世界各地の華語・華人映画を対象とした映画賞「ゴールデン・ホース・アワード」(金馬奨)の第60回授賞式が11月25日、台北市の国父記念館で行われた。今回は60回目の節目の年でもあったことから、例年にも増して壮麗に開かれた。
▽ 劇映画作品賞に「石門」=大塚竜治が妻のホアン・ジーと共同監督
金馬奨で最も注目が集まる劇映画作品賞には、日本人の映画作家の大塚竜治が中国出身で妻のホアン・ジー(黄驥)監督と共同でメガホンを取った「石門」が選ばれた。同作は日本の製作会社が単独で出資した作品で、日本資本の作品が金馬奨で作品賞に輝くという史上初の快挙を成し遂げた。大塚は台湾のベテラン映像編集者、リャオ・チンソン(廖慶松)と共同で編集賞も受賞し、同作は2部門を制した。
「石門」は意図せず妊娠した中国の女子大生の10ヵ月間を描いた作品。ホアン監督によれば、撮影はドキュメンタリー形式を採用し、妊娠期間と同じく10カ月をかけて行われた。
受賞スピーチやプレスルームで「これは夢ですか」と繰り返していたホアン監督。金馬奨の受賞によって「さらに広い世界に行ける」と期待をにじませ、映画製作において自身の学びになったアン・リー(李安)やホウ・シャオシェン(侯孝賢)、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)をはじめ数多くのアジアの映画監督に感謝した。
大塚監督は「私たちの作品はブラックホースだった」と紹介。作品の撮影時にはいつも困難があるものの、それでも扉は必ず開くと信じて撮り続けてきたとし、「石門」は「映画の新たな可能性を切り開いた。金馬奨がこの可能性をくれた」と自身の作品に対する自信をのぞかせた。
▽ 日本映画界から豪華な4人がゲストとして出席
今回の授賞式には日本から北野武監督や俳優の役所広司、妻夫木聡、満島ひかりが出席。台湾の人気スターと共に各賞のプレゼンターを務め、式典を盛り上げた。
北野監督は、EXILEのAKIRAの妻でモデルのリン・チーリン(林志玲)と共に登壇。「EXILEのAKIRAです。女房のチーリンさん、よろしくお願いします」とジョークを飛ばし、“たけし節”をさく裂させた。台湾の映画人に対し「映画というのは、特に監督をやれるというのはそれだけで幸せなことで、本当に運がいいと思います。そのチャンスをつかんだ人は絶対に監督をやめずに、死ぬまで監督をやってください。がんばってください」と励ましの言葉を送った。
満島は、来年公開の日台合作映画「青春18×2 君へと続く道」に主演する台湾の俳優、グレッグ・ハン(許光漢)とプレゼンターを務めた。「我愛麺線」(私は麺線が好きです)と中国語でちゃめっ気たっぷりに自己紹介し、会場を笑いの渦に包んだ。
▽ ろう者を演じたウー・カンレンが主演男優賞 主演女優賞は弱冠12歳のオードリー・リン
今回の主演男優賞候補は「僕と幽霊が家族になった件」(関於我和鬼変成家人的那件事)でグレッグ・ハンとリン・ボーホン(林柏宏)がダブルノミネートされた他、「疫起/エピデミック」のワン・ボージエ(王柏傑)、「周処除三害」のイーサン・ルアン(阮経天)、「アバンとアディ」(富都青年)のウー・カンレン(呉慷仁)ら台湾のイケメン俳優がずらりと名を連ねたことでも注目を集めた。激戦を制したのはウー・カンレン。初ノミネートにして初受賞となった。同作でろう者を演じたカンレン。全編せりふ無しで人物の絶望を表し、観客の心を揺さぶったことが評価された。
名前を呼ばれた直後、両手で目を押さえる仕草を見せたカンレン。受賞スピーチでは、「私はあまり演技というものを分かっていない人」と謙虚に語り、27歳で演技の道に入り、演技がうまい香港俳優を見習い、早く演技ができるようになるために多くの作品に出演してきたことを振り返った。これらの経験によって多くのものを積み重ねてきたと話し「それぞれのステージでそれぞれ異なる自分を感じてきた。次のステージはさらに良くなると信じている」と飛躍を誓った。
主演女優賞はオードリー・リン(林品彤)が台湾映画「小曉」で受賞した。オードリーは弱冠12歳。史上最年少の主演女優賞受賞者となった。ADHD(注意欠如・多動症)の娘と母親、娘の学校の教師で母親の不倫相手でもある男性教師の3人の間での愛や争いを描いた同作で、ADHDの子供「小曉」を演じたオードリー。複雑で起伏の激しい役どころながら、母親、教師それぞれと対峙する場面で素晴らしい演技を見せたとして評価された。
ステージに上がった瞬間、プレゼンターを務めたチェン・シューファン(陳淑芳)から「年齢を詐称しているんじゃないの」と言われるほど、成熟したたたずまいを見せたオードリー。スピーチでも落ち着いた雰囲気で関係者や家族などに感謝を述べ、「小曉と同じように人とは違う人に『これからも頑張って。優しさを持ち続ければ状況はどんどん良くなります』と伝えたい」と涙を浮かべながらエールを送った。
▽ 最多受賞は台湾映画「Old Fox」の4冠
最多受賞となったのは台湾映画「Old Fox」(老狐狸)。監督賞、助演男優賞、メイクアップ・衣装デザイン賞、作曲賞の4冠を制した。
同作はバブル絶頂の1989年を時代背景に、情け無用の権力者である家主と、つつましい暮らしを営む父子の間のやりとりを描いた作品。門脇麦も出演している。
監督賞を初受賞したシャオ・ヤーチュエン(蕭雅全)監督は、監督賞の受賞で一番感謝したいのはスタッフと役者だと話し、「彼らの才能がなければ、監督は不可視なものになる」とし、自身の考えを目に見えるものにしてくれたスタッフや主要キャストのバイ・ルンイン(白潤音)、リウ・グアンティン(劉冠廷)らに感謝を伝えた。
▽ ブリジット・リンが大きな存在感放つ
今年の式典の「主役」とも言える大きな存在感を放ったのは、生涯功労賞を受賞した俳優のブリジット・リン(林青霞)。レッドカーペットではトリで登場し、詰めかけた観客からは「きれい」などの大歓声が上がった。真っ赤なドレスで授賞式のステージに上がった際には会場から割れんばかりの拍手を浴びた。
授賞式のために香港から台湾に戻ったブリジットは受賞スピーチで、生まれ育った土地で映画界の最高栄誉である生涯功労賞を手にするのは自身にとって非常に重要な意味があるとあいさつ。17歳で映画の世界に飛び込んで以来、22年間で100作品に出演し、1000人にも上る出演者やスタッフと仕事をしたことを振り返り、「皆さんには莫大な功労があります。ありがとうございます」と感謝した。
▽ 受賞者一覧
その他の受賞者・作品は次の通り。
【助演男優賞】アキオ・チェン(陳慕義)/Old Fox
【助演女優賞】ベアトリス・ファン(方志友)/本日公休
【新人監督賞】ニック・チェク(卓亦謙)/年少日記
【新人俳優賞】ヨーヨー・ツェー(謝咏欣)/離れていても(但願人長久)
【生涯功労賞】チェン・クンホウ(陳坤厚)、ブリジット・リン(林青霞)
【ドキュメンタリー作品賞】青春(春)
【作曲賞】ホウ・ジージエン(侯志堅)/Old Fox
【歌曲賞】同款(詞:呉念真/曲:陳建騏/歌:洪佩瑜)/本日公休
【短編ドキュメンタリー作品賞】備忘録
【短編劇映画作品賞】直到我看見彼岸
【年間台湾傑出映画人】リン・シークン(林仕肯)
【撮影賞】ユー・ジンピン(余静萍)/(真)新的一天
【脚色賞】シャロン・ウー(呉瑾蓉)、チェン・ウェイハオ(程偉豪)/僕と幽霊が家族になった件(関於我和鬼変成家人的那件事)
【脚本賞】スン・ジエ(孫杰)/大山来了
【メイクアップ・衣装デザイン賞】ワン・ジーチェン(王誌成)、ガオ・シェンリン(高仙齡)/Old Fox
【美術賞】ホアン・メイチン(黄美清)、トゥー・シュオフォン(涂碩峯)/疫起
【音響効果賞】ドゥー・ドゥージー(杜篤之)、ウー・シューヤオ(呉書瑤)、チェン・グアンティン(陳冠廷)/五月雪
【視覚効果賞】イェン・ジェンシン(厳振欽)/疫起
【アニメーション作品賞】八戒
【短編アニメーション作品賞】夏夢迴
【動作設計賞】ホン・シーハオ(洪昰顥)/周処除三害
(名切千絵)