「台湾の人は自国の歴史や文化に自信がないから、良さがよく分からない。だから『台北街歩きツアー(台北城市散歩)』という事業で、文化の付加価値向上を目指す」と37歳の創業者、邱翊さんは言う。
台北市の大稲テイは邱さんの生まれ育った町で、邱さんは多くの人に大稲テイのことを知ってもらうため、5年前に台北城市散歩という会社を創立した。台湾で唯一の、中国語、英語、日本語で街歩きツアーを実施する会社だ。8月18日、邱さんは台北市の市定古跡「新芳春茶行」で中央社のインタビューに応じた。(テイ=土へんに呈)
台北城市散歩は、文化解説を商品化する会社で、人員構成は7人の職員と特約解説員約20~30名。毎月、約60回ぐらいのイベントを実施している。客層の多くは20代から40代、解説員は30代から40代の人が多い。解説の仕方は一般の旅行会社のガイドや文化歴史の専門家とは大分違うという。
4年前から邱さんは、台北の祭り、民間宗教などの無形文化財を知ってもらおうと、祭りに詳しい有名ブロガーに依頼し、迪化街の守り神である城隍爺の誕生日を祝う「霞海城隍祭」ツアーを開催し、十数人の参加者から好評を博した。翌年、同じツアーを企画したところ、応募者は百人近くに増えたという。
「台北城市散歩」のホームページを見れば、イベントの多さがわかる。しかし、それはこの会社が行う事業の約半分に過ぎない。企業や政府の依頼を受け、ツアーを開催するケースもよくある。例えば、ユニバーシアード台北大会(8月19~30日)の外国籍ボランティア向けのツアーを開催したり、淡江大学(新北市)の依頼を受け、8月下旬に、日本の学者向けツアーを企画している。
また、台北の萬華魚市場見学ツアーも好評。今年3月ごろ、日本から社員旅行で訪台した魚料理店職員15人のために、セリ見学を実施した。
ツアー商品のほか、業者の依頼を受け、講座を開くこともある。8月12日には、北門広場(台北市)の近くにある「京町8号」という喫茶店の依頼を受け、解説員の呂其正さんが台北の日本建築を参加者に紹介した。
「若手の呂さんの専攻は文化資産調査で、普段は研究に没頭しているが、たまに解説員を務めれば、多少収入も入る。難しい専門知識を如何に参加者に分かりやすく説明すればいいか、弊社なりの育成ノウハウがある」と邱さんは言った。
邱さんは他人から「こんなに高額のツアー料金を取るなんて、ガイドはノーベル賞受賞者なのか」と揶揄され、挫折感を味わったことがあるが、いまは理解してくれない人の意見を気にしないことにしたという。一定の収入がないと、会社の経営は成り立たない。会社のブランド力を高め、文化面での発言力を強化することが一番重要だと邱さんは考えているのだ。