今年で31回目を数える台湾最高峰の音楽賞「ゴールデン・メロディー・アワード」(金曲奨)授賞式が3日、台北市の台北流行音楽センターで開かれた。金曲奨授賞式は例年は6月に開催されているが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、10月に延期された。本記事では受賞結果を詳報する。
▽パイワン族のアバオが年間アルバム&楽曲賞 3冠制覇
最高賞とされる年間アルバム賞に輝いたのは、台湾原住民(先住民)パイワン族の歌手、アバオ(ABAO、阿爆)の「kinakaian 母親的舌頭」。アバオは同アルバムで原住民語アルバム賞、収録曲の「Thank You 感謝」で年間楽曲賞を受賞し、最多の3冠に輝いた。 アバオは年間アルバム賞で名前が呼ばれると、涙を浮かべながら登壇。台湾において先住民がマイノリティーであることに触れた上で「このアルバムを通じて、みなさんに原住民だけでなく、マイノリティーについて理解しようとしてもらえれば。理解を深めることで、誤解を減らしてほしい」と訴えた。
金曲奨では、中国語、台湾語、客家語、原住民語の言語別に歌手賞、アルバム賞が設けられているが、年間アルバム賞は言語別のアルバム賞にノミネートされた全ての作品の中から選ばれるため、最高賞とされる。
▽中国語アルバム賞にはジョアンナ・ワン「愛的呼喚」
中国語アルバム賞にはジョアンナ・ワン(王若琳)の「愛的呼喚」が選ばれた。同作は、テレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」や美空ひばりの「リンゴ追分」など中国語、日本語、広東語の名曲をカバーしたアルバム。一部楽曲は日本語で歌唱した。
ジョアンナは受賞スピーチで「コロナ下において、お祝いをする祭典が開かれたことに感動した」と授賞式が通常通り開催されたことに喜びを示した。
中国語男性歌手賞は、チンフォン(呉青峰)が「太空人」で、同女性歌手賞はワー・ウェイ(魏如萱)が「蔵著並不等於遺忘」でそれぞれ受賞した。
受賞スピーチでは「2019年は特別な一年だった。自分を改めて歌手と定義し、そして自分が目にする善悪と人間性とは何かを改めて見直した一年だったから」と感慨深げに振り返り、世界を信じられなくなっていた時に所属レコード会社の幹部から励ましの言葉があったからこそ、このアルバムを作ることができたと言及。「自分勝手だけど自分に言いたい。負けることなく懸命に歌い続けてくれてありがとう。よく頑張ったね」と自分に言い聞かせるように語った。
チンフォンは2019年5月、ソーダグリーンの楽曲を無断で公の場で歌唱したとして、同バンドのアルバムプロデューサーを長年務めていた恩師的存在のウィル・リン(林暐哲)に刑事告訴され、今年2月には版権許諾契約違反で台北地検に起訴された。この受賞スピーチは、恩師との間で起こったこのいざこざを念頭においているように思われ、チンフォンの苦悩をのぞかせた。
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ワーは授賞式の司会に初挑戦したほか、中国語女性歌手賞の発表前には候補者の楽曲をメドレーで披露し、式典を盛り上げた。
バンド賞は今年で結成20周年を迎える「ファイヤー・イーエックス」(滅火器)が受賞。3度目のノミネートにして初の受賞となった。アルバム「無名英雄」は台湾の民主主義や歴史がぎゅっと詰まった作品。メンバーは「台湾で音楽を作る上で、言いたいことが言えるのはとても誇らしいこと。ミュージシャンが台湾を誇りに思い、台湾人も誇りを感じられますように」と熱い思いを語った。ボーカルのサムも政府の新型コロナウイルス対策に感謝を示した上で、「屈服したり、すり寄ったりする必要はない。みんながよりよく、健康に過ごせますように」と語った。
9m88やOSN(高爾宣)、モー・ザイヤン(莫宰羊)など実力派が名を連ね、「激戦区」とされていた新人賞を制したのは、男性シンガーソングライター、チーシウ(持修)。名前が呼ばれると大きなリアクションと豊かな表情で喜びと驚きを爆発させた。
プレスルームでのインタビューでは声をつまらせる場面もあったが、「泣かない」というポリシーを持っている持修は、「泣いてない。あれは汗」と言って取材陣を笑わせた。
今回の金曲奨では、日本人も2組受賞した。インスツルメンタル部門作曲家賞には、インストトリオの東京中央線として活躍するギタリストの大竹研が「Okinawa」で選ばれた。
大竹は受賞スピーチで、沖縄出身の平安隆さんのバンドメンバーとして2003年に台湾の音楽フェスに参加した際に、シンガーソングライターのリン・シェンシャン(林生祥)と出会ったのをきっかけにいろいろな縁が生まれたことに触れ、「縁がある全ての人に感謝します」と中国語で述べた。
大竹はプレスルームでのあいさつで、「多様性が台湾の素晴らしいところ」だと言及。「台湾のこのような多様性のおかげでミュージシャンの道を歩き続けていくことができた」と感謝を示した。
大竹は客家語アルバム賞を受賞したミサ(米莎)の「戇仔船」や台湾語アルバム賞を受賞した濁水溪公社の「裝潢」にも参加している。
古武道は尺八の藤原道山、チェロの古川展生、ピアノの妹尾武による3人組ユニット。授賞式には新型コロナウイルスの影響で参加しなかった。公式サイトには「まず僕たちに声をかけてくださったことが本当に嬉しかったですし、その結果こういう形で素晴らしい賞をいただき、またさらに嬉しく思っております」と喜びのコメントを寄せた。
客家語アルバム賞を受賞したミサ(米莎)の「戇仔船」には、東京中央線のベーシスト、早川徹がプロデュースとして参加。受賞の際には早川も登壇し、関係者に感謝を伝えた。
今年の授賞式では、Hebe(田馥甄)やJJ(林俊傑)、フィッシュ・リョン(梁静茹)など人気、実力ともに兼ね備えたアーティストが圧巻のパフォーマンスを披露した。
授賞式にはビビアン・スー(徐若瑄)やジョリン・ツァイ(蔡依林)ら豪華スターがプレゼンターとして登場し、華を添えた。主なゲストの写真をまとめて紹介する。
(名切千絵)