台湾のテレビ番組の祭典「第58回ゴールデン・ベル・アワード」(電視金鐘奨)の授賞式が10月20日と21日の2日間、それぞれ番組の部とドラマの部に分けて台北市の国父記念館で開かれた。本記事では21日に開催されたドラマの部の授賞式の模様を詳報する。
▽ 「大勝」作品はなく 話題の4作品が4部門ずつ受賞
1155件の応募があった今回のドラマの部。1作品が主要賞を総なめするような「独り勝ち」の状況は生まれず、話題になった4作品がそれぞれ4冠で並ぶという結果になった。
4冠に輝いたのは、宮部みゆきの同名小説を原作にした「模倣犯」(連続ドラマ部門)、医療コメディー「暴走外科医がやってきた」(村裡来了個暴走女外科、同)、政治ドラマ「WAVE MAKERS ~選挙の人々~」(人選之人—造浪者、ミニドラマ部門)、サスペンス「ふたりの私」(她和她的她、同)だ。このうち「暴走~」以外の3作品が動画配信サービス、ネットフリックスの台湾オリジナルドラマとなっている。
授賞式後に報道陣の取材に応じたドラマの部の審査員団座長、唐美雲氏は今回の結果について、「(賞を)分散させようとしたわけではない」と強調。最多17ノミネートを果たしていたものの、撮影賞、美術賞、革新賞、人気ドラマ賞のみの受賞にとどまった「模倣犯」を例に挙げ、「候補に入ったこと自体が作品への評価を表している」とし、審査の際には純粋に芸術や演技を評価対象にしたと説明した。
▽ 連続ドラマ作品賞は「暴走外科医がやってきた」
連続ドラマ作品賞に輝いたのは「暴走外科医がやってきた」(村裡来了個暴走女外科)。外科医を演じたジャネル・ツァイ(蔡淑臻)は同作で主演女優賞を受賞した他、同作は監督賞、新人賞も獲得した。
「暴走〜」は田舎の病院に赴任してきた敏腕の女性外科医の生き様と成長をコメディータッチで描いた。過酷な労働環境にある医療従事者の声を届ける作品にもなっている。唐氏は、重い題材である医療の問題を、難易度が高い「コメディー」として描いた点が受賞の決め手の一つになったと説明。また、ライ・モンジエ(頼孟傑)監督がこれまでにはない4こま漫画の形式でシーンを表現していたことも評価した。
受賞スピーチでジャネルは、視聴者からのフィードバックが自身にとって最大の喜びだったと話し、「物語は相互理解や許容を後押しし、世界平和を促進できるものだとずっと信じてきた。そして物語を媒介するのが俳優。俳優であることを光栄に思う」と目に涙をためながら感慨深げに述べた。ジャネルの金鐘奨受賞は2020年の連続ドラマ部門助演女優賞に続いて2度目。
監督賞を手にしたライ監督は「この作品の目的は暴走する外科医を消滅させること」だと述べ、台湾の医療従事者と患者の関係がより良い状態になることを願った。
▽ 連ドラ主演男優賞はシュエ・シーリン Fire EX.のサムが助演男優賞受賞
連続ドラマ部門の主演男優賞はシュエ・シーリン(薛仕凌)が「台湾犯罪故事-出軌」で受賞した。同賞受賞は2021年の「生生世世」に続いて2度目。
名前を呼ばれた直後、席で放心状態になっていたシーリン。登壇後、マイクの前に立ってもしばらく言葉が出てこず、客席からは励ましの拍手が起こった。関係者に感謝を述べた上で、「私は幸運。今度も努力し続けます」と感動をかみ締めながら短くスピーチした。
連ドラ部門の助演男優賞には、ロックバンド、ファイヤー・イーエックス(滅火器)のサム(楊大正)が「我願意」(The Amazing Grace of ∑)で選ばれた。ミュージシャンとして活躍する傍ら、俳優歴も14年になるサム。「私はバンドのボーカルであり、素晴らしい俳優です」とトロフィーを高く掲げた。スピーチの最後には誤って音楽賞の「金曲奨」と言いそうになる場面もあり、客席からは笑いが起こった。金鐘奨の受賞は初。
連ドラ部門の助演女優賞はミークーバイ(米可白)が「牛車来去」で受賞。子供番組のお姉さんから俳優へと転身したミークーバイは受賞スピーチで「私は俳優です」と力強く自己紹介し、「本当に演技が好き」とアピールした。
▽ ミニドラマ作品賞は「WAVE MAKERS」 主演賞は「ふたりの私」がアベック受賞
ミニドラマ作品賞に輝いたのは「WAVE MAKERS ~選挙の人々~」。総統選を題材に、選挙を支える人々の日々を描いた作品。政治の裏方で奮闘する人々の独特な生活を浮き彫りにし、難しい題材をコメディータッチで表現することで視聴者との距離を近づけたことが評価された。
巫知諭・共同エグゼクティブプロデューサーは、同作品は台湾社会が向き合うべき問題を描いたと話し、「作品の中の世界はややユートピアかもしれないが、台湾の未来に対する美しい展望や期待を示すものでもある」と語った。
ミニドラマ・テレビ映画部門の主演男優賞にはトビー・リー(李程彬)、主演女優賞にはアン・シュー(許瑋甯)が選ばれ、「ふたりの私」がアベック受賞した。
「ふたりの私」はネットフリックスの台湾オリジナルドラマとして配信されたラブサスペンス。敏腕ヘッドハンターの女性が昏睡状態から目覚めた後、自分がパラレルワールドにいることに気付き、幼少期のトラウマと改めて向き合うことを余儀なくされる―との物語が描かれる。
同作で1人2役を演じたトビーは初ノミネートにして初受賞となった。アンの金鐘奨受賞は2015年に「16個夏天」で連ドラ助演女優賞を獲得して以来2度目。
▽ 模倣犯は「番組革新賞」
最多17ノミネートされていた「模倣犯」は作品賞や俳優関連の賞こそは逃したものの、革新的な作品に贈られる「革新賞」や視聴者投票で選ばれる「人気ドラマ賞」、技術部門の撮影賞、美術賞を受賞した。
革新賞では、配信当初から7言語の吹き替えを採用し、ハリウッドの方式で音響をデザインするなど、台湾ドラマを国際レベルに引き上げ、ドラマの海外展開を大きく切り開くような貢献をしたことが評価された。タン・シェンロン(湯昇栄)プロデューサーは「小説は素晴らしいコンセプトを授けてくれた」とし、このコンセプトをいかにして台湾のローカルと結び付けるかに大きな労力を費やしたと振り返った。その上で、革新賞は一つ一つのパーツにおいて高いレベルに挑戦したことの証しだとし、今後もこの方向に向かって努力し続けると述べた。
(名切千絵)