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文化+/映画「返校」ヒットの裏にデータ運用 活用には経験が不可欠<文化+>

2021/05/31 07:00
牽猴子整合行銷の陳怡樺副総経理(副社長)
牽猴子整合行銷の陳怡樺副総経理(副社長)

映画宣伝を航海だとしたら、データは航海図だ。印刷した資料は文字だらけで、どう読んでどうやって正確なルートに進むのか、つまり制作者の作品をいかにして観客に届けるかは、船長の経験に基づく舵取りにかかっている。

 本記事は中央社の隔週特集「文化+」の「數據想買早知道 人性才是最重要」を編集翻訳しました。

 2019年に興行収入2億6000万台湾元(約10億3000万円)の大ヒットを記録したスリラー映画「返校 言葉が消えた日」(返校)や、iPhoneで全編を撮影したことで昨年話題を集めた「恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター」(怪胎)の宣伝を担当したのは、映画PR会社、牽猴子整合行銷の陳怡樺副総経理(副社長)だ。陳氏は映画宣伝界における15年の経験で、100本を超える作品のPRを手掛けた。「返校」のPRではデータ分析会社と手を組み、宣伝の方向性を探った。だが陳氏は「データは万能ではない」と繰り返し強調する。データを読み解くには経験が不可欠だ。

▽「返校」の宣伝にデータを活用 ヒットにつなげる

  「返校」の宣伝戦略に協力した「LnData」( 麟数據科技)の鄭名傑董事長(会長)によれば、公開2カ月前に行った第1ステップは、ターゲットの好みに合わせることとターゲット別のコミュニケーションだ。チームはSNS上の投稿を分析し、ターゲット層ごとに異なる素材を提供し、映画館に足を運ぶ意向を高めた。次のステップはアンケート調査と競合分析。この段階において同社は作品公開前の話題性を盛り上げようとしていた。アンケート調査の結果からは、女性は映画のホラー要素によって鑑賞を尻込みすることが分かった。これに基づき、同社はPRチームに対し、女性に対してはホラー要素の露出を少なくするよう助言した。同時期に公開される注目作品に対しても注意を払い、それぞれの強み、弱みを分析した。

 公開後は第3ステップに入る。それは即座に危険を察知し、風向きを把握することだ。「返校」公開後、インターネット上での注目度は上昇し続けた。これに伴い、チームは各大型掲示板を注視し、リアルタイム警報を通じて即座に危険を察知し、事実無根のマイナス評価が広がっていくのを防いだ。最後のステップは国際PR。海外での公開に向け、宣伝内容を練り、海外の観客にも物語の背景が理解できるようにした。

  インターネット上のフィードバックのほかに、公開の2週間前には若者が多く集まる台北市西門町に「返校」の劇中場面を再現した「体験館」をオープンさせた。再現セットを利用して、どのセットに多くの人が足を止めたか、どのセットが最も多くの注目を集めたかなど人の流れの動向をビーコン(※)で把握し、集めたデータをその後のPRの参考とした。(※ビーコン=低消費電力の通信規格「Bluetooth Low Energy」とモバイル端末向けアプリを使って正確な位置情報を把握し、データを送信する技術)

「返校」劇中写真(牽猴子整合行銷提供)
「返校」劇中写真(牽猴子整合行銷提供)

▽データは100%ではない 先に知ることはできない

  この体験館での情報収集によって、PRチームは観客がどの場面に興味を持ちやすいか推測した。だが陳氏は「来場者が足を止める理由はたくさんあります。必ずしも展示されているものに興味があるとは限りません。照明がとりわけ良かったり、とりわけ自撮りに向いていたり、これらも立ち止まる原因になります」と指摘する。

  「データは発生してから初めて検証できます。先に知ることはできません。データで100%正確な判断が先に得られるとは思いません」と陳氏。予告映像を例として挙げる。予告編はまず先に公開してから男女の比率や年齢層のデータを収集し、そこで初めて映画の主な客層を分析することができる。だが、1本の映画は1時間半を超えることはざらで、観客が好む、あるいは観客を引きつけるシーンをいかにして選んで3~4分の予告編にするかは、チームの経験や判断にかかっていると陳氏は説明する。

  個人の経験も明かす。「フェイスブックで目にした映像を気に入ったとしても、必ずしも「いいね」を押したり、コメントをしたり、シェアしたりするとは限りません。レポートの数字上では『この映像を好んだ人』に私は含められないかもしれません」。映画の主軸をつかみ、最も観客の心に響く切り口を見つけることこそが、宣伝の根本なのだ。

牽猴子整合行銷の陳怡樺副総経理(副社長)
牽猴子整合行銷の陳怡樺副総経理(副社長)

▽新作映画で最新技術とデータを活用

  「返校」を手掛けたジョン・スー(徐漢強)監督は新作「鬼才之道」で再び牽猴子や麟数據とタッグを組む。

  麟数據は台湾全土の15歳から30歳までの100人を対象に、2月に公開したティザー映像をテスト素材として脳波測定とアイトラッキングを実施。消費者の作品に対する集中度や実際に注視している視点を理解するほか、アンケート調査を合わせて実施し、好きなセリフや好きな登場人物、どの笑いのネタに最もはまったかなどを聞くことで、これらのフィードバックを映画制作や上映後のPRに活用する予定だという。

 「観客のフィードバックがどれも『あれが面白くなかった』といったものだったら、脚本家は反省しないといけませんね」と陳氏は笑う。「なぜ笑えなかったのか、はたまたどの役者がどんな事をした時に消費者は面白いと思うのか。これらは全て制作に直接的に影響を与えるのです」

▽データはおみくじと同じ 読み解くのは人

  データは万能ではなく、未来を占うことはできない。だが、宣伝の方向性をより確かにすることができる。陳氏はこう強調する。そして陳氏には、データ活用に対して期待していることがある。それは、チケット販売サイトと個人情報保護の前提の下で会員の情報を共有し、サブスクリプションサービスの会員のような方式で情報を扱えるようになることだ。

 「もし会員が必ず劇場に足を運ぶジャンルがあれば、それはその人が好きなジャンルということ。もし今後、チケット販売サイトと手を組むことができれば、もしかしたらどの地域の観客がどんな作品を好むかについても知ることができるかもしれません。映画宣伝だけではなく、上映スケジュールの決定にも役立つのです」

  データはおみくじのようでもある。おみくじを引いた後、それを読み解くのは人だ。判断を支える経験がなければ、それは単なる数字の並びに過ぎない。目には見えても、方向性はつかめない。

(王心妤/編集:名切千絵)

牽猴子整合行銷の陳怡樺副総経理(副社長、右)
牽猴子整合行銷の陳怡樺副総経理(副社長、右)
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