優れた台湾映画を表彰する「第22回台北映画奨」授賞式が7月11日、台北市の中山堂で開かれた。今年は長編51本、ドキュメンタリー49本、短編187本、アニメーション44本の計331本の応募があり、計29作品が各賞にノミネートされた。本記事では授賞式の詳細をお届けする。
▽スリラー映画「返校」がグランプリ含む最多6冠制覇
全ノミネート作品の中から最も優れた作品に贈られる「グランプリ」(百万大奨)に選ばれたのは、戒厳令下の台湾を題材にしたスリラー映画「返校」。同作はこのほか、長編劇映画賞、主演女優賞、美術賞、視覚効果賞、音響効果賞も受賞し、最多6部門を制した。
返校は、国民党独裁政権による白色テロが行われていた1962年を時代背景に、夜中の学校を舞台として人々の自由への渇望を描き出した作品。昨年秋に公開され、興行収入約2億6000万台湾元(約9億5000万円)の大ヒットを記録した。 審査員団主席のウー・ニエンジェン(呉念真)は同作をグランプリに選んだ理由について、「台湾映画の可能性を教えてくれた」と言及。若者が好む形の作品にしつつも、台湾の歴史を後半に盛り込んだと評価し、「これは私たちが今後、発展させていくべき方向性かもしれない」と述べた。
同作でヒロインを演じたジングル・ワン(王浄)は、個人の気品と観客を作品に引き込む力で人物に魂を込めたとして主演女優賞を初受賞した。
最多14部門にノミネートされていた青春バスケ映画「下半場」は、監督賞、撮影賞、傑出技術賞の3部門の受賞に留まった。
監督賞を受賞したチャン・ロンジー(張栄吉)監督は、主演俳優賞や助演男優賞にノミネートされていたフェンディ・ファン(范少勳)とベルナート・チュウ(朱軒洋)などが受賞を逃したことに触れ、「私の心の中では彼らが一番」とねぎらい、「裏方スタッフの頑張りがなければ、監督の功労はない」と全ての制作スタッフに感謝を述べた。
主演男優賞には「親愛的房客」で大家の高齢女性とその孫を世話する入居者の男性を演じたモー・ズーイー(莫子儀)が選ばれた。現在39歳のズーイーは役者として20年以上のキャリアを持つが、俳優部門の賞を受賞するのは今回が初めて。「自身の受賞を通じて、より多くのクリエーターにとって何か感じるものがあれば」と語った。
今回は新人賞、助演男優賞の2部門を10代の俳優が受賞し、若い力を感じさせた。
新人賞を受賞したリー・リーロン(李曆融)は15歳。少年観察所を舞台にした短編「主管再見」で、表向きは強がっているものの内心は孤独を抱える少年・ヤマハを演じた。
名前が呼ばれた瞬間「まさか自分とは」と驚いたというインチュエン。今後の活躍が期待されるものの、本人は「まずは学業に専念したい。学業をしっかりやってから、時間と能力があれば(役者の仕事について)考えたい」と平常心。もしハリウッドで活躍する台湾出身の映画監督、アン・リー(李安)からオファーがあったらどうするか質問されると、「その時考えてみます」と話し、しっかりとした受け答えで大物感を漂わせた。
<助演女優賞>ヤオ・イーティ(姚以緹)「ギャングだってオスカー狙いますが、何か?」(江湖無難事)
同作は映画監督志望の青年とその親友がギャングの親分のために映画を撮ることになるものの、ヒロインを演じるはずだった親分の愛人が予期せぬ事故で死んでしまい、あの手この手をつかってピンチを乗り切ろうとするというコメディー。イーティは親分の愛人と死体、トランスジェンダーの3役を演じた。
受賞スピーチでは「役者の道は果てしないもの。女性の自主権や性同一性と同じように」と述べ、大きな拍手を浴びた。プレスルームでは「多くの人に自分の演技と作品をみてほしい」と意欲を見せた。
台湾の田舎に結婚仲介業者を通じて嫁いできたベトナム人女性・阿紫の姿を追った作品。阿紫の夫と、夫側の家族、そしてベトナムにいる阿紫の家族、それぞれの苦悩が丁寧に描き出された。メガホンを取ったのはウー・ユーイン(呉郁瑩)監督。ウー監督は授賞式には出席しなかった。
「社会的少数者を題材に、大きな思いやりの心で撮影対象者に寄り添った。記録者が社会の底辺にいる人物の困難に向き合う際に、真摯な勇気がそこにはあり、現代社会における重要な一面を見せた」と評価された。同作は編集賞も受賞した。
武力紛争下でミャンマー政府に徴用され、逃亡中に捉えられた子ども兵士の苦しみを描いた作品。史実を基にしている。監督はロー・チェンウェン(羅晨文)。
「長編作品の構造で作品を作り上げ、乱世における命の卑しさと虚しさを表現した。シーンの流れがスムーズで、完全に叙述された」と評価された。
真っ暗なトンネルで緊急停車した観光列車に招かれざる客がこっそり乗り込んできてーーという物語の約15分間の作品。「多重的な技法によって、独特で、古典的かつSF風な世界観を描き出した。アニメーション技術が成熟し、物語の構造が完全であり、細部に驚きが散りばめられた」と受賞理由が紹介された。
今回の授賞式では2つの大きなサプライズがあった。
オープニングでは、出席が公表されていなかった女優でモデルのリン・チーリン(林志玲)が突如として登場。人気グループ「EXILE」のAKIRAとの結婚後は公の場に姿を見せることが少なかったため、視聴者を驚かせた。
(名切千絵)