(台北中央社)俳優・作家・歯科医の一青妙さんが今年7月、自身初となる長編小説「青色之花 解謎~三人の娘~」を台湾で出版した。このほど中央社の単独インタビューに応じ、作品への思いや創作の裏側を語った。
作品は白色テロの時代に翻弄(ほんろう)された学生3人と、彼らを父親に持ち、それぞれの悩みを抱えながら現代を生きる女性3人の物語。
小説ではあるが、当初は父親の顔恵民さんや自身のルーツである日本統治時代に鉱業で繁栄した基隆顔家に関するノンフィクション作品を執筆する考えだったため、内容には現実と重なる部分が多い。主要登場人物の6人にはそれぞれモデルがおり、現代を生きる女性の1人、岡部笹は一青さん、学生の1人で笹の父親である藍瑞山は顔恵民さんとリンクし、第2次世界大戦後に顔家が直面した境遇の一端がうかがえる。
父親や一族のことを題材にしようと思ったきっかけは、家族について書いたエッセー「私の箱子」(2012年出版)。関連の資料を探し、さまざまな人から話を聞いて調べるうちに、台湾のことはもちろん、父親についても自身があまり知らないことに気付き、後になって父親が台湾大学で学んでいた過去や、1949年に中華民国政府が台湾の学生を弾圧した4・6事件に巻き込まれていたらしいことを初めて知ったからだ。
基隆顔家にルーツを持つことについて「誇りに思う」と一青さん。作品を通じて「多くの人に顔家は本当はこうだったということを知ってもらいたかった」と語る。
また、さまざまな人に家族の話を聞くと、どの家庭にも多かれ少なかれ一青さんの家族と似た境遇を持ち、つらい時期があった。「(作品は)顔家の物語ではあるが、全ての台湾人家庭の物語であると感じた」、「このことを書き記すことで、多くの人にも自分たちの家族の物語を振り返ってほしいと思った」。
台湾では読者から、家族がかつて白色テロの被害者だったという声が届くようになった。「台湾に生きる台湾人には皆、市民が弾圧された1947年の2・28事件やその後の白色テロの影響に直面し、それが共通の記憶になっている」と話す。
作中には2・28事件や4・6事件の他、中国とのサービス貿易取り決めを巡り、撤回を求める学生らが立法院(国会)を占拠した2014年のひまわり学生運動に関するエピソードも盛り込んだ。「父親たちの時代と今の状況は違うかもしれないが、理想を追い求める方向性は同じだと思う」と一青さん。台湾と日本、過去と現在の学生運動の違いを示す重要な要素になっている。
初めての小説執筆。当初は日本語で約30万字の大作を書き上げたが、編集担当者らの助言を受けて文字数を大幅に削減した。「以前は見たものや探し当てたものをそのまま書いていたが、その後読者に想像の余地を残したり、読者自身に答えを見つけたりしてもらうべきだということに気付いた」。「書きながら私も学んだ」と笑う。
来年には日本語版が日本で出版される予定。日本人にはあまり知られていないとされる2・28事件や白色テロなどついて「詳しく書いた」とし、「台湾が戦後経験した歴史を分かってもらえる」と自負する。また台湾の読者に対しても、自分たちの歴史を知ってもらい、今暮らしている台湾は白色テロの時代を経験した先輩たちがつくり上げたものだということを知ってほしいと語った。
(齊藤啓介)