(台北中央社)晩婚化が進む中、卵子の凍結保存を選ぶ独身女性が増えている。40代の盧さんもその一人。母親も孫を望んでいるという。だが、現行の法律では未婚女性は凍結した卵子を使えない。「もし結婚しなかったら、卵子の保存料金を払い続けるしかないの」と盧さんは不満をこぼす。
内政部(内務省)の2021年の統計によれば、台湾の女性の平均初婚年齢は30.4歳、平均出産年齢は32.29歳。リスクが高まるとされる35歳以上の出産は31.64%を占め、10年で1.8倍に増えた。
不妊治療を専門とする「孕医生殖中心」(台北市)の黎恵波院長によれば、約10年前から卵子凍結を行う独身女性が増えてきたという。
ただ、不妊治療について定めた現行の人工生殖法では対象は「婚姻関係にある男女」と定められている。健康な独身女性も卵子凍結が可能なものの、体外受精には夫の精子か、夫の同意の下で提供を受けた精子が必要になる。
▽独身女性や同性婚カップルに選択肢を
女性の妊娠、出産に関心を寄せる「台湾生育改革行動連盟」の陳玫儀秘書長は、台湾ではジェンダー意識が高まる一方で、伝統的な考え方も残っていると指摘。結婚してから妊娠、出産というのが一般的な中で、独身で子育てをする人は少数派だと話す。
だが、独身女性にも出産、子育ての権利はあると唱える人もいる。台北医学大附設医院の盧柏嘉氏は、政府は女性が卵子の凍結保存を決める真の理由を理解すべきと訴える。「子どもを産みたいが結婚はしたくない」という女性は非常に多いという。
陳秘書長は、人工生殖法は子供を産みたいと願っている全ての人にとって開かれたものでなければならないと力を込める。独身女性や同性婚カップルにも権利が認められるべきだと語った。
与党・民進党の立法委員(国会議員)、高嘉瑜氏は独身女性の一人として、健康な女性の卵子凍結費用への補助金支給を支持している。独身女性だけでなく、同性婚の女性カップルにとっても新たな選択肢になると考えるからだ。「父親と母親がいる」という伝統的な家庭に対するイメージは時代にそぐわなくなってきていると高氏は主張する。
卵子の凍結保存を行う女性が増える中、実際に使用された卵子は1割に満たないというデータがある。台湾生殖医学会の理事を務める頼宗炫氏は、卵子を凍結するだけでなく関連の制度や措置を整え、使用率を高めることで真の効果が発揮できるとの見解を示した。
▽高齢出産「助長」の懸念 議論待たれる
台湾産婦人科医学会の黄建霈秘書長は、卵子凍結は卵子を最良の状態で保存できる反面、この技術によって妊娠、出産の時期を先延ばしにしてしまう女性が増える可能性もあると懸念する。
黄氏はリスクが高い高齢出産を減らすためにも、卵子凍結の補助金支給を独身女性全員に認めるのではなく、年齢によっては適齢期の妊娠を勧めるよう提言した。
衛生福利部(保健省)国民健康署の陳麗娟氏は、政府による卵子凍結への補助金支給を実現するには、実際にどれほどの効果が見込めるのか、公平性をいかに確保するかなど検討すべき事項があると指摘。人工生殖法の改正についても世論にはさまざまな意見があるとして、共通認識の形成が待たれるとした。