(台北中央社)日本統治時代の台湾で生まれ、戦後は日本で台湾独立運動に奔走する夫を支えながら経営者として活躍した台湾人女性の人生を描いた陳柔縉の小説「大港的女児」が先月末、日本で「高雄港の娘」として翻訳出版された。日本語訳を手掛けた翻訳家の田中美帆さんは中央社の取材に、日本では近代史に触れる機会が決して多くないとした上で、「作品を通じて台湾の人たちの声が伝わることは、とても大きな意義がある」、「日本の人たちにぜひ読んでほしい」と語った。
「高雄港の娘」は数々の歴史ノンフィクション作品を手掛けた陳柔縉が実在の人物をモデルに台湾の現代史を見つめ直す作品で、台湾では2020年に出版された。
陳柔縉の作品は、庶民の生活が生き生きと描かれている点が好きだったと話す田中さん。「高雄港の娘」の中には当時の情勢が反映された描写があり、「取材の豊かさを感じる内容だと感服した」と語る。
翻訳作業については「翻訳文で台湾語と日本語、台湾語と国語(中国語)の差異をどう表すか、というのは大きな課題でした」と振り返りつつ、台湾語話者である夫の力を借りながら台湾語が作中でどのように使われているか理解した上で、「台湾語が主言語と思われる人には私の故郷である愛媛県の南予方言を当てました」と語る。言語の違いは「統治者と被統治者の関係性や分断を示す重要なファクター(要素)」だとし、「翻訳者の格闘が(読者に)少しでも伝わるよう願っています」と話した。
「歴史小説というと歴史的事件や人物を中心に語られることが多いですが、それだけが歴史ではありません」と田中さん。陳柔縉はかつての作品のタイトルに用いた「一人一人に時代が刻まれている」(人人身上都是一個時代)といった表現に「心の底から同意します」と述べ、「高雄港の娘」にもその信念が込められているとし、日本の読者に手に取ってもらいたいと期待を寄せた。