(台北中央社)医師の診断書を提出せずに性別変更を申し立てたトランスジェンダー(トランス女性)が、戸政事務所(戸籍業務を担当する役所)に申し立てを不受理とされたことを不服として起こした訴訟で、台北高等行政法院(高等行政裁判所)は15日、性別変更に医師の診断書などを要求する行政命令は「違憲」との判断を示し、不受理処分の取り消しを命じる判決を言い渡した。一方で、性別変更の受理は命じなかった。支援団体は同日、上告する方針を示した。診断書なしでの性別変更を申し立てる訴訟が行われるのは台湾では初めて。
台湾では、出生時の性別と性自認が異なる「トランスジェンダー」が法的性別を変更するためには、内政部(内務省)の規定に基づき、診断書と性別適合手術の証明書の提出が求められている。
提訴したのはダンサーとして活躍するビビ(Vivi)さん。ビビさんは今回の訴訟で、医師の診断書は提出せず、日常生活の写真と母親、友人が裁判所宛てに書いた手紙を代わりに提出した。ビビさんの裁判を支援する台湾伴侶権益推進聯盟(TAPCPR)によれば、ビビさんは子供の頃から自分は女性だとおぼろげに感じており、大学生で性自認を確認して以降は女性として生活している。女性として暮らし始めてすでに6年以上が経過した。ビビさんは性自認での悩みを理由として医療機関を受診したことがなく、手術や薬物の介入を求めたこともないと説明しているという。
台北高等行政法院は判決で、トランスジェンダーの性別変更において医師の診断書2枚と性器の摘出を要件に定めた内政部の2008年の行政命令は違憲だと判断。だが、性別変更の要件は最高行政法院(最高行政裁判所)が昨年の判決で示した枠組みを満たす必要があると指摘し、当事者は少なくとも1枚の診断書を提出しなければならないとした。そのため、戸政事務所に対してビビさんの性別変更を直接命じるのではなく、裁判所の見解に基づいて改めて処分を行うよう命じた。
同日、中央社の取材に応じたTAPCPRの簡至潔秘書長は行政機関に対し、裁判所の見解に基づいて性別変更における手術要件を即座に撤廃するよう呼びかけた。また、ビビさんと話し合った結果、上告を決めたことを明かした。社会的な証拠による身分証上の性別変更を勝ち取りたいとしている。
台湾ではこれまでに、性別適合手術を受けていないトランスジェンダーに対して裁判所が性別変更を認めたケースが2件あるが、いずれも医師の鑑定報告や診断書を提出していた。