華語・華人映画の祭典「ゴールデン・ホース・アワード」(金馬奨)の第61回授賞式が11月23日、台北市内で開かれた。今年、過去最多の計718作品の応募があった同奨。授賞式の主なトピックスを紹介する。
▽台湾映画「鬼才之道」が最多5冠
今年の最多受賞を果たしたのは、台湾のジョン・スー(徐漢強)監督のコメディー「鬼才之道」(Dead Talents Society)。歌曲賞、美術賞、視覚効果賞、動作設計賞、メイクアップ・衣装デザイン賞の5部門を受賞した。
同作は「鬼才之道」は幽霊たちの社会を舞台に、彼らの“生きる道”をコメディータッチで独創的に描いた作品。チェン・ボーリン(陳柏霖)やサンドリーナ・ピナ(張榕容)らが主演した。
「鬼才出道」で歌曲賞を受賞したジョアンナ・ウォン(王若琳)は「ノミネートされているのはすごい人ばかりだから、スピーチを用意していなかった」と笑ってみせ、関係者に感謝を伝えた。
同作は今回最多の11部門にノミネートされていた。作品賞や監督賞など主要部門での受賞は逃した。
▽作品賞と監督賞は中国のロウ・イエ監督の「未完成の映画」
今回の長編劇映画作品賞には「鬼才之道」の他、シンガポールのヨー・シュウホァ(楊修華)監督の犯罪スリラー「黙視録」(Stranger Eyes)、中国のロウ・イエ(婁燁)監督の「未完成の映画」(一部未完成的電影)、ゲイの中年男性のラブストーリーを描いた中国のゴン・チュン(耿軍)監督の「漂亮朋友」(Bel Ami)、レズビアンの中年女性が直面する現実を浮き彫りにした香港のレイ・ヨン(楊曜愷)監督の「從今以後」(All Shall Be Well)の5作品がノミネートされていたが、受賞したのはロウ監督の「未完成の映画」。
同作は未完に終わった映画を完成させるために再集結した映画制作チームを描いたドキュフィクション作品。新型コロナウイルス禍の中国の3年を写し出した。同作にはカンヌ国際映画祭で特別上映作品として上映されたこともあって高い注目が集まり、金馬映画祭でのチケットは販売開始直後に完売した。
授賞式には仕事で東京に滞在しているロウ監督に代わり、妻でプロデューサーのマー・インリー(馬英力)が出席した。マーさんは受賞スピーチで、同作は普通に製作された作品でなく、最初から最後までしっかり計画された作品でもなく、「自分、映画人、どんな困難な時も映画を作れる映画人に関する作品」だと紹介。同作に関わった全ての人が楽しく参加してくれたおかげで、ロウ監督にとって映画業界に入ってからの数十年来で最も楽しく、最も特別な作品になったと話した。
ロウ監督は同作で監督賞にも選ばれた。同作は12月20日に台湾で公開されることが決まった。
▽ 主演男優&女優賞は共に初受賞
主演男優賞を受賞したのは中国のチャン・チーヨン(張志勇)。ゴン・チュン監督の「漂亮朋友」での演技が評価された。
授賞式では、仕事の都合で欠席したチーヨンに代わり、ゴン監督がトロフィーを受け取った。チーヨンとは幼なじみだというゴン監督。チーヨンは10歳の頃に坑道で拾った雷管で目と手の指にけがを負い、そのために今でも軽度の障害が残る。大人になって一緒に映画を撮影し始めた当初のチーヨンはカメラと向き合う自信がなく、傷を負った目と指が写らないようにしており、ゴン監督は「それが君だけの質感と特徴なのだから、決して避けないで。君はいちばんユニークな役者なんだ」と励ましていたと振り返った。
主演女優賞は香港のジョン・シュッイン(鍾雪瑩)が香港映画「看我今天怎麼説」(The Way We Talk)で受賞した。2度目のノミネートにして初受賞。同作では人工内耳を使用する聴覚障害者の女性を演じた。
受賞スピーチでは途中でトロフィーを床に置き、広東語の手話を交えて映画に協力したろう者に感謝した。
▽ 助演男優賞と助演女優賞は台湾の俳優の手に
助演男優賞は台湾のシー・ミンシュアイ(施名帥)が台湾映画「角頭-大橋頭」で初ノミネートにして初受賞した。
ミンシュアイは受賞スピーチで、今年結婚を発表した俳優のチュウ・チーイン(朱芷瑩)の名前を出し、「自分に何も無い時からずっと才能を信じてくれた」と感謝した。最後に「私は役者で夢を作る人です。金馬奨は私のものです」と力強く叫び、トロフィーを高く掲げて喜びをかめしめた。
助演女優賞を受賞したのはヤン・グイメイ(楊貴媚)。トム・リン(林書宇)監督の「小雁与呉愛麗」で、刑務所から戻ってきた娘との関係に苦悩する母親を演じた。現在65歳のグイメイの金馬奨受賞は2004年以来2度目。グイメイは今年、テレビ番組賞「ゴールデン・ベル・アワード」(金鐘奨)でも連続ドラマ主演女優賞(生きている間/有生之年)に輝いた。
受賞スピーチで「本当に信じられない。今年の候補者はみんな優秀な役者だったから」と話しつつ、「でもごめんなさい。トロフィーは私のものになったわ。だから遠慮なくいただくわ」とおどけてみせ、ベテランらしい貫禄を見せつけつつ会場を笑わせたグイメイ。
プレスルームでは、前回の受賞から今日までの「この20年の道のりは長かった」と話し、関係者に感謝した。また「私はとても幸運。役者がいい脚本をもらうのは大変なこと」と話し、今回演じた母親の役はよくある母親ではなく、自分の考えを持った母親で、いつもとは違う母親だったと語り、「普段と違う私を見てもらえた」と感慨深げに語った。
▽ 阿部寛が金馬奨初出席
日本からは俳優の阿部寛がプレゼンターとして出席した。阿部はトム・リン監督の「夕霧花園」(2019年)に主演した他、2018年の台湾東部地震に1000万円を寄付したり、1997年放送の台湾ドラマに出演したりと台湾と縁がある。
初めての金馬奨授賞式参加に「この場に立てて非常にうれしい」と語り、「多くの映画人の方々、いろんな可能性を持っている方々と一緒にこの空間を味わえることにたいへん興奮しています」と笑顔を浮かべた。授賞式では俳優のシルビア・チャン(張艾嘉)と共にプレゼンターを務めた。
▽ リウ・グアンティンが司会に挑戦
今年の授賞式の司会は人気俳優のリウ・グアンティン(劉冠廷)が務めた。グアンティンはオープニングで13分余りに及ぶトークショーを披露。冒頭では自身が出演する映画「餘燼」のワンシーンになぞらえて、ワイヤーにつるされる形でステージに降り立った他、ボールジャグリングなども披露し、式典を温めた。
▽ 9m88やYELLOWらがパフォーマンスで盛り上げ
パフォーマンスのパートでは歌手の9m88(ジョウエムバーバー)がこの1年に亡くなった映画人にささげるステージに登場し、1937年公開のミュージカル映画「踊らん哉」の劇中歌「誰にも奪えぬこの想い」(They Can't Take That Away from Me)をしっとりと歌い上げた。
ワー・ウェイ(魏如萱)とYELLOW(黄宣)は「夢を作る人」のテーマでコラボステージを行った。バックダンサーを従え、ビゼーの「カルメン」やロッシーニの「ウィリアム・テル序曲」を中国語リメークした楽曲などをドラマチックに披露した。
▽ 兵役中のシュー・グァンハンが久々に公の場に
プレゼンターの中で特に大きな注目を集めたのは俳優のシュー・グァンハン。現在兵役中で特別に軍に休暇を取っての出席となり、公の場に姿を見せるのは久々ということもあって、グァンハンが姿を見せるとメディア、観客双方から大きな歓声が上がった。
グァンハンが清原果耶と共に主演した日台合作映画「青春18×2 君へと続く道」は脚色賞や撮影賞、作曲賞、歌曲賞の4部門にノミネートされていたが、受賞はならなかった。
(名切千絵)