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国家安全維持法の施行から5年 香港在住台湾人が語る「抑圧と恐怖」

2025/08/03 17:36
取材に応じたマイケルさん(本人提供)
取材に応じたマイケルさん(本人提供)

香港で民主派排除などを目的とした香港国家安全維持法が施行され、6月末で5年となった。香港で暮らす台湾出身のマイケルさん(仮名)が中央社の取材に応じ、思いを語った。

香港で文化関連の仕事を始めてから10年近くが経つマイケルさん。香港で働き始めたのは、香港が国際化された都市で、新しいことにたくさんチャレンジできる環境だったからだ。そんなマイケルさんだが、香港に巨大な変化が起きるとは、多くの香港人と同様に夢にも思っていなかったという。

警察の放つ催涙弾の煙が四方で上がっていた2019年のことを、マイケルさんはとてもつらかったと振り返る。「多くの若者が捕まるのをこの目で見ました。この変化はとても大きいもので、思いも寄りませんでした。例えるなら、台湾で政府に抗議した千人の若者が捕まって(戒厳令時代には政治犯が収容された)緑島に送られてどうなるかが想像できないようなものです」。

2019年8月25日のデモで警察に取り押さえられる参加者=中央社記者沈朋達撮影
2019年8月25日のデモで警察に取り押さえられる参加者=中央社記者沈朋達撮影

新型コロナウイルスの流行が広がり、デモ運動は下火になった。2020年6月30日、中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)常務委員会が香港国家安全維持法を可決し、即日施行された。香港で暮らす人々に、この地を去るのかとどまるのかの決断を迫るようなものだった。

マイケルさんは法律の施行後、香港での暮らしや仕事はリスクがあるのではないかと考え、一時は離れることも考えた。だが、新型コロナの関係と海外で新たな仕事が見つからなかったこともあり、香港に残った。

この数年間でリスクとの付き合い方を学んだと語るマイケルさん。「話してはいけないことは話さない。ネット上の物をむやみにクリックしない。実際、私は元々そういうことはしませんが、それでも恐怖があります。みんな多くのレッドラインを知っているので、それに触れないようにしています。そうすれば少し安心できるのです。心の中にはそれでも抑圧や怖さがありますけど」。

今でも警察官を目にすると恐れを感じると明かす。空港の出入国審査でも形容しがたい恐ろしさがあるといい「香港にいる人にとって、2019年の影響はあまりにも大きすぎたのかもしれません」と話した。

マイケルさんはここ数年で、香港の市民社会が消えていき、反体制派の声もどんどん少なくなってきているのを感じている。新型コロナ収束後も経済が思うように復興せず、多くの店が営業をやめた。マイケルさんが以前、週末の夜のひとときを過ごしていた複数のレストランも姿を消した。

シャッターが下ろされ、借り手を探す公告が貼り付けられた物件(マイケルさん提供)
シャッターが下ろされ、借り手を探す公告が貼り付けられた物件(マイケルさん提供)

「昔の香港は活力がありました。あの時は政治的な環境や社会が開放的で、経済も良かったのだと思います。あの頃の繁栄や楽しさは、もうなくなってしまったようです」。

香港を離れるという選択肢が、最近またマイケルさんの脳裏に浮かぶようになった。香港ですでに長年を過ごしたため、台湾に帰るか、他の国で仕事をするかという欲も湧いているという。加えて、コロナ禍を経て香港の物価は上がり続け、暮らしも苦しくなってきた。「香港の友人に別れを告げるのはかなり辛いです。でも、多くの香港人がこの地を離れるように、私も自分のために新しい機会や夢を探したいのです」。政治環境の変化も香港を離れたい理由の一つだが、期限は決めていないという。

マイケルさんの友人で、同じく香港在住の台湾出身者の中には、異なる選択をする人もいる。ある人は子どもに中国の愛国教育を受けさせるのが嫌で、すでに香港を離れた。またある人は上海にいるつもりで香港で生活している。中には政治に興味がなく、香港の変化について何も感じていない人すらいる。

マイケルさんは、香港は常に移民社会で、来る人がいれば去る人もいると話す。コロナ禍後、10万人以上の香港人が離れたとし、それぞれが自分にとって最も良い選択が何なのかを知っているのだと語った。

(陳鎧妤/編集:田中宏樹)

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