(台北中央社)台湾の小説家、呉明益さんと日本の漫画家、五十嵐大介さんによるトークイベントが28日、東京都内で開かれた。呉さんは、五十嵐さんの作品を読んで共感した点などについて語った。
イベントは台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)台湾文化センターと紀伊国屋書店が共同で企画。呉さんの最新作「海風クラブ」(海風酒店)が日本で刊行されたのを記念して行われた。参加受け付け開始後、数時間以内に定員に達したという。2人の対談は昨年12月に台北市内で開かれたイベント以来。
文化部(文化省)の報道資料によれば、呉さんは手塚治虫さんの昆虫の繊細な描写や、矢口高雄さんの「釣りキチ三平」に描かれた魚や自然の表現、さらに山下和美さんの「天才柳沢教授の生活」における芸術や生命のテーマの取り入れ方などが、自身の創作に大きなきっかけを与えたと言及。五十嵐さんの代表作「海獣の子供」を初めて読んだ時には、自然の中での人間の小ささや、生き物の細部の描写などに深く共鳴したと話した。
また「海風クラブ」について「再会」をテーマにした小説だと説明し、大学教授でもある呉さんが2016年ごろに学生を連れて沢登りをしに東部・花蓮県に訪れた際、小説のヒロインのモデルとなる地元の画家の女性に出会ったエピソードを紹介した。女性がかつてクラブを経営しており、当時はセメント工場の建設が盛んで多くの外国人技師が集まっていたことが小説の着想の一つになったと語った。
呉さんは今年5月、自身初の絵本「三隻脚的食蟹獴與巨人」(仮訳:3本足のカニクイマングースと巨人)を台湾で出版した。絵も呉さんが手がけた。五十嵐さんは、昨年の対談の際に同作の原画を鑑賞したと明かした上で、細部が極めて精密でありながら幻想的な雰囲気も醸し出されていたと振り返った。一つの絵に複数の視点や見方を融合させてあり、特に動物同士の深い情感が伝わって感動したと述べた。
五十嵐さんはまた、かつて岩手県の山の中の集落に暮らして野生動物を日常的に観察してきたため、呉さんの作品の世界により共鳴できるとも話した。