アプリで読む
ダウンロード

文化+/<文化+>一見日本語?でも日本語にあらず “台日ミックス語”が台湾でブームじわり

2024/09/03 17:59
<文化+>一見日本語でも日本語にあらず “台日ミックス語”が台湾でブームじわり
<文化+>一見日本語でも日本語にあらず “台日ミックス語”が台湾でブームじわり

台北の繁華街・中山に、「免っがわ来じっ套」という文字が書かれたTシャツを着た若者がいた。平仮名に漢字が混ざっているが、日本人観光客も「なんて意味?」ときょとんとしている。顔にはてなマークを浮かべるのも無理はない。これは台湾生まれの「偽日本語」なのだから。

読み方は「めんがわらいじっとう」。漢字には台湾語の読み方を当てる。日本語では「もうその手には乗らないよ」という意味になる。

台湾では近年、台湾語に日本語をミックスした言葉が一部でブームになっている。この他にも、「安ね欸さい」(あねえーさい=それでいい)や「りかわ惦惦」(りかわでゃむでゃむ=だまれ)、「ばど妖ら」(ばどやおうら=おなかがすいた)、 「但じれ」(だんじれ=ちょっと待って)など、造語が次々と生まれている。ネットミーム画像からラインスタンプまで至る所で使われるようになっており、ユーチューブやバラエティー番組では日本人ゲストと楽しむゲームにもなっている。

「この言葉遊びは少なくとも平仮名を学んだ人にしか分かりません」。日本語教育に従事して20年以上になる政治大学日本語学科の林士鈞兼任講師は「これは小さなかいわいの人が自分たちで楽しんでいるだけですが、台湾では内輪の楽しみにしても量が多すぎるのです」と笑う。統計によれば、日本語能力試験の全世界の受験者60万人の10分の1を台湾人が占め、台湾の大学の3校に1校に日本語学科がある。

政治大学日本語学科の林士鈞兼任講師(撮影:趙世勳)
政治大学日本語学科の林士鈞兼任講師(撮影:趙世勳)

▽ 変化した日本語、台湾社会に溶け込む

台湾のユーチューバーの中には、食事シーンの撮影時、日本語で「いただきます」と言ってから食べ始める人も少なくない。それは日本語がしゃべれなくてもだ。

林さんによれば、台湾では1990年代にブームを巻き起こしたドラマ「東京ラブストーリー」や「101回目のプロポーズ」をきっかけに日本語学習熱が高まった。林さんの高校時代にはクラスメートが「そうですね」「そっか」などの日本語をしょっちゅう口にしていたという。

台湾人にとって日本語は見知らぬ言語ではない。日常生活に溶け込みすぎて「これは日本語だったのか」と後で驚くこともある。

台湾には日本に植民地統治をされた歴史がある。家庭でも年配者がいくらかの日本語を話せたり、日本式の教育を受けていたりする。当時、人々が最もよく使用していた台湾語にも数多くの日本語の単語が溶け込み、現代まで伝わっている。

例えば、タクシー運転手を台湾語では「運将」と呼ぶ。読み方は「うんじゃん」。日本語の「運ちゃん」が語源だ。トイレは「べんそー」。日本語の「便所」から来た。万年筆は台湾語では「萬年筆」と言う。発音は異なるものの、漢字は日本語の「万年筆」と同じだ。

▽日本語からの借用 清の時代にさかのぼる

日本語から語彙(ごい)を借用するという現象は、清朝時代にまで歴史をさかのぼることができると林さんは説明する。

明治維新(1868年)以降、日本は西洋の技術や制度を大量に学び、学者は積極的に外来語を漢字に翻訳した。後に、日本に留学した多くの中国のエリートもまた、すでに日本語に翻訳された漢字を使うようになった。「政治」や「経済」「文化」「自由」「芸術」などがそれだ。

中華民国暦(紀元は1912年)が始まると、造語色の強い「和製漢語」が生活の中で広く使われるようになった。「〇〇主義」や「◯◯化」「◯型」「◯◯力」などだ。その現象は今でも続いている。例えば「少子化」や「高齢化」などの日本語由来の語彙は報道や社会問題などの話題でよく使われる。

林さんは、日本語由来の語彙は、中国語では簡潔に表現しにくかったり、直接的に表現するのがためらわれる言葉に使われると指摘する。「違和感」や「素人」「宅男」(オタクの男性を指す)などがそうだ。「実は私たちの言語は語彙不足なので新しいものが必要なのです」。

▽平仮名で台湾語を学習 文筆家・栖来ひかりさん

では日本人は台湾でのこの「台日ミックス語」ブームをどう見ているのだろうか。

台湾に来て18年になる文筆家の栖来ひかりさんは「りはい(※)?」とその平仮名を発音してから、意味を推測してみせた。このミックス語にはほとんど接したことがないという栖来さん。これらの言葉にはロジックも文法も全くないが「平仮名で台湾語を表すというのはよく分かります」と話す。

※りはいは台湾語で「すごい」という意味。漢字は「厲害」

台湾在住の文筆家、栖来ひかりさん(撮影:趙世勳)
台湾在住の文筆家、栖来ひかりさん(撮影:趙世勳)
台湾のラップ歌手、Soft Lipa(蛋堡)の楽曲「找王A」の台湾語歌詞に栖来さんが振った平仮名のルビ(撮影:趙世勳)
台湾のラップ歌手、Soft Lipa(蛋堡)の楽曲「找王A」の台湾語歌詞に栖来さんが振った平仮名のルビ(撮影:趙世勳)

栖来さんはスマートフォンを取り出し、台湾のラップ歌手、Soft Lipa(蛋堡)の楽曲「找王A」の台湾語歌詞に自分で平仮名でルビを振った画面を見せ、歌ってみせてくれた。発音の類似度は8、9割といったところだ。日本の書店で見かけた台湾語テキストでも、同様に読み方が平仮名で示されていたと栖来さんは解説した。

栖来さんのこの視点について林さんは、閩南語(台湾語)には国語(台湾で使われる中国語)の発音で表せない発音がたくさんあると指摘する。「国語は濁音がほとんどない言語で、標準濁音は「ㄖ」(=台湾で使われる注音記号、ピンインの場合は「r」)のみです。そして大部分の人は巻き舌の発音が苦手なので、日本語の促音と濁音は閩南語の発音により適しているのです」

栖来さんは、台日ミックス語によってより多くの日本人が台湾語に触れ、台湾の人々との距離を近づけることに好意的な姿勢を示す。栖来さん自身の実感として、日本の芸能人が訪台した際、これまではあいさつに中国語の「你好」(こんにちは)を使うことが多かったものの、最近では台湾語の「りーほー」(こんにちは)や「多謝」(どーしゃー=ありがとう)、「水啦」(すいら=やったね)などを使うことが多くなったと感じているという。台湾語を使うことによって親しみやすさが増し、観客の反応もより熱狂的になっていると話した。

▽台日ミックス語、実はロジックは日本語の「夜露死苦」と同じ?

台湾で活躍するお笑いコンビ、漫才ボンボン(漫才少爺)は、台日ミックス語の「りしれ供さ小」(りしれごんさーしゃお=何言っているんだ?)を前に、顔にはてなマークを浮かべた。だがしばらく考えてから「これは暴走族の特攻服に書かれている『夜露死苦』と同じ?」と笑った。

「夜露死苦」は、日本語の「よろしく」に同じ発音の漢字を当てたヤンキー言葉だ。「全部漢字で書かれているから、一般の人にはあまり分からない。だからかっこいいと思うのでしょう」。漫才ボンボンは楽しそうに説明した。

台湾で活躍するお笑いコンビ、漫才ボンボン(撮影:翁睿坤)
台湾で活躍するお笑いコンビ、漫才ボンボン(撮影:翁睿坤)

日本人も台湾人も、文字遊びの創意工夫は引けを取らない。どうにかして他の人には分からないようにしている。そして意味が分かった後には噴き出したくなってしまう。皆さんは生活の中にあるこのような文字遊びに注意を払うことはありますか?

(葉冠吟/編集:名切千絵)

> 中国語関連記事
私たちはあなたのプライバシーを大切にします。
当ウェブサイトは関連技術を使用し、より良い閲覧体験を提供すると同時に、ユーザーの個人情報を尊重しています。中央社のプライバシーポリシーについてはこちらをご覧ください。このウインドウを閉じると、上記の規範に同意したとみなされます。
172.30.142.31