(台北中央社)1944年10月12日から16日にかけ、日本統治時代の台湾を空襲した米機動部隊と日本陸海軍航空部隊の間で繰り広げられた台湾沖航空戦をテーマにした絵画展「嵐・一九四四」が、台北市内のギャラリー「PALM Gallery」で11月1日まで開かれている。手掛けたのは2001年生まれの画家、陳尚謙さん。自身初の個展で、独自の研究と調査を重ねた繊細かつ緻密な作品を通じ、現在の台湾ではあまり知られていない81年前の出来事を伝えている。
台湾沖航空戦では、米軍機の襲来を受け、台湾や南九州などの基地から多くの攻撃機や爆撃機が出撃。大本営は当初「空母撃沈11隻、撃破8隻」などと成果を報じたが、実際には日本側が大きな損害を被ったとされる。
陳さんは現在、東部・花蓮県の東華大学の修士課程(芸術・デザイン学)に通う大学院生。小学生の頃から航空機や艦船の模型が好きで、その後イラストを描くことに熱中し、大学進学前後から台湾沖航空戦を含む、太平洋戦争に焦点を当てた創作活動を続けてきた。「自分は歴史の専門家ではない」と謙遜するが、独学で日本語を身に付け、日米双方のさまざまな資料を読み解き、史実に基づいた作品作りに取り組む。
展示された作品は、台湾沖航空戦にまつわる航空機や艦船の姿を主体にしつつも、当時の搭乗員名簿や日米それぞれが発表した戦果、関係者らの回顧録、航空写真などさまざまな資料や記録も併せて紹介。垂直尾翼の機体番号や地上の様子、天候など、調査で分かったことも忠実に描き込み、奥行きを持たせている。
創作の上で心掛けたことは客観性。さまざまな資料を読み解いた理由は、特定のレッテルを貼られることを避けるためでもあり、「完全に客観的になることはできないけれど、できる限りのことはやりました」。
航空機や艦船の全体を俯瞰(ふかん)した作品が多いが、「45度の角度だけが正面、側面、上部を同時に見えるので、伝えたいことの全てを描き込める。欲張りなんです」と笑う。戦争の怖さや悲惨さにはあえて触れていない。「表現したかったのは、台湾沖航空戦という『歴史上の出来事』」。結果的に見る人に想像の余地を与えられたという。
今年8月には鹿児島県鹿屋市の鹿屋航空基地史料館に、台湾沖航空戦で鹿屋から出撃した機体を描いた自身の作品を寄贈した。大学進学前から構想を練っていた自信作で、「やり遂げたという気持ちです」とほっとした表情を浮かべた。
今後の創作の計画については特段決めていない。「描きながら方向性を考えます」と淡々と語った。
(齊藤啓介)