中国の武術を融合させた民俗芸能「宋江陣」。台湾では主に南部に伝わっており、宋江陣が盛んな南部・高雄市内門区では毎年、文化継承と地域盛り上げのため、各地の団体が宋江陣のパフォーマンスを披露するイベントが開かれている。▽「宋江陣」とは
武器を使った武術パフォーマンスを行う民俗芸能。一説には、中国の伝奇小説「水滸伝」の登場人物、宋江の武陣に由来するとされ、パフォーマンスでは、小説の中で宋江が使用していた武器を真似たものが用いられる。
元々は、清の時代に中国大陸から台湾にやってきた農家が外部からの敵に対抗するために組織を形成し、体を鍛えるなどの目的で行っていた武術で、時代の移り変わりに伴い、宗教的催しになった。交通部(交通省)の資料によると、内門には台湾全土で最多となる54組の祭り囃子「陣頭」のチームがあり、そのうち18組が宋江陣のチームだという。
高雄市政府が主催する宋江陣の祭り「高雄内門宋江陣」は2001年に始まり、今年で19回目を迎えた。当初は純粋に宋江陣のパフォーマンスを披露するイベントだったが、イベントの盛り上がりを図り、2005年から学校対抗の「創意宋江陣頭大会」を開催している。同大会では各学校のチームがアレンジを加えた宋江陣のパフォーマンスを競う。
今年の同イベントは3月30日~4月7日に内門の媽祖廟「順賢宮」であった。創意大会には、北部や中部、南部の大学生チーム5組、高校生チーム2組に加え、台南市の小中学校4校の合同チーム1組の計8組が参加した。
30日の大会開会式前に、出場チームの控室をのぞかせてもらった。各チームのメンバーたちは比較的リラックスしたムードで、パフォーマンス用の化粧などを行っていた。
前回の優勝校、龍華科技大(桃園市)の女子メンバーによると、化粧は全て自分たちで行い、技術は先輩から教えてもらったり、たくさんの見本を見て真似してみたりしながら身につけるのだという。
各学校の出場チームの構成は様々。今回で4回目の出場となる大葉大(彰化県)の男子メンバーによると、チームは元々、応援団のサークルで、サークルの活動資金の足しにしようと参加を決めたという。男女計29人のメンバーは主に土日を利用して約2カ月にわたり練習に励んだ。1日の練習時間は10時間にも上ったという。1年生のメンバーが大半で、技術の習得に多くの時間がかかったのが大変だったと明かした。台北市立大(台北市)はスポーツ芸術学科の学生、西螺農工(雲林県)は武術部、旗山農工(高雄市)はマーチングバンド、義守大(同)はレジャーマネジメント学科など、それぞれ異なる背景を持つメンバーで参加している。
記者が取材した初日の30日には、創意大会の予選で4チーム、開幕セレモニーでは民俗芸能パフォーマンス集団「九天民俗技芸団」や伝統とストリートダンスを融合させたダンスチーム「鉄四帝文化芸術創意舞踏団」などがパフォーマンスを披露した。
学生のパフォーマンスは活力にあふれ、若いエネルギーを感じさせた。一方、開幕セレモニーでのプロの団体によるパフォーマンスは迫力満点。現代風な音楽に合わせたダイナミックな動きで観客を魅了した。
記者が宋江陣を見たのは今回が初めてで、正直なところ宋江陣というものがあること自体も知らなかった。台湾の祭り囃子「陣頭」といえば、道教の神様「三太子」や太鼓や笛などの演奏、主神を守る8人の武将に扮した「八家将」などとのイメージが強かった。イベントでは見たのは伝統的な宋江陣とは言えないが、台湾の民俗芸能の幅広さ、奥深さが垣間見られた。
期間中には、各地の宋江陣のチームなどが集う「宗教カーニバル」なども開かれ、伝統的な宋江陣のパフォーマンスも楽しめるという。
▽高雄市、日本人の来場に期待
高雄内門宋江陣は、交通部(交通省)観光局の観光イベント分類では「国際レベル」に選ばれており、高雄市政府は海外からも観光客を呼び込もうと考えている。今年は魅力発信を図り、主に欧米出身のブロガーやユーチューバー、メディアなどをイベントに招待した。公式サイトでは日本語版パンフレットを公開し、日本人観光客に対する情報発信も行っている。
同市観光局観光発展科の呉契徳科長によれば、かつては台湾の旅行会社が日本人向けのツアーを企画したこともあり、ツアーに参加した日本人からは宋江陣のパフォーマンスに対し「特色がある」との感想をもらったという。
日本市場に対しては、旅行展でイベントを紹介するほか、台湾と日本の旅行会社の連携を通じて誘致を図りたいとしている。
(名切千絵)