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「多様性」を示した金曲奨 第33回授賞式<詳報>

2022/07/15 17:42
7月2日に高雄で開かれた第33回金曲奨授賞式(台湾テレビ提供)
7月2日に高雄で開かれた第33回金曲奨授賞式(台湾テレビ提供)

音楽の祭典「ゴールデン・メロディー・アワード」(金曲奨)の第33回授賞式が2日、南部・高雄市の高雄アリーナで開かれた。17年ぶりの高雄開催となった今年の授賞式では「多様性」という言葉が受賞者や審査員から多く聞かれ、さまざまな音楽を受容する姿勢や多様性を大切にすることの重要性が示された。

▽ タニア・チュアが4冠 コロナ禍だからこそ生まれた作品

4冠を制したタニア・チュア(蔡健雅)=中央社記者王騰毅撮影、2022年7月3日
4冠を制したタニア・チュア(蔡健雅)=中央社記者王騰毅撮影、2022年7月3日

今年最多受賞を果たしたのはタニア・チュア(蔡健雅)のアルバム「DEPART」。各言語別部門のアルバム賞にノミネートされた全ての作品の中から最も優れた作品に贈られる「年間アルバム賞」のほか、華語アルバム賞、華語女性歌手賞、ボーカル・レコーディング・アルバム賞の4冠に輝いた。華語女性歌手賞の受賞は4度目となり、最多受賞記録を更新した。

同アルバムは、タニアが新型コロナウイルス禍で家にこもっていた際、氷河融解など大自然の問題を扱ったドキュメンタリー映画やクラシック音楽に触れ、地球に向けた曲を作ろうとの考えが芽生えたのを機に生まれた。タニアはギター1本のみを使い、作曲や編曲、楽器演奏を自身で手掛け、自宅でレコーディングした。コロナ下だからこそ生まれた作品だ。

プレスルームで母親(左)に抱きついて喜ぶタニア・チュア=中央社記者趙世勳撮影、2022年7月3日
プレスルームで母親(左)に抱きついて喜ぶタニア・チュア=中央社記者趙世勳撮影、2022年7月3日

今年最多の8部門にノミネートされ、本命視されていた同作。授賞式には故郷のシンガポールから母親も駆け付け、一緒にレッドカーペットを歩いた。タニアは華語女性歌手賞の受賞スピーチで「一度は音楽を諦めようと思ったこともありました。でも1つ目の金曲奨(2006年)が私を引き留めてくれ、歌い続けさせてくれました。(デビューしてから)もう25年になります」とこれまでの歌手人生を振り返った。受賞作については「これは孤独なアルバムです。でも宇宙からオリーブの枝が伸びてきました。これはコロナ下で生まれた創作物で、このアルバムはコロナ禍で闘う全ての人に向けた作品です」と感慨深げに語った。

▽ 華語男性歌手は中国ロックの父ツイ・チェン 中国の歌手として初受賞

華語男性歌手賞は、中国ロックの父と呼ばれる中国の歌手ツイ・チェン(崔健)が初受賞した。受賞作の「飛狗」はツイが昨年の60歳の誕生日にリリースした作品。中国の歌手が華語男性歌手賞を獲得するのは初めて。

ツイは授賞式には欠席したが、代理者が受賞スピーチを読み上げた。「音楽は旅のようなものであり、途中にはたくさんの停車駅があります」と音楽を列車の旅に例え、「飛狗」という作品は音楽の旅がまだ終点にはたどり着いていないことを示す作品だと紹介した上で、「金曲奨とは、長い歴史を誇り、内装にこだわり、温もりのある乗り換え駅です。次の駅の方向をはっきりと教えてくれます。『新たな時代があなたを待っていますよ。列車を下りる準備はできましたか』と言っているようです」と金曲奨を重要視する姿勢を示した。

▽ 客家語歌手のアユゴは3冠 

4つのトロフィーを手に喜ぶアユゴ(黄連煜)=中央社記者趙世勳撮影、2022年7月2日
4つのトロフィーを手に喜ぶアユゴ(黄連煜)=中央社記者趙世勳撮影、2022年7月2日

客家語歌手、アユゴ(黄連煜)の「滅人山」は客家語アルバム賞や客家語歌手賞、審査員団賞の3部門を受賞した。「滅人山」は清の時代に客家の先人が海を渡って台湾にやってきた歴史を背景にした作品。

アユゴは審査員賞の受賞スピーチで、このアルバムはやや重たく見えるものの、伝えたいことは「感謝」の思いだと述べ、「かつて全ての移民は台湾を『滅人山』だと恐れていました。私たちはみんな彼らの後裔です。今は(台湾は)私たちが守るたった一つの国です。どこから来たのか、いつ来たのか、話している母語が何なのかにかかわらず、私たちはみんな先住民です」とトロフィーを高く突き上げた。

アユゴは自身が参加するユニット「ニュー・フォルモサ・バンド」(新宝島康楽隊)の「新宝島康楽隊 第12張剪剪花」でもコーラスユニット賞を受賞した。

審査員団賞を発表するアディアー(阿弟仔)審査員長(台湾テレビ提供)
審査員団賞を発表するアディアー(阿弟仔)審査員長(台湾テレビ提供)

▽ 今回の金曲奨を表すのは「多元」=審査員長

審査員長を務めた歌手のアディアー(阿弟仔)は審査員団賞の発表前のスピーチで、
「今回の金曲奨を表す2文字は『多元』です」と述べ、どの候補者も個性的で、審査が難しかったことを告白。その中でも、「滅人山」は歴史の深みや前に進んでいく高みを持ち、言語とエスニックグループの境界を乗り越えた点が評価され、審査員団賞を授与することが満場一致で決まったと説明した。

アディアーは式典後のプレスルームで取材に応じた際、今年は応募作のスタイルが非常に多元的で、審査員の間で意見を一致させるのが難しかったと明かした。繰り返し投票を行った末に各賞の受賞者が決まったという。

▽ 台湾語アルバム賞受賞のリリウム「知らないからこそ金曲奨で知ってもらう」

台湾語アルバム賞を受賞したバンド「リリウム」(百合花)=台湾テレビ提供
台湾語アルバム賞を受賞したバンド「リリウム」(百合花)=台湾テレビ提供

近年の金曲奨を巡っては、ノミネートされるアーティストの知名度の低さを批判する声も噴出している。「不是路」で台湾語アルバム賞を受賞したバンド、リリウム(百合花)のボーカル、イーシュオ(奕碩)は受賞スピーチで、友人から前日に「ノミネートされている人たちのことを知らない」と言われたことを明かし、「知らないからこそ金曲奨を通じて紹介するのです」と金曲奨の意義を訴えた。

プレスルームでは、同作には台湾の漢民族の伝統音楽の要素が多く含まれ、それを台湾語で伝えていると同時に、その他の自分たちが好きな音楽の要素も含まれていると紹介。「審査員がこのように多元的な音楽を評価してくれたことは嬉しい」と喜んだ。また、今回の金曲奨では「台湾がますますさまざまな音楽を受け入れてくれているように感じます。流行音楽とインディーズ音楽が同じ殿堂に集えるのです。誰が受賞しようと喜ばしいことだと思います」と金曲奨が多様性を受け入れていることをたたえた。

▽ 新人賞はコラジ(珂拉琪)=台湾語やアミ族語、日本語で歌う男女デュオ

新人賞の受賞後、パフォーマンスを披露した「コラジ」(台湾テレビ提供)
新人賞の受賞後、パフォーマンスを披露した「コラジ」(台湾テレビ提供)

新人賞は夏子と王家権による男女2人組ユニット「コラジ」(珂拉琪)が受賞した。さまざまなジャンルの音楽の融合を得意とし、楽曲には台湾語やアミ族語、日本語などの言語が混ざる。受賞作品「MEmento.MORI」は、収録曲の半分がアミ族語と日本語で歌った作品だ。

夏子は日本統治時代に生まれた台湾原住民(先住民)アミ族の祖母を持つ。ユニット名は、さまざまな素材を貼り付けて作品を構成するフランス語の「コラージュ」を由来とした。これまで発表した楽曲には白色テロの時代を背景に歌った「万千花蕊慈母悲哀」や日本統治時代に先住民で構成された高砂義勇隊を題材にした「TALACOWA」などがある。

家権は受賞スピーチで「私たちの曲を通じて、みなさんが自分たちにはどのような歴史があるのかを考え、自分なりの答えを見つけてくれれば、それは私たちにとっては素晴らしいことです」と話し、「このポストコロニアルの時代において、私たちの作品がそれぞれの人のアイデンティティーの啓蒙になればと願っています。私たちが絶えず発しようとしている声のように、自由や多様性はみなさんのありのままの美しい姿なのです」と訴えた。

蔡英文(さいえいぶん)総統は3日のフェイスブックで金曲奨に言及した際、コラジを取り上げ、コラジの音楽は「台湾の多様な言語や文化の美しさを表現している」と称賛した。

▽ 実力派歌手が熱いステージ披露

受賞者発表の合間に行われたパフォーマンスでは、実力派歌手が熱いステージを繰り広げた。

子供も楽しめるステージを披露するヨガ・リン(林宥嘉、中央)=台湾テレビ提供
子供も楽しめるステージを披露するヨガ・リン(林宥嘉、中央)=台湾テレビ提供

ヨガ・リン(林宥嘉)は、金曲奨授賞式で史上初という、子供に向けたパフォーマンスを披露。「おどるポンポコリン」や「となりのトトロ」の中国語カバー曲など子供にも親しまれる楽曲を、おもちゃの城のような賑やかな舞台でリズミカルに歌った。

華語男性歌手賞のノミネートアルバムの楽曲をメドレーで歌うウェイ・リーアン(韋礼安)=台湾テレビ提供
華語男性歌手賞のノミネートアルバムの楽曲をメドレーで歌うウェイ・リーアン(韋礼安)=台湾テレビ提供

ウェイ・リーアン(韋礼安)とジョウエムバーバー(9m88)はそれぞれ、華語男性歌手賞と華語女性歌手賞にノミネートされたアルバムの楽曲をメドレーで披露。曲風が異なる6曲を表現豊かに歌い上げた。

コラボステージを披露するワー・ウェイ(魏如萱、左)とミサ(米莎)=台湾テレビ提供
コラボステージを披露するワー・ウェイ(魏如萱、左)とミサ(米莎)=台湾テレビ提供

今年は歌手同士のコラボステージも数多く用意された。プライベートでも仲良しだというイブ・アイ(艾怡良)とララ・スー(徐佳瑩)の2人は「我這個人」や「你敢不敢」など互いの楽曲をデュエットし、力強い歌声で観客を魅了した。ワー・ウェイ(魏如萱)は客家語歌手のミサ(米莎)と共演。2人は情熱的な真っ赤の衣装で登場し、熱気あふれるパフォーマンスを披露した。ヒップホップグループ「頑童MJ116」のムタ(大淵)とレゲエ歌手のマツカ(Matzka)はラテンなムードたっぷりなステージで、会場のボルテージを高めた。

【受賞者・作品一覧】

年間アルバム賞:タニア・チュア(蔡健雅)「DEPART」

華語アルバム賞:タニア・チュア(蔡健雅)「DEPART」

華語女性歌手賞:タニア・チュア(蔡健雅)「DEPART」

華語男性歌手賞:ツイ・チェン(崔健)「飛狗」

年間歌曲賞:エッグプラントエッグ(茄子蛋)「愛情你比我想的閣較偉大」

作曲家賞:ハッシュ(HUSH)「衣櫃歌手」

作詞家賞:ション・シンクアン(熊信寬、熊仔)「88BARS」

編曲家賞:ホアン・シャオヨン(黄少雍)「fu’is 星星歌」(歌唱者:夏子)

アルバムプロデューサー賞:ジェリー・リー(李権哲)「愛情一陣風」(歌唱者:ジェリー・リー)

楽曲プロデューサー賞:ララ・スー(徐佳瑩)、チェン・ジュンハオ(陳君豪)「以上皆非」(歌唱者:ララ・スー)

バンド賞:フレッシュジューサー(血肉果汁機)「GOLDEN 太子 BRO」

コーラスユニット賞:ニュー・フォルモサ・バンド(新宝島康楽隊)「新宝島康楽隊 第12張剪剪花」

台湾語女性歌手賞:ジョーイ・チャン(江惠儀)「空」

台湾語男性歌手賞:ワン・ジュンジエ(王俊傑)「看無」

台湾語アルバム賞:リリウム(百合花)「不是路」

原住民語歌手賞:オサイ・ホーライ(簡燕春)「Ira…a micekor   静静地等待著」

原住民語アルバム賞:チェン・チェンニェン(陳建年)「pongso no Tao」

客家語歌手賞:アユゴ(黄連煜)「滅人山」

客家語アルバム賞:アユゴ(黄連煜)「滅人山」

新人賞:コラジ(珂拉琪)「MEmento·MORI」

歌唱レコーディングアルバム賞:「DEPART」

ミュージックビデオ賞:「甘吧爹ㄋㄟ」/監督:ツァイ・イーユー/歌唱者:ユー・ペイジェン(余佩真)

アルバムデザイン賞:チェン・ニェンイン(陳念瑩)/不是路

インストレコーディングアルバム賞:「Hydro Canvas 海淀」

インスト作曲家賞:ウー・ヨンハン(武勇恆)「On Starboard 星板」

インストアルバムプロデューサー賞:Alan Kwan、Jordan Gheen、Matt Young「Between Now and Never」/演奏者:アラン・クワン(関家傑)

インストアルバム賞:「『修行』映画サウンドトラック」/演奏者:ホウ・ジージェン)

審査員団賞:アユゴ「滅人山」

特別貢献賞:チウ・チェン(邱晨)、チェン・フーミン(陳復明)

(名切千絵)

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