(台北中央社)作業台の上に置かれたぼろぼろの公文書。所々穴が開き、文字が読めなくなっている。修復師は静かに見つめながら、歴史の記憶が残った公文書をパズルのように組み合わせる。公文書を管理・保存する国家発展委員会档案管理局では、このような地道な作業が日々繰り返されている。
管理局で12年、公文書の修復に携わる陳郁琳さんは自身の仕事について、医師と患者のようだと語る。ただ、その患者は話すことができない。公文書は多湿の場所に置かれていたかもしれないし、害虫のシロアリやセイヨウシミがいるかもしれない。「病気」の原因を確認し、ようやくその後の「治療計画」が策定できる。
陳さんが手掛ける公文書には、自白書や刑務所内で書かれた遺書もある。「これらの文字には重量だけではない重みがある」。書いた人の当時のつらい気持ちを思うと、作業に慎重さが増し、保存したいという思いが強くなると話す。
管理局の林秋燕局長は、かつての公的機関には公文書を保存するという概念がなかったと打ち明ける。管理局に届けられた際には傷だらけで、一部は水に漬かるなどして「塊」になり、ページをめくることさえできなかったものもあると語る。台北市内に保存されていた台湾鉄路の公文書を探し出した時には約40人のチームが半年かけて十数キログラムのほこりを除去したと振り返る。
管理局に届いた公文書は整理された後、マイナス25度で保管する害虫の駆除を2度行い、傷みがあるものは修復室に送られる。修復は損傷の程度や紙の素材などに応じて進められる。1人の修復師が1カ月に扱う分量は約1千ページ。林局長は「早く作業するのではなく、しっかりと修復したい」と語る。
▽慎重を要する細かな作業
作業には細心の注意と忍耐力が欠かせない。修復に使う材料にも配慮する。陳さんは、50年後、100年後には修復された公文書を再び修復する必要が出てくるかもしれないとし、作業の際には「可逆性」に注意を払っているという。作業に用いる技術や素材、のりは紙を傷つけてはならない。のりは市販品は使わず、小麦でんぷんと水を混ぜて作る。
「公文書を手にした時、最初にすることは公文書と対話すること」。作業開始前には公文書を見つめ「経歴はなにか。どう処置すれば良いか」を考えると陳さん。作業台に置き、材質や紙目、損傷状況を観察し、傷に合った「治療法」を考え、ホチキスの針を慎重に取り除く。また同時に色止めも行う。公文書上の筆跡がにじんで読めなくなるのを防ぐためだ。
公文書の裏面に紙を貼って補強する「裏打ち」と呼ばれる作業がある。修復師はピンセットやはけを使って弱く薄く、虫食いや折り目がある公文書を一カ所一カ所丁寧に広げる。のり付け後の乾燥作業には少なくとも1日かかり、はみ出た紙を裁断する工程などを経て、ようやく作業が終わる。
陳さんは、のりの濃さや乾燥に何時間かかるかなど、正しい答えはないと語る。経験からその時の状況に応じて毎回調節するのだという。
作業中には想定していなかった事態も起きる。だが修復師には「確信が持てなければチャレンジはしない。成功する自信がなければやらない」とする不文律があると陳さん。修復にミスはあってはならない。不安があれば別の人に代わってもらうか、今後技術が進歩した際に再度処置することにする。
「修復を終えた公文書は、いつ起きたことかや、どんな情報が記載されているかを語りかけてくれる」。ぼろぼろの公文書に新たな命を吹き込み、歴史の宝物を再び人前に示すことの達成感は言葉にできないほどだ。陳さんは「これこそが多くの修復師が仕事を愛していることの理由だ」と語った。