台湾で最も権威ある音楽賞「ゴールデン・メロディー・アワード」(金曲奨)の第27回授賞式が6月25日、台北市の台北アリーナで盛大に営まれた。当日の模様をレポートする。
◇最多受賞はソーダグリーン「冬 未了」5部門制覇「終わりは始まり」最多8部門にノミネートされていたバンド「ソーダグリーン」(蘇打緑)のアルバム「冬 未了」が、目玉の「最優秀中国語アルバム賞」など5部門を獲得。前評判通りの強さを見せつけた。
「冬 未了」はドイツの交響楽団とコラボレーションし、初めて同時録音で製作した意欲作。ソーダグリーンが2009年からスタートさせ、四季をテーマに世界4都市でレコーディングを行った「ヴィヴァルディプロジェクト」の完結作でもある。
審査員座長の周建輝氏は、同作を製作の面で秀でている上に、流行音楽に対する理解度も高く、その他のノミネート作品と明らかな差があったと1回目の投票で大勢が決まっていたことを説明。また、流行音楽とクラシックのコラボレーションの難しさにも触れ、完成度の高さを評価した。ドラムスのシャオウェイ(小威)はアルバム賞の獲得について「作品製作の決意と動機は間違っていなかったことを分からせてくれた」とし、今後も努力を続けることを誓った。
ソーダグリーンを発掘し、これまで彼らをプロデュースしてきたウィル・リン(林[日韋]哲)は、歌唱部門最優秀アルバムプロデューサー賞を受賞。ステージでスピーチをする際、ボーカルのチンフォン(呉青峰)は涙を隠すように両手で顔を覆っている姿が映し出され、ウィル氏に対する思いの深さを感じさせた。ソーダグリーンは授賞式直後に行われた祝賀パーティーで突如、8月から10月まで行われるライブツアーを最後に、3年間の活動休止に入ることを発表。バンド賞受賞後の舞台裏の取材で今後の計画について尋ねられた際は「ソーダグリーンは終わりを始まりにするのが好き。『冬 未了』は新たな始まり」(ベースのシンイー)とし、さらなる企画があると明かしていた一方、具体的な内容ついては言及を避けていた。◇リン・ジュンジエが2度目の最優秀中国語男性歌手に「夢を評価してくれてありがとう」シンガポール出身の歌手、リン・ジュンジエ(林俊傑、JJ)が「実験アルバム 和自己対話」で2014年以来、2度目の男性歌手賞を獲得した。
受賞作は“実験アルバム”の名称が示すように、新たな試みに挑戦して製作された一枚。シンガポールの大型音楽ホールから海辺、深夜のキャンプファイヤーの会場、部屋、ライブハウスまで、様々な場所でレコーディングが行われ、これまでのJJの作品とは一線を画す作品に仕上がっている。JJは収録曲「不為誰而作的歌」で作曲家賞も獲得、今回2冠を手にした。
JJは受賞スピーチで「13年間、試みたことのない音楽に挑戦した。共感を得られるか自信はなかったけれど、夢だったから作り上げた。夢を評価してくれてありがとう」と興奮気味に語り、満面の笑みを見せた。◇中国語女性歌手は初受賞のジュリア・パン「20年待った」アーメイ(張恵妹)の分身、アミット(AMIT)やタニア・チュア(蔡健雅)など名だたる強豪を抑えて女性歌手賞を手にしたのは、ジュリア・パン(彭佳慧)。デビュー20年目にして初受賞となった。金曲奨自体の受賞は1997年の新人賞以来2度目。
受賞作「大齢女子」は製作に18カ月を費やした5年半ぶりのオリジナルアルバム。ジョージ・チェン(陳建騏)やタニア、リッキー・シャオ(蕭煌奇)、F.I.R.のリアル(阿沁)など豪華制作陣が参加した。ジュリアはキャッチーなメロディーに乗せて、芯が強くも人々を包み込むような優しい歌声を披露している。ジョージは同作のタイトル曲「大齢女子」で楽曲プロデューサー賞を受賞した。
今回の受賞者の中で、最も感激を露わにしていたジュリア。涙を浮かべながらステージに立つと深くお辞儀をし「20年待った。審査員のみなさんありがとう」声を詰まらせながらスピーチした。「アーメイじゃなければタニアだと思っていた」と期待していなかったことを明かし、会場を笑わせる場面も。舞台裏では「自分の歌が必要とされているのか疑問を抱いたこともある」と自信を喪失していた経験も告白。だが念願の栄冠を手にし「人々に力を与えていきたい」と今度も努力し次の20年を築いていくことを誓った。
◇「不要放棄」が原住民語曲として初の楽曲賞に「太陽の下にいる子供たちに捧げる」
自分たちの土地を守るために奮闘する台湾原住民(先住民)の姿を描いた映画「太陽の子」(太陽的孩子)の主題歌「不要放棄Aka pisawad母語版」が獲得。同曲はアミ族の母語「アミ語」で歌われており、原住民語の楽曲が楽曲賞に選ばれるのは史上初。昨年の金馬奨に続き、映画「我的少女時代」の主題歌「小幸運」を下した。
英国の音楽フェス参加のため欠席した受賞者のスミン・ルピ(舒米恩・魯碧﹚に代わって、同作に主演した女優のアロ・カリティン・パチラル(阿洛‧卡力亭‧巴奇辣)がトロフィーを受け取った。
アロは、「この曲は太陽の下にいる子供たちに捧げる歌。みんなが勇気を持って自分の母語で自分の歌を歌えますように。そして台湾の土地を誇りに思えますように」とスピーチ。社会にエールを送った。また、舞台裏では、受賞者発表の前にスミンが「先住民が獲れればいい。アーメイが受賞したらいい」と冗談で語っていたエピソードも明かした。
◇新人賞はオーディション番組出身のイーライ・シエ(謝震廷)「賞獲りました」2007年、13歳の時に出演したオーディション番組「超級星光大道」で注目を浴び、昨年デビューを果たしたイーライ・シエ(謝震廷)がアルバム「査理 PROGRESS REPORTS」で受賞を果たした。
受賞作ではイーライがほぼ全曲の作詞作曲をともに手掛けており、豊かな才能を存分に発揮している。周審査員座長によると、7組がノミネートされていた新人賞は激戦が繰り広げられていたという。そんな中、個性や創作能力、将来性などを考慮した上、4回の投票の末にイーライが選出された。
イーライは名前が呼ばれると緊張の面持ちでステージに。カンペを読みながら関係者に感謝を述べた後、「お父さん、お母さん、賞を獲りました!」と雄叫びを上げ、22歳の若者らしい可愛らしい笑みをのぞかせた。舞台裏では、メディアで「星光弟弟」(星光出身の男の子)と呼ばれていることに触れ、「(受賞で)やっと新たな異名ができる。これからは『男の子』と呼ばないでもらえれば」と笑顔で語り、新たな自分を見てほしいとの願いをほのめかしていた。◇台湾語部門はチェン・ジェンウェイが勝利「台湾語音楽を世界へ」台湾語部門のアルバム賞と男性歌手賞はともに、男性歌手チェン・ジェンウェイ(陳建[王韋])の「古倫美亞」が制した。デビュー作で2014年にも両賞をダブル受賞しており、トロフィー獲得は4つ目。舞台裏では、台湾語の音楽がよりエンターテインメント化し、KPOPのように世界に広まればと台湾語音楽の普及を願った。また、妻がつい最近妊娠3カ月になったことを明かし、年内にも父親になるとおめでたい知らせも報告した。また、次作では台湾語以外にも中国語などより幅広い楽曲に挑戦する予定であることも明らかにした。
台湾語女性歌手賞には、「無字天書」をリリースしたホアン・フェイ(黄妃)が選ばれた。同賞の受賞は2011年以来2度目。
◇庶民派ユニット「張三李四」がコーラスユニット賞に男性4人組ユニット「張三李四」が、デビュー台湾語アルバム「張三李四」でコーラスユニット賞を獲得。「ありふれた平凡でつまらない人物」を意味するグループ名を象徴するかのように、4人はレッドカーペットでも授賞式でも庶民派を全開。
レッドカーペットでは受賞について「自信がある」と語っており、その発言通り見事受賞となった。ステージ上では「アーメイと一緒にダンスしたい」と無謀なリクエストをした上で、収録曲「叭ボク叭ボク」を振り付きで即興披露。会場を沸かせた。(ボク=僕のにんべんを口へんに)
◇その他の受賞者は以下のとおり
<歌唱部門>
★原住民歌手賞(最佳原住民歌手奨):バライ(巴賴(高仲杰))「古老的透明」
★原住民アルバム賞(最佳原住民語専輯奨):「カイ游」(ウー・ハオエン呉昊恩)(カイ=さんずいに回)
★客家語歌手賞(最佳客語歌手奨):ルオ・ウェンユー(羅文裕)「驚喜時刻」
★客家語アルバム賞(最佳客語専輯奨):「異鄉人」(黄子軒と山平快)
★ミュージックビデオ賞(最佳音楽録音帯奨):「如同悲傷被下載了兩次」(サンディー・チェン陳珊ジ) 監督:タン・ゾンファン(談宗藩)(ジ=女へんに尼)
<演奏部門>
★アルバム賞(最佳専輯奨):「Simple Life」(楊暁恩、Lou Rainone、林イ盛、落合誠治)(イ=火へんに韋)
★アルバムプロデューサー賞(最佳専輯製作人奨):リン・チャン(林強)「黒衣の刺客 映画サウンドトラック」
★作曲家賞(最佳作曲人奨):ホアン・ユィシアン黄裕翔「高鉄小旅行」
<出版賞>
★歌唱レコーディングアルバム賞(最佳演唱録音専輯奨):「光凍」 (ツイ・ジェン 崔健)
★演奏レコーディングアルバム賞(最佳演奏録音専輯奨):「奇人密碼:古羅布之謎|映画サウンドトラック」
<技術部門>
★アルバムパッケージ賞(最佳専輯包装奨):ウェイミン・リン(林緯銘) 「一切不滅定律」(The Murky Crows昏鴉)
<特別貢献賞>
トレイシー・ホアン(黄鶯鶯)
<審査員団賞>
該当者なし