(台北中央社)戒厳令下の台湾で社会を震撼させた未解決事件「林義雄一家殺害事件」を題材にした映画が物議を醸している。題材の敏感さに加え、出演者の不適切な発言や当事者に断りなく製作されたことなどで、批判が拡大した。製作陣は7日、被害者遺族から許可を得ていなかったことを認め、謝罪した。
同事件は戒厳令下の1980年2月28日に台北市内で発生。民主化を訴えるデモの参加者と警察が衝突した「美麗島事件」(1979年)でデモに関与した林義雄氏の自宅で、林氏の母親と双子の娘2人が殺害され、長女が重傷を負った。林氏は美麗島事件後に逮捕され、拘置所に収容されていた。
林義雄一家殺害事件は45年以上が経過した現在でも解決されていない。事件の捜査を巡っては、過去の政権による人権侵害やその真相究明を目指す「移行期正義促進委員会」が2020年に公表した調査報告書や監察院が2023年に承認した捜査報告書で、警察側の捜査のずさんさや重大な過失が指摘されている。
事件を題材とした台湾映画「世紀血案」のクランクアップ記者会見が1日に開かれ、一部出演者が事件を軽視するような発言をしたのをきっかけに、批判が噴出した。また、事件の当事者である林氏の関係者が、林氏が映画化について知らされていなかったことを明らかにし、インターネット上で炎上が拡大した。
▽ 製作陣や主要キャストが相次ぎ謝罪
批判を受け、製作会社の費思兔文化娯楽と風尚国際文化伝媒は7日、共同声明を発表。「決して不敬の意図はなかった」と弁解した上で、林氏のもとを訪れなかったことを認め、「今後は尊重を前提として、自発的に説明を行い、考え得るあらゆる意見や助言に謙虚に耳を傾ける」とした。
主要キャストのヤン・シャオリー(楊小黎)やリー・チェンナー(李千娜)、ジエン・マンシュー(簡嫚書)らも同日までに相次いで謝罪文を発表した。複数の出演者は「許可を得ていないのは知らなかった」と明らかにしつつ、自身の認識の甘さや過失があったとつづった。
▽ 国史館館長や文化部長も批判
総統府直属の歴史研究機関「国史館」の陳儀深館長は8日、同事件の捜査が二転三転し、多くの謎が残されたままであることに言及した上で、事件の映画化や小説化にはリスクがありすぎると指摘。戒厳令時代の暗黒の歴史には畏敬の念を持って向き合うべきだと促した。
李遠(りえん)文化部長(文化相)も同日、取材に対し、同事件の映画化について「極めて不適切だ。台湾の歴史と人々を踏みにじる行為とも言える」と批判した。