中華圏の映画人にとって最高栄誉とされる映画賞「ゴールデン・ホース・アワード」(金馬奨)の第53回授賞式が11月26日、台北市の国父紀念館で行われた。
◇中国大陸が4大部門総なめ 台湾勢は振るわず
今年は中国大陸映画が圧倒的な強さを見せ、長編フィクション作品賞、監督賞、主演男優・女優賞の主要4部門を完全制覇。残念ながら台湾映画の受賞はコンペティション23部門(うち1部門は該当者なし)中、5部門(ドキュメンタリー作品、アニメーション短編、助演男優、美術デザイン、オリジナル映画音楽)のみ。チョン・モンホン(鍾孟宏)監督の「ゴッドスピード」(一路順風)は最多8部門にノミネートされていたものの、賞獲得は美術デザイン賞の1部門に留まった。
昨年はホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の「黒衣の刺客」(刺客聶隠娘)が作品賞を含む5部門を受賞、チャン・ツォーチ監督の「酔・生夢死」も助演女優、新人賞など4冠に輝いていただけに、今回は台湾映画界にとっては寂しい結果となった。
台湾映画が苦戦する中、日本統治時代の文学団体「風車詩社」をテーマにした「日曜日式散歩者」はドキュメンタリー作品賞を受賞。同作は今年の台湾国際ドキュメンタリー映画祭の台湾コンペティション部門でグランプリを獲得、台北映画祭でも最優秀脚本賞と最優秀音声デザイン賞の2冠に輝いていた。
作品の詳細については過去にコラムで紹介している。(https://japan.cna.com.tw/topic/column/201610190001.aspx)
ホアン・ヤーリー(黄亜レキ)監督は授賞式には欠席。エグゼクティブプロデューサーの閻鴻亞氏がステージ上でトロフィーを受け取った。閻氏は名作「恋恋風塵」がテレビ放送される際、全て中国語に変えられていた歴史に触れた上で、今回ほぼ全てのナレーションが日本語で行われている同作が受賞できたことに対し、「創作活動において台湾が独立していて、自由で開放的な土地であることの証明」だと喜びを語った。(レキ=歴の木を禾に)
エリック・ツァン(曾志偉)やポール・チョン(秦沛)などのベテランを抑え、助演男優賞に輝いたのは、台湾の若手実力派俳優、リン・ボーホン(林柏宏)。作家、呉子雲(藤井樹)の小説をリメイクした青春映画「六弄[口加][口非]館」で、主人公の親友、アジー(蕭柏智)を演じた。
ボーホンの金馬奨受賞は初。名前が呼ばれた瞬間、「信じられない」といった表情を浮かべ、顔をぐしゃぐしゃにしながら涙していたのが印象的だった。プレスルームでも驚きの声が上がった。
選出理由について聞氏は、ボーホンの演技は脚本の中で触れられていない部分を表現していたと言及。審査員を務めた映画監督のチェン・ジェンビン(陳建斌)氏のコメントとして、「優秀な役者が備えている3つの要素―感情を爆発させる力、ユーモア、肩の力を抜くこと―を1つの作品の中で発揮し、役柄の変化も大きかった」とボーホンへの評価を紹介した。
◇その他の台湾映画受賞者
・アニメーション短編賞:「缺乏名字的場所」レディック・スー(徐国峰)監督
・美術デザイン賞:チャオ・スーハオ(趙思豪)/「ゴッドスピード」(一路順風)
・オリジナル映画音楽賞:リン・チャン(林強)/「翡翠之城」
長編フィクション作品賞に輝いたのは、内モンゴル出身チャン・ダーレイ(張大磊)監督の「八月」。夏休みを過ごす少年の視点から、1990年代初期、変化を遂げつつある中国大陸の社会の姿を描いた。主演の男の子を演じたコン・ウェイイー(孔維一)は新人賞を受賞している。
今回の授賞式で最も世間を驚かせたのは、青春映画「七月与安生」でダブル主演を務めたチョウ・ドンユイ(周冬雨、24)とマー・スーチュン(馬思純、28)の主演女優賞同時受賞だと言えるだろう。
主演男優賞を獲得したのは、中国近代文学の名作家、老舎の短編小説をリメイクした「ミスター・ノー・プロブレム」(不成問題的問題)のファン・ウェイ(范偉)。38年ぶりにノミネートされたマイケル・ホイ(許冠文)やクー・チェンドン(柯震東)らを下し、初受賞となった。
(名切千絵)