(台北中央社)台北市内で6月29日に開かれた音楽賞「第35回ゴールデン・メロディー・アワード」(金曲奨)授賞式で、台湾語アルバム賞を受賞した台湾原住民(先住民)族出身の歌手、パナイ(巴奈)さんが中国の天安門事件に言及したことに関し、頼清徳(らいせいとく)総統は同日、フェイスブックで、パナイさんのスピーチを「われわれは忘れない」とつづり、全ての音楽家の創作の自由を守っていく姿勢を示した。
天安門事件は1989年に中国・北京で民主化を求める学生らが武力弾圧された事件。パナイさんは受賞スピーチで、金曲奨が今年で35年目を迎えたことに触れた上で、「天安門事件もちょうど35年です。忘れてはなりません。台湾頑張れ」と訴えた。これを受け、パナイさんの作品や関連の議論は中国のインターネット上から消失した。
頼氏は授賞式終了後、フェイスブックでパナイさんのスピーチを紹介。「音楽は人生であり、何にも縛られない自由なものだ」とし、「全ての音楽家の創作の自由を守り、より良い環境と舞台を引き続きつくっていく」と表明した。
パナイさんの発言を巡り、金曲奨を主催する文化部(文化省)や台湾で対中政策を担う大陸委員会の高官も相次いでコメントした。
李遠(りえん)文化部長(文化相)は6月30日、フェイスブックでパナイさんに対し「理想のための堅持に感謝する」と表明。天安門事件が起こったその年から台湾が「本土化」を開始し、翌90年には大学生が中正記念堂を占拠する「野百合学生運動」が起こったことなどを紹介した上で「残酷な『天安門事件』は全力で覆い隠され、消え去られる歴史になった。35年後に台湾の金曲奨の授賞式上でパナイさんによって再び持ち出された」と記した。
大陸委員会の梁文傑(りょうぶんけつ)副主任委員(副大臣に相当)は1日、ラジオ番組のインタビューで、パナイさんの発言を受け、必ずしも中国大陸の中央政府が中国大陸の歌手に対して台湾に渡航しないよう要請するとは限らないとしつつ、歌手らが今後、自発的に訪台を避ける可能性があると指摘した。
パナイさんは発言後に自身の作品が中国のネット上から消えたことについて、「彼らの行為は台湾のかけがえのない自由をさらに浮き彫りにした」とマネジャーを通じて語った。