1930年代、日本統治時代の台湾で、台湾の詩人が主導となって発足させた超現実主義の文学団体「風車詩社」をテーマにしたドキュメンタリー映画「日曜日式散歩者」が9月中旬、台湾で公開された。日本語で書かれた詩と当時の日本を写した写真や映像を織り交ぜながら、メンバーの文学、詩に対する情熱を描いた作品で、“映像で感じる詩”とも言える独特の世界観が表現されている。
同作を手掛けたのはホアン・ヤーリー(黄亜レキ)監督。ホアン監督にとって、第1作目の長編ドキュメンタリーとなる。同作は今年の台湾国際ドキュメンタリー映画祭の台湾コンペティション部門でグランプリを獲得、台北映画祭でも最優秀脚本賞と最優秀音声デザイン賞の2冠に輝くなど、高い評価を得ている。さらに、11月下旬に発表されるゴールデン・ホース・アワード(金馬奨)のドキュメンタリー作品賞にもノミネートされた。(レキ=歴の木を禾に)ホアン監督は資料収集をしていた際に偶然「風車詩社」の存在を知り、それをきっかけに同作の製作に着手。3年におよぶ実地調査や史料探し、メンバーの家族へのインタビューを経て、上映時間2時間42分におよぶ大作を完成させた。
同作のナレーションはほぼ全編日本語。同作の映像は基本的に、詩、過去の写真・資料映像、再現シーンの3つの要素で構成されており、静かに淡々と話が進む。その不思議な空気感は観客を作品の世界に引き込んでいく。近年、「湾生回家」や「海の彼方」など日本統治時代に関係するドキュメンタリー映画が複数製作され、注目を浴びている。上記2作は当時を実際に体験した人物が登場し、温もりを感じられる作品に仕上がっている一方、「日曜日式」は歴史資料をメインとしたアプローチがされており、文学という新たな視点から日本統治時代の一面をかいま見させてくれる。また、ストーリーは日本統治時代だけでなく、台湾光復、白色テロにまで及び、国民党政権に詩人が処刑、あるいは抑圧された悲しい歴史も描かれている。
ホアン監督は同作を通じ、歴史の中に埋没された風車詩社を始めとする台湾の文学者の存在を改めて世間に知ってもらうと同時に、台湾のドキュメンタリーの多様化の可能性を広げられればと語っている。(名切千絵)