湾語男性歌手賞を受賞したシュー・フーカイ(許富凱、右)と同女性歌手賞受賞のツァオ・ヤーウェン(曹雅雯)

  台湾語男性歌手賞に輝いたのはシュー・フーカイ(許富凱)。シューは2013年から17年と20年を除いて同賞に毎年ノミネートされていたが、7回目のノミネートにして初受賞となった。女性歌手賞は、ツァオ・ヤーウェン(曹雅雯)が「自本」で受賞した。「自本」は台湾語アルバム賞にも選ばれた。

 シューは33歳、ツァオは34歳と同年代。同じ台湾語歌手として、17、18歳のころに出会い、共に切磋琢磨してきた。受賞後のプレスルームで2人並んで取材を受けた際も仲の良さを見せ、「いつも互いにいい成績をとれた時には喜び合っていた」とシュー。ツァオは「自分の受賞よりシュー・フーカイの受賞発表のほうが緊張した」と自分のことのように喜んでいた。

  「台湾語は伝承しないといけない」と語ったツァオ。どうすれば台湾語曲もおしゃれでいい曲だと感じてもらえるのか考えた末に生まれたのが「自本」だったという。同アルバムでツァオは、ほとんどの作品の作詞作曲とプロデュースを自ら手掛け、編曲やレコーディングについても学んだ。楽曲はローファイから電子音楽、フォーク、ファンクなど多様な曲風を採用し、管弦楽の要素も大量に取り入れた。また、高い注目を集める新人歌手、?te(ホワイト、壊特)とコラボレーションするなど、台湾語アルバムのイメージを新しくする一枚に仕上がっている。ツァオの「自本」は、サンプーイの「得力量」と並んで今回最多の8ノミネートを果たし、3冠を制した。

▽ 客家語歌手賞はルオ・ウェンユーが2度目の受賞

  客家語歌手賞はルオ・ウェンユー(羅文裕)が「当太陽昇起時」で2度目の受賞を果たした。同アルバムは台湾で初めてソーラー発電でレコーディングしたアルバム。受賞スピーチでは「(客家語部門の)ノミネート作品を聞いてもらえれば客家人の底力がわかる」と話し、「客家語の曲は素晴らしい」とアピールした。

客家語歌手賞を受賞したロー・ウェンユー
客家語歌手賞を受賞したロー・ウェンユー
  客家語アルバム賞を受賞したのは、4人組ユニット「チューヌードル」(春麺楽隊)の「到底」。チューヌードルは2018年結成のバンド。クラリネットやバスクラリネットといったクラシック音楽の素養をベースとして、客家語の味わいの中に、ギターや華語、女性ボーカルといった流行音楽の温度感を取り入れている。

  バンド名は具材が入っていない麺料理「陽春麺」の「春麺」から取った。メンバーはプレスルームでその理由について、「忙しい生活の中では小さな美しいものを見過ごしてしまいやすい」と言及し、「台湾の小さな地域を代表する自分たちの音楽を通じて、世界の、さらには別の星に住む音楽を愛する人々に『生きている』ということをゆっくりと感じてもらえれば」と願った。

客家語アルバム賞を受賞した「チューヌードル」
客家語アルバム賞を受賞した「チューヌードル」

▽ 新人賞は顔出し無しの異色歌手・?te(ホワイト)が受賞

  新人賞は“ミステリアス系歌手”と呼ばれる?te(ホワイト、壊特)が「A Bedroom of One's Own」で受賞した。ホワイトは顔出しをしていない女性歌手。式典にはサングラスをかけて、帽子から髪、ドレス、靴まで全身ピンクの個性的なファッションで登場して会場を沸かせた。

新人賞を受賞した?te
新人賞を受賞した?te

 けだるい歌声が特徴的なホワイト。2019年からネット上で楽曲の公開を始め、その独特な歌声で注目を浴びた。ホワイトが歌う歌詞には英語や中国語、台湾語などが混ぜ込まれる。個性的な雰囲気からは海外で育った雰囲気があるが、実は台湾育ち。小さい頃から優等生で、大学では医学部に入学。大学3年生のときに夢を追いかけるために休学し、歌手デビューを果たした。今年卒業し、現在は研修医としての顔を持つ。

  受賞スピーチでは自身の経歴を振り返り「怖がらないで。勇気を持って自分の心のなかにある『恐れ』に向き合って」と人生に悩む若者にエールを送った。

▽ バンド賞は「落日飛車」が初受賞

  バンド賞は「落日飛車」(サンセット・ローラーコースター)が「柔性風暴」(SOFTSTORM)で受賞した。バンド賞の受賞は初めて。

  プレスルームでは、新型コロナウイルスの影響で困難や挑戦に直面していることを明かしつつ、「音楽を愛する心がありさえすれば、音楽は僕らを導いてくれる」と話した。

バンド賞を受賞した「落日飛車」
バンド賞を受賞した「落日飛車」
▽ ボーカルグループ賞に輝いたのはアカペラグループ「尋人啓事」

 ボーカルグループ賞に輝いたのは、5人組アカペラグループ「尋人啓事」(The Wanted)。2014年に同じ高校の同級生で結成したグループで、アカペラの大会では豊富な受賞歴を持つ。ファーストアルバム「Dear Adult」での受賞となった。

  メンバーはアカペラは「マイナーなジャンル」だと話しつつ、「台湾でアカペラをやっている人にとって励みになる」と受賞を喜んだ。

ボーカルグループ賞を受賞した「尋人啓事」
ボーカルグループ賞を受賞した「尋人啓事」
▽ 特別貢献賞はルオ・ダーヨウ 世代をまたいだ歌手がメドレー
特別貢献賞を受賞したルオ・ダーヨウ
特別貢献賞を受賞したルオ・ダーヨウ

  特別貢献賞は、「華語流行音楽の教父」と呼ばれるルオ・ダーヨウ(羅大佑)が受賞した。

  敬意を表するため、異なる世代の歌手がダーヨウの代表曲をメドレーで披露。ベテランのホアン・ユンリン(黄韻玲)、ジン・ジージュエン(金智娟)、ジャージャー(家家)、Your Woman Sleep with Others(老王楽隊)、Accusefive(告五人)らが力強い歌声を披露した。

ルオ・ダーヨウの功労に敬意を表して行われたパフォーマンス
ルオ・ダーヨウの功労に敬意を表して行われたパフォーマンス

 (名切千絵)

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