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チョン・モンホン監督作「瀑布」が作品賞含む最多4冠 第58回金馬奨授賞式<詳報>

2021/12/16 19:12
第58回金馬奨授賞式は11月27日、台北市の国父紀念館で開かれた。写真は歌手ワー・ウェイ(魏如萱)のパフォーマンス=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
第58回金馬奨授賞式は11月27日、台北市の国父紀念館で開かれた。写真は歌手ワー・ウェイ(魏如萱)のパフォーマンス=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

台湾の映画賞「第58回ゴールデン・ホース・アワード」(金馬奨)授賞式が11月27日、台北市の国父紀念館で開かれた。授賞式の模様や受賞者のスピーチなどを詳報する。

▽ 最多受賞はチョン・モンホン監督の「瀑布」 4冠制す

第58回金馬奨授賞式で、劇映画作品賞の受賞スピーチをする「瀑布」のチョン・モンホン監督(中央手前)と同作品のチーム=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
第58回金馬奨授賞式で、劇映画作品賞の受賞スピーチをする「瀑布」のチョン・モンホン監督(中央手前)と同作品のチーム=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

最多受賞を果たしたのはチョン・モンホン(鍾孟宏)監督の「瀑布」。新型コロナウイルス下の台湾社会を舞台に、母一人子一人で暮らす母娘の心の交流を描いた。同作はチョン監督が初めて女性の題材に挑戦した作品。アリッサ・チア(賈静雯)とワン・ジン(王浄)の世代が異なる2人の人気女優が母娘を好演した。

同作は劇映画作品賞に輝いたほか、アリッサが主演女優賞を受賞。脚本賞と映画音楽賞も制した。

チョン監督は作品賞での受賞スピーチで「主演女優賞を獲れたのが一番うれしい」とアリッサを祝福。「これからも毎年作品を撮り続けていきます」と抱負を語った。

▽ 「瀑布」の受賞理由「アフターコロナで最も温かく力のある作品」

今年の劇映画作品賞の候補に選ばれたのは、「瀑布」のほか、SFミステリー「The Soul: 繋がれる魂」(緝魂)、「アメリカン・ガール」(美国女孩)、ラブファンタジー「月老」の台湾映画4作品と、政府に不当な扱いを受ける香港の路上生活者の生活を描いた香港映画「濁水漂流」。

授賞式では「瀑布」の受賞理由について「アフターコロナにおいて最も温かく、最も力のある作品」と紹介された。金馬奨を運営する台北金馬映画祭実行委員会のウェン・ティエンシャン(聞天祥)執行長(CEO)によると、劇映画作品賞を決める議論では「瀑布」と「アメリカン・ガール」の間で意見が分かれたと説明。最終的に「瀑布」が受賞した理由についてウェン氏は「写実性であれ、メタファーであれ、いずれも称賛に値する部分があった」と説明した。

▽ 主演女優賞受賞のアリッサ「作品に癒やされた」

主演女優賞の受賞スピーチをするアリッサ・チア=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
主演女優賞の受賞スピーチをするアリッサ・チア=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

主演女優賞を受賞したアリッサ・チアは「瀑布」で、キャリアウーマンから一転、統合失調症を患い、人生の変化に向き合う母親を説得力を持って演じたことが評価された。デビュー約30年にして金馬奨初ノミネート、初受賞となった。

涙をこらえながらステージに立ったアリッサは「私は演技を愛しています。この道のりは長かったけれど、初心を忘れてはいません。これからも演じ続けていきます」と俳優業への情熱を力強く語った。また、「『瀑布』は見てもらうのに値する作品。作品によって癒やされ、作品の中の役によってコロナ後のみんなが抱きしめられることや言葉での温もりをとても必要としていることをより強く感じました」と述べ、作品をPRした。

▽ 主演男優賞はチャン・チェン(張震)が初受賞

主演男優賞を受賞し、笑顔でスピーチするチャン・チェン=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
主演男優賞を受賞し、笑顔でスピーチするチャン・チェン=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

主演男優賞には「The Soul: 繋がれる魂」で怪奇な事件の調査に取り組む末期がんの検察官を演じたチャン・チェン(張震)が選ばれた。チャンは1991年に「牯嶺街少年殺人事件」で同賞に初ノミネートされて以降、今回を含め4回候補入りしていたが、受賞は初めて。

チャンは同作の役作りのために12キロの減量を行った。体型改造だけでなく、話し方や目の動きなど細かな部分でも見事に役を演じきったことが高く評価された。

チャンは受賞スピーチで「私は怠け者だけれど、クリエイティブな役者だと思います」と照れたような表情で語った上で「演じたことのない役に挑戦し、自分を進化させてきました。役の中で自分探しをしたりもしました」と役者人生を振り返った。また「『The Soul』のために12キロ痩せ、多くの力を傾けたと多くの人から言われますが、私は全くそう思いません。それは役者としてやるべきことだからです」とストイックな精神をのぞかせた。

ウェン氏によれば、主演男優賞の審議ではチャンと「濁水漂流」のフランシス・ン(呉鎮宇)、「君が最後の初恋」(当男人恋愛時)のロイ・チウ(邱沢)の3人の間で票が割れた。チャンの演技がジャンル映画の中で演じられる水準を遥かに上回り、演技の成熟が見られたことなどを勝因に挙げた。

▽ ドキュメンタリー作品賞に香港民主化運動を記録した「時代革命」

「時代革命」でドキュメンタリー作品賞を受賞したキウィ・チョウ監督は、ビデオメッセージで登壇した=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
「時代革命」でドキュメンタリー作品賞を受賞したキウィ・チョウ監督は、ビデオメッセージで登壇した=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

金馬奨は世界各地の華語映画や華人による作品を対象にした権威ある賞。2019年に中国当局が政治的理由により、中国の作品や映画人の同賞不参加を発表したのを受け、同年以降は中国の作品は同賞から姿を消している。一方で、反体制的な内容を盛り込んだ香港関連の作品は複数ノミネートされた。

ドキュメンタリー作品賞に選ばれたのは、香港映画「時代革命」(Revolution of Our Times)。同作品は香港で起こった民主化運動の様子を、最前線で撮影した映像と老若男女複数のデモ参加者の声によって浮き彫りにした作品。200万人が参加した2019年6月のデモから7月の立法会占拠、元朗区無差別攻撃事件、11月の香港理工大学での衝突、2020年6月末の国家安全維持法施行までを記録した。

同作品は台湾でも注目を集めており、台北金馬映画祭ではチケットが即完売。追加分を含め計6回上映された。

ドキュメンタリー作品賞の発表時、プレゼンターからタイトルが呼ばれると大きな拍手が起こり、数十秒にわたり鳴り止まなかった。

キウィ・チョウ(周冠威)監督は事前録画したビデオメッセージで受賞コメントを寄せた。「良知や正義を持ち、香港のために涙を流したことのある香港人にこの作品を捧げます」と声をつまらせながら話した。

「花果飄零」で監督賞を受賞したクララ・ラウ(羅卓瑤)監督はマカオ生まれ、香港育ちで現在はオーストラリアに居住する。同作は「帰郷」を主軸にマカオと香港の歴史を振り返った作品。香港デモに関するシーンも盛り込まれた。5回目の監督賞ノミネートで初受賞となった。

オーストラリアにいるラウ監督に代わって登壇した出演者の黎卓玲は「香港で撮影したこの作品が見られるのは世界中でオーストラリアと台湾だけしかない。香港で見られるかは分からない」と述べ、金馬奨に感謝した。

▽ 俳優リン・ボーホンが司会初挑戦  オープニングを盛り上げる

司会に初挑戦するリン・ボーホン=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
司会に初挑戦するリン・ボーホン=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

今年の授賞式司会は俳優のリン・ボーホン(林柏宏)が務めた。ボーホンは司会初挑戦ながら、堂々とした風格で雰囲気を盛り上げた。

「映画に夢中」(著迷、OBSESSED WITH MOVIES)と題したオープニングパフォーマンスでは、メイデイ(五月天)の人気曲「知足」に乗せて映画制作を夢見る青年の物語を描いた約4分半のショートムービーが上映され、ボーホンが青年を演じた。映像には今年の金馬奨にノミネートされたアニー・チェン(陳庭妮)やリウ・グアンティン(劉冠廷)、ケイトリン・ファン(方郁婷)など10人余りの俳優のほか、台北金馬映画祭実行委員会主席を務めるアン・リー(李安)監督など豪華なメンバーが出演した。

映像が終わると同時にボーホンはステージに登場し、「知足」の続きを穏やかな歌声で歌唱。最後のフレーズを「知足的快楽,做電影人的夢」(足るを知る喜び、映画人の夢」と変えて歌い、開幕を盛り上げた。

▽ アン・リー監督、今年で主席を退任 「多くのことを経験」

授賞式の終了後、プレスルームであいさつする台北金馬映画祭実行委員会主席のアン・リー監督(右)と今回の審査委員長を務めた映画評論家のホアン・ジェンイエ(黄建業、左)=中央社記者呉家昇撮影 2021年11月27日
授賞式の終了後、プレスルームであいさつする台北金馬映画祭実行委員会主席のアン・リー監督(右)と今回の審査委員長を務めた映画評論家のホアン・ジェンイエ(黄建業、左)=中央社記者呉家昇撮影 2021年11月27日

2018年から金馬実行委員会主席を務めてきたアン・リー監督は今年をもって4年の任期を終え、退任する。授賞式終了後、プレスルームに登場したリー監督は「私たちの金馬奨は成熟した映画祭です」とたたえ、「今年が最後の一年になりますが、とても気にかけているので、撮影がなければ戻ってきます」と安堵に満ちた笑みを見せながら約束した。

リー監督の任期中は中国によるボイコットもあり、金馬奨は変化に見舞われた。「この4年間、私たちは多くのことを経験しました。この経験を大切にします。華語映画という大家族が年に1度集まる金馬奨はとても温かく、心温まり、そしてとても大きなエネルギーを持った映画イベントです」と金馬奨への思いを語った。

次期主席には撮影監督のリー・ピンビン(李屏賓)が就任する。

▽受賞一覧

受賞者・作品は次の通り。

劇映画作品賞:「瀑布」 (The Falls)

主演男優賞:チャン・チェン(張震) 「The Soul: 繋がれる魂」(緝魂)

主演女優賞:アリッサ・チア(賈静雯)「瀑布」 

監督賞:クララ・ラウ(羅卓瑤)「花果飄零」(Drifting Petals) 

助演男優賞に輝いたリウ・グァンティン=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
助演男優賞に輝いたリウ・グァンティン=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

助演男優賞:リウ・グァンティン(劉冠廷)「詭扯」(Treat or Trick)

助演男優賞受賞は2019年の「ひとつの太陽」(陽光普照)に続き2度目。

「これまで多くの人に支えられてきました。ここまで歩んでくる上では誰一人として欠けることはできませんでした」と全ての人に感謝した。また社会情勢の急速な変化に触れ「温もり、愛が大事。人に着物を脱がせるのは絶対に北風ではありません。暖かい太陽なのです」と話した。最後には声を震わせながら「これからも頑張ります」と述べ、深く頭を下げた。

助演女優賞のスピーチで涙を見せるワン・ユーシュエン=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
助演女優賞のスピーチで涙を見せるワン・ユーシュエン=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

助演女優賞:ワン・ユーシュエン(王渝萱) 「該死的阿修羅」 (Goddamned Asura)

新人俳優賞に輝いたケイトリン・ファン=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
新人俳優賞に輝いたケイトリン・ファン=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

新人俳優賞:ケイトリン・ファン(方郁婷)「アメリカン・ガール」(美国女孩)

現在台北アメリカンスクールに通う15歳。初ノミネートにして主演女優賞にもノミネートされていた。「『アメリカン・ガール』に出演する前まではこの日、この場に立てるなんて思ってもいませんでした」と初々しい笑顔で喜びを語った。

新人監督賞:ロアン・フォンイー(阮鳳儀) 「アメリカン・ガール」

短編劇映画作品賞:「詠晴」 (Good Day)

長編アニメーション作品賞:該当なし

短編アニメーション作品賞:「海角天涯」(The Magical Tracing) 

ドキュメンタリー作品賞:「時代革命」(Revolution of Our Times)

ドキュメンタリー短編賞:「度日」(In Their Teens)

ドキュメンタリー短編賞を受賞した「度日」のリン・ヨウウン(林佑恩)監督=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
ドキュメンタリー短編賞を受賞した「度日」のリン・ヨウウン(林佑恩)監督=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

同賞は今年新設された部門。同作は台湾中部の雲林で暮らす未成年の若者が経済や家庭の問題を抱えながらも日々を過ごす姿を記録した。リン・ヨウウン(林佑恩)監督は受賞スピーチで「取材対象者の2人は成人する前から過酷な肉体労働に従事していました。国や社会、家族の支援もありません。このような青年は台湾中にいます。多くの人に若者の問題に関心を持ってもらえればと思います」と訴えた。

オリジナル脚本賞:チョン・モンホン(鍾孟宏)、チャン・ヤオシェン(張耀升)「瀑布」
チョン・モンホンの脚本賞受賞は4度目のノミネートにして初。

脚色賞:ジュン・リー(李駿碩) 「濁水漂流」(Drifting)

撮影賞:Giorgos VALSAMIS 「アメリカン・ガール」

編集賞:シエ・モンルー(解孟儒)「The Soul: 繋がれる魂」

美術賞:ホアン・メイチン(黄美清)、リャン・シュオリン(梁碩麟)、リャオ・ホイリー(廖惠麗)「The Soul: 繋がれる魂」

視覚効果賞:イェン・アーチン(厳振欽) 「月老」(Till We Meet Again)

メイクアップ&衣装デザイン賞:シンギング・リン(林欣宜)、シャオ・バイチェン(蕭百宸)、リウ・シェンチア(劉顯嘉)「月老」

アクション設計賞:チャン・マンファイ(陳文輝)、チュウ・クーフォン(朱科豊)、フォン・レンジー(馮仁稚) 「叱咤風雲」(Nezha)

音響効果賞:R.T カオ(高偉晏)、チュウ・シーイー(朱仕宜)「月老」

映画音楽賞:ルー・リューミン(盧律銘) 「瀑布」
3年連続で音楽部門にノミネート。2019年に「返校」の主題歌「光明之日」で歌曲賞を受賞している。

「我這個人」で歌曲賞を受賞したイブ・アイ=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
「我這個人」で歌曲賞を受賞したイブ・アイ=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

歌曲賞:「我這個人」(I Missed You) 「つかみ損ねた恋に」(我沒有談的那場恋愛) 詞・曲・歌=イブ・アイ(艾怡良)

泣きながらステージに立ち、「この激しい思いは言葉では表現できません」と口にしたイブ・アイ。同作で映画初主演を務めたイブは、作品を通じて「映画の偉大さや感動を真に知ることができました」と感動に満ちた表情で語った。

年間台湾傑出映画人:フランク・チェン(陳新発)

背景や道具に質感を出す経師職人。アン・リー監督の「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」やマーティン・スコセッシ監督の「沈黙 -サイレンス-」などの大作映画や台湾ドラマ「天橋上的魔術師」などの制作に携わった。

年間台湾傑出映画人を受賞したフランク・チェン(右)=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
年間台湾傑出映画人を受賞したフランク・チェン(右)=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

特別功労賞:リン・ザンティン(林賛庭)

今年91歳のカメラマン。モノクロ映画からカラー映画への移り変わりを経験し、130本余りの映画を撮影。「台湾映画の生きた歴史」と紹介された。
杖をつきながらも、しゃきっと背筋を伸ばして登壇したリン。出席者は総立ちで大きな拍手を送った。

特別功労賞の受賞スピーチをするリン・ザンティン(左)=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
特別功労賞の受賞スピーチをするリン・ザンティン(左)=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

特別功労賞:ツァイ・ヤンミン(蔡揚名) 

200本余りの台湾語映画を製作した映画監督。1939年生まれで1963年に映画界に入った。「金馬奨は私の60年余りの功労を評価してくれました」と喜んだ。

特別功労賞のトロフィーを受け取る映画監督のツァイ・ヤンミン(右)=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日
特別功労賞のトロフィーを受け取る映画監督のツァイ・ヤンミン(右)=中央社記者鄭清元撮影 2021年11月27日

(名切千絵)

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