(台北中央社)台湾のテレビ番組の祭典「第56回ゴールデン・ベル・アワード」(電視金鐘奨)授賞式が10月2日、台北市の国父紀念館で開かれた。この記事では、ドラマ部門を中心に受賞結果や受賞コメントなどを紹介する。
▽「天橋上的魔術師」が最多6冠
連続ドラマ作品賞を含む最多6冠を制したのは「天橋上的魔術師」。呉明益の連作短編集「歩道橋の魔術師」を原作とした作品で、台北にかつて実在した複合施設「中華商場」を舞台に、魔術師と子供の交流を描いた。ドラマ制作に当たっては、台北郊外に8000万台湾元(約3億円)を投じて台湾ドラマ史上最大のオープンセットを建設し、1980年代の中華商場を再現。ヤン・ヤーチェ(楊雅喆)監督がメガホンを取り、ミステリアスな魔術師をカイザー・チュアン(荘凱勛)が演じた。 電視金鐘奨では、連続ドラマ作品賞のほか、同監督賞、同新人俳優賞、ドラマ番組撮影賞、美術賞、照明賞を受賞した。
ヤン監督の金鐘奨受賞は2002年以来19年ぶり。ヤン監督は監督賞の受賞スピーチで「きょう、このステージに立てたのは裏方の数百人にも上るスタッフや役者の努力のおかげ」と感謝した。また「私はドラマが好き。学校では教えてくれない恋愛をドラマは予習させてくれる。まだ直面していない老いや病気、死をドラマは先に見せてくれる」とドラマ作品への熱い思いを示した。一方、プレスルームでの取材では、「失われたもの」を扱った同作の撮影では心に大きな負荷がかかり、撮影終了後に心療内科に通っていたことを告白。しかし今回の受賞で「心が晴れた」と喜んだ。ドラマを再び撮影したいか聞かれると「本当に消耗するんですよ。身体と心の両方で」と本音を明かしつつ、「良い題材があれば撮る」と話した。
昨年放送されて高視聴率を記録したホームドラマ「我的婆婆怎麼那麼可愛」は作品賞受賞を逃した。ツァオ監督はタン・アンニン(鄧安寧)監督のユーモア感や独特の手法を称賛しつつも「こだわりが少し不足し、やや妥協があった」と指摘した。
▽元ダマウスのシュエ・シーリンが連続ドラマ主演賞&ミニドラマ助演賞W受賞
連続ドラマ主演男優賞とミニドラマ助演男優賞はシュエ・シーリン(薛仕凌)がダブル受賞した。シーリンは2016年に解散したヒップホップグループ、大嘴巴(ダマウス)でラッパー「MC04」として活躍。近年は俳優業に力を入れており、今回の金鐘奨で一気にその実力を評価された。
シーリンは同作で、幼なじみの男性に恋心を抱くも気持ちを抑え込むことを余儀なくされる裕福な家庭の青年に扮した。工事現場の作業員の生き様を描いた「做工的人」で演じたのは、衝動的な性格ながらも情に厚い青年。全く異なる2つの役でそれぞれ高い評価を得た。
主演男優賞で名前が呼ばれた際、座席で「信じられない」というような困惑した表情を浮かべたシーリン。プレスルームでは「八點檔は特殊で、あまり評価されるチャンスがないから、ノミネートされただけで嬉しかった」と述べ、「本当に幸運。10年同じことをやり続けてきてノミネートされ、2つも賞を穫れるなんて思わなかった」と喜びを噛みしめた。
シーリンの主演男優賞受賞についてツァオ氏は「八點檔のドラマであっても、繊細に演じることを諦めなかった」と評価した。
▽連続ドラマ主演女優賞は「我的婆婆~」のチョン・シンリン
連続ドラマ主演女優賞は、台南の伝統菓子店を舞台にしたホームコメディー「我的婆婆怎麼那麼可愛」で菓子店の女主を演じたコミカルに演じたチョン・シンリン(鍾欣凌)が獲得した。
シンリンは目をうるませながらスピーチし、「視聴者のみなさん、作品を愛してくれてありがとう。一緒に嫁を叱って、一緒に息子を可愛がって、一緒に笑って、一緒に怒り、悲しんでくれた。演技をするのは楽しいこと。全てのテレビ人、そしてテレビ番組を愛してくれる全ての人に感謝します」と力強く語った。
この役は役者として「待ちに待った役だった」と取材で明かしたシンリン。昨年公共テレビで放送され、全40話の平均視聴率は連続ドラマとして同テレビ局史上最高を記録するほどの人気を博した。来年には映画版とドラマ続編の撮影が予定されているという。
歌手で俳優のアーロン(炎亞綸)は、星座専門家のジェシー・タン(唐綺陽)やサンディー(呉姍儒)と3人で司会を務めるトーク番組「36題愛上你」でバラエティー番組司会者賞を受賞した。台湾で「三金」と呼ばれる芸能界の権威ある賞(金曲奨=音楽、金鐘奨=ラジオ・テレビ、金馬奨=映画)をアーロンが受賞するのはデビュー17年で初めて。
▽司会を務めたのは人気ユーチューバー・視網膜 インターネット番組が初めて応募対象に
これまではテレビ番組のみを応募対象としてきた電視金鐘奨。だが近年のインターネット配信の台頭を受け、今年は初めて、バラエティー番組部門とクイズ・リアリティー番組部門の2部門において、インターネットで配信された番組に応募資格が与えられた。
また、今年の授賞式の司会には人気ユーチューバーの視網膜(陳子見)を起用。視網膜は2019年の電視金鐘奨授賞式でも人気司会者のミッキー・ホアン(黄子佼)やユーチューバーのアリーナ・チェン(鄭茵聲)と共に司会を担当したが、今回は初めて単独で大役を担った。
▽式典を彩った華やかなプレゼンター
式典には人気俳優らがプレゼンターとして出席し、華を添えた。
ジョセフ・チェン
台湾では久しく公の場に出ていなかったジョセフ・チェン(鄭元暢)は、レッドカーペットでのインタビューで「好久不見」(お久しぶりです)とあいさつ。6年ぶりの台湾ドラマ出演作となる 「無神之地不下雨」が10月17日から放送開始されるのに合わせ、同作をPRした。同作は、2019年に台湾で放送されて話題を集めたドラマ「時をかける愛」(想見你)のスタッフが手掛ける新作で、神話を題材としたラブストーリー。ジョセフは「風の神」の役で特別出演する。
ワン・ジン&ツォン・ジンホア
ミニドラマ作品賞にノミネートされた「返校」の映画版に主演したワン・ジン(王淨)とツォン・ジンホア(曽敬驊)もプレゼンターとして登場。レッドカーペットでは、ドラマ版の受賞にエールを送った。
▽その他各部門の作品賞
最後に各部門作品賞受賞作や主な個人賞受賞者をまとめて紹介する。
ミニドラマ作品賞:做工的人
テレビ映画賞:主管再見
サイエンス番組賞(自然科學紀實節目獎):福爾摩沙守謢者
台湾の山や海を舞台として、気候変動と過度な開発の下で台湾の生態環境や希少種が受けた傷について考えていく番組。500日余りに渡り撮影が行われた。
芸術・文化番組賞(人文紀實節目獎):不羈─臺灣百年流變與停泊
文化史の角度から、台湾で生まれた「自由の力」を探っていく番組。
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子供番組賞:kakudan時光機
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アニメーション番組賞:未来宅急便
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ライフスタイル番組賞:誰來晚餐12
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バラエティー番組賞:菱格世代DD52
女性グループのメンバーを選ぶオーディション番組。人気歌手のウィルバー・パン(潘瑋柏)とレイニー・ヤン(楊丞琳)がメンターを務めた。
革新番組賞:全明星運動会
クイズ・リアリティー番組賞:全明星運動会
連続ドラマ助演男優賞:Darren(邱凱偉)/我的婆婆怎麼那麼可愛
連続ドラマ助演女優賞:ジエン・マンシュー(簡嫚書)/她們創業的那些鳥事
特殊貢献賞:レン・リーユー(任立渝)=気象キャスター
半世紀にわたり、気象予報官として活躍。1993年に中央気象局を退職後、気象キャスターに転身し、複数のテレビ局で天気予報を伝え続けてきた。今年5月末に引退した。気象キャスターが金鐘奨を受賞するのは初。「テレビに携わる全ての人が、力を尽くせば評価されるということ」と優しいまなざしで語り、「もっと気象に関心を持ってもらえれば」と願った。司会者の促しで、あすの天気予報を披露する一幕もあった。
(名切千絵)